第2話 まさかの部屋
ハウスの中を確認していきたいところだけど、気になることが多いので、今見えたであろう存在を出来れば確認しておきたい。
先ほどの感じからして、偶然視界に映ったというよりはハウスの中にいる私のことを観察していたら、たまたま視界に入ってしまったとか、そんなところだろう。
そして、たぶんあれがガーディアントレントドールが言っていたあの子、と呼ばれていた存在の可能性が高い。
そんなことを考えながら、その影が移動していった方へすすむ。既にリビングの中にはそれの気配はない。物陰に隠れている可能性もあるけれど、この部屋に置かれいる物はそれほど多くはないので、隠れられる場所は限られる。
机の影、椅子の影、棚の影、棚の中もざっと確認してみたけど見当たらない。倉庫の方もサラッとだけど見た感じいないようだった。
もう別の部屋に行っちゃったのかな。それとも本当に私の見間違いの可能性もあるんだけど、あそこまではっきり影が見えていたのだからそれはないと思いたい。
まあ、この部屋には居ないみたいだし、他の部屋を見てみよう。
リビングダイニングから別の部屋に移動する。キッチンの所にあったドアは後にして、小さなテーブルの奥にあったドアの先に進む。
出来るだけ相手が移動する道を塞ぐために、部屋に入ったらすぐにドアを閉める。あの影の相手がドアとかを無視できるとかだったら意味はないけど。
ドアを開けて進んだ先の部屋は明かりを取り込む窓が一切ないのかとても暗かった。スキルの[夜目]が効いているので全く見えないということはないのだけど、その効果が有ってもほとんど光が入らない空間では誤差にしかならないようで、奥の方は本当に辛うじて何かある程度にしか物が見えない。
何か光があればいいのだけど、私は[光魔術]は使えないし他に光を出せるようなものは何もない。すぐにドアを閉めたのは失敗だったかも。いや、そう言えば、大昔にろうそくを手に入れた記憶が。今はギルド倉庫の中にあるから思い出しても意味はないけど。
しかたない。見えなければ何も出来ないので、ドアを開けて光を入れることにしよう。
「え?」
そう思ってドアノブに手を掛けたところでいきなり部屋が明かりで満たされた。光源と思われる天井を見れば4か所ほど、光が灯っている場所があった。
これ、私は何もしていない……よね? ドアノブ以外に触れてはいないし、この部屋に入ってから殆ど動いてもいない。人が入って来ると自動で光が付くタイプ? それにしてはつくまでに少しラグがあったけど。
となると、私以外の存在がこの光を付けたということ?
すぐに部屋の中を見回す。しかし、それらしき存在はやはり見えなかった。
「あ」
光がついたことで、薄らと見えていた部屋の中に置かれていた物の存在をはっきりと見ることができるようになった。
「ここ、工房」
明るくなったことで視界に映ったのは、ギルドの生産設備室に置かれている、生産用の大型生産設備だった。
まさか、ここにこういった設備が最初からあるとは思っていなかった。
街でレンタルのクランハウスを借りた場合、こういった設備は一切なくて自分たちで揃えないといけないというのはWIKIを見て知っていたけど、最初から設備のあるハウスがあるという情報を見たことがない。
「おー」
部屋の中ほどまで移動して周囲を確認する。
見る限り、細工と裁縫、鍛冶の設備がある。鍛冶の設備は、ギルドの生産施設に置かれている物と同じような物なので、おそらく最低ランクの物だと思う。細工と裁縫は私が知っている物よりもかなりいい物みたいだ。
出来れば錬金の設備があって欲しかったのだけど、見る限り存在しない。調合のやつも同様。
部屋の中央に裁縫用の作業台。壁際に細工と鍛冶の作業スペースがある。そう言えばハウスの中に入る前に外から煙突がちょこっと見えていたのだけど、その煙突はここにある鍛治で使う炉の物だったのか。
もしかしなくても、このハウスのランク結構高い? まあ庭もあって温室もあるのだから低いわけはないよね。
個人で使うハウスにしては結構広い。さすがにクランで使うには狭いと思うけど、6人パーティーくらいならたぶん使えなくはないくらいには広い。
真ん中のランク5は超えていそう。でも、最高ランクってことはないはず。さすがにこんなに早く一番上の物が手に入るのはおかしいからね。
実は、このハウスの取得アナウンスはまだ聞いていない。一応『仮取得した』というアナウンスはあったのだけど、そこから先には進んでいない状態なのだよね。どうも正式にハウスを手に入れないとハウスに関する情報は一切わからないようで、まだこのハウスのランクはわかっていない。
かちゃり。
部屋の中にあった設備に目を取られているところで小さいながらもドアの開閉音が聞こえた。
「あっ」
想定外の工房に気を取られて、影を追っていたことをすっかり意識の外に放ってしまっていた。
急いで音のした方を見ると、入ってきたドアとは別のドアがほんの少し開いているのが見える。今聞こえたドアの音はおそらくこのドアから聞こえて来たはずだ。
もうちょっとこの部屋を見ていたいところだけど、下手に放置すればどこか見つからない場所に隠れられてしまうかもしれない。すぐに追いかけなけないと。
少しだけ後ろ髪を引かれながら工房から出る。ドアの先はこの部屋とは打って変わってかなり明るい空間が広がっていた。
真直ぐ先にはまた別のドア。そして上を見れば上の階に繋がる吹き抜けになっていて、そこから外の光が中に差し込んでいる。
「螺旋階段」
部屋の中央には大きな木製の螺旋階段が鎮座していた。そしてそれは、上だけでなく下にも続いているのが確認できる。
外から見たハウスの見た目から上の階があるのは何となくわかっていたけど、まさか地階があるとは。現実ではともかく、ファンタジーの世界観だとちょっとワクワクするね。
階段を上る前に正面に存在しているドアの中を確認してみる。ドアを開けて中を確認してみるとさらに2つドアが存在していた。
本当にドアの多いハウスだ。
「トイレ」
うん。普通のトイレ。必要ないので使う予定なし。
何かが隠れている様子もないので、戻ってもう1つのドアの中を確認する。こっちは入口が少し大きめの引き戸。その先は、洗面台らしきものと何も入っていない棚が置かれた3畳ほどの部屋。さらにすりガラスの引き戸がある。
あ、これ洗面所兼脱衣所か。ということはこの先にあるのはお風呂かな。ああうん。当たりだ。
トイレも近くにあるからそれっぽいね。まあ、【生活魔法】の[クリーン]で事足りるから使うことはないと思うけど。そもそもアバターの服って完全には脱げないから、お風呂が有っても意味はないのだよね。
確認が終わったので階段の前に戻る。
螺旋階段の登り口の正面にはもう1つドアがあるのだけど、こっちは位置からしてキッチンに繋がっているドアだろう。
……間違っていたら嫌なのでちょろっと確認してみればやっぱりキッチンの場所に繋がっていた。うん間違っていなかったね。ヨシ。
螺旋階段を上っていく。螺旋階段はかなりがっしりした作りになっているので、上る時に軋むような音は一切しなかった。
2階に上ると、1階とは違い床や壁に白系の木材を使っているようで、光の加減でより柔らかな印象を受けた。
「あ」
螺旋階段を上って廊下に出たところで、廊下の先に小さな影が。
それは上ってきた私の存在に気付いたのか2階にあった2つのドアの内、今私がいる場所から遠い方のドアの中へ慌てた様子で入っていった。
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