第51話 鍵

 

 元のカテゴリがオブジェクトで今はハウジングオブジェクトに変わっているから、これを部分的に復活させるのがあの置物たちの役目だったのかな? それとも、幻影魔法の核も兼ねている感じ?

 今までのギミックからして、幻影魔法って設置型の魔法みたいだし100年という長い期間、魔法を維持するためには色々と工夫する必要があったのかもしれない。


 うーん。しかし、MP枯渇状態ってことはMPを注ぐことで復活するのだろうけど、それと同時に壊れるとかそんなことが…………まあ、ないか。さすがにそんなことになったら依頼が完遂出来なくなるし。


 Duを回復するための能力と思われる[オートリペア]が(損傷)状態というのが気掛かりではあるけど、先に進めるにはMPを注がなければいけないのだから気にしても仕方がない。

 もしかしたらMPを注ぎきったら回復するかもしれないしね。


 それじゃあ、これにもMPを注いで……ん?


 MPを注ぐ始めた途端、目の前の置物……トレントドールのサイズが大きくなった。想定していない変化だったために驚いてMPを注ぐのをやめると同時にそれが大きくなるのも止まる。


 注ぎ終わってから変化が出ると思っていたのだけど、違っていたみたいだ。

 今は50センチくらいかな。元のサイズが30センチないくらいだったから結構大きくなってるよね。

 これDuとかが回復している感じ……ではないのか。元と同じ1のままだし、説明文も変化はないようだ。


 ……大きくなった以外、特に反応はないしまだ動くほどの変化じゃないのかな? これは最後までMPを注がないと動かない感じ? この小さい状態で動いた方が消費MP的に良さそうだけど、一回一定量以上MPを入れないと動き出さないタイプなのかな。

 まあ、この段階で動かないならそういうものなのだろう。しかし、ちょっとMPを注いだだけでこれだけ大きくなったということは、これ最終的に相当大きくなるのでは?


 このままMPを注いでいくとものすごく巨大になりそうな気がして不安になったが、気を取り直してMPを注いでいく。それに伴い、置物のサイズも徐々に大きくなっていく。

 草原の隅にあった置物に比べて少しMPの消費量が多い。既に500以上MPを注いでいるのに大きくなる以外の変化が見られない。


 この分だと倍くらいは消費するかもしれない。

 MPが足りなくなる可能性が高いので、先持ってインベントリから数本MPポーションを取り出しておく。


 足りなくなったら飲めばいいし、足りればそのままインベントリに戻せば……と思ったけど、ここは別にセーフティエリアって訳でもないし、何が起こるかわからないからMPが無くなった状態にしておくのは危険か。

 念のために、今消費している分のMPが回復するだけのMPポーションを使う。



 残りのMPが200を切りそうになったところで、ようやく必要としていただけのMPを注ぎ終えた。

 元からあったMPと回復した分からして消費した量は1200ってところかな。他の者に比べて倍以上必要ということはこれが幻影魔法の核ということなのだろうか。


 ガーディアントレントドールのサイズは優に2メートルを超えて大きくなっており、葉と思われる部分もさっと広がっている。最初の小さな置物の姿は影も形もない。

 その辺で出て来るモンスターのトレントとは違って、このドールには口らしき場所はない様子。一応目に当たるっぽい場所は見えるけど、少し高い位置にあるからしっかり確認することが出来ない。 

 しかし、【鑑定】した際の説明にあった経年劣化の影響か、それともDuが1の影響なのか、ガーディアントレントドールの表面には無数のひび割れが存在していた。


 樹皮を模したひび割れもあるけど、それ以外のひびが酷いね。これが劣化しているってところなのかな。

 でもDuが無くなりかけた武器もボロボロな見た目になるらしいから、Duが1のせいかもしれない。


 さて、これで他の置物と同じように必要量注ぎ込んだ目安として、置物 ―MPを注ぎ込んだことで置物といえるサイズは超えているが― からうっすらと光を発しているのであとは何が起こるかを待つばかりなのだけど…………動きが一切見られない。

 

 うーん。反応なし? もしかして他の何かをしないと先に進めない面倒な感じなのかな。ここまできて先に進めないと言うのはあまりないと思うのだけど、ただでさえ厳重に隠されているハウスだから絶対にないとも言い切れないのだよね。


『――鍵を示せ』

「ぬゅ?」


 おお? 何か聞こえたね。と言うことはしっかり先には進んでいるのか。

 他に声を掛けて来るような存在は周囲にはいないはずだから、声の出所は今MPを注いで大きくなったガーディアントレントドールからのものだろう。


『資格あるものよ。鍵を示せ』


 こいつ直接脳内に・・・!


 ってまあ、口というか発声器官らしきものは見あたらないから、念話というか直接脳内に話しかけるような感じになるのはおかしいことではない。他のゲームでも同じような演出はあるし、特別驚くようなことではないよね。

 フルダイブ物のゲームとテキストが表示されるゲームでは、感じかたに大きな違いはあるけれども、RPGだとよくあることだよね?


 ともかく、鍵か。

 資格はまあ、この依頼を受けられるのはヴァンパイア(純血)だけだからそれのはず。そもそも持っていると言われているのだから考える必要はないのだけど。

 他にそれっぽい物はないし、鍵はあの本のことかな。


 一通り読んだ感じ鍵っぽい要素はなかったと思うけど、一部のRACEにしか読めないよう細工をしてあったということは、あの本は魔道具ということだろう。

 なら鍵としての機能を持っている可能性はある。最悪、別途鍵を探し出さなければならない可能性もあるけど、そうだったら残念だけど今回ハウスを手に入れるのは諦めるしかない。


 まあ、ここのハウスを手に入れられる資格持ちのプレイヤーは現状私だけのようだし、多少遅くなっても横取りされると言うのはそうそう無いはず。

 そう言うのがあるから安心はできるのだけどね。でも、目の前にレアなアイテムなり要素があれば、ゲーマーならやっぱり少しでも早く手に入れたいって気持ちになるよね。


『資格あるものよ、鍵を示せ』


 何か急かされてる? 

 ふ-む、この元置物、ガーディアントレントドールは同じ言葉しか話せない感じなのかな。UWWOだと珍しいけど、質の低いAIが積んである感じなのかな。いや、そもそも創作物であるドールに一般NPC並みのAIが積んであったらそれは相当すごいことなのだけど。

 まあ、色々話されても対応に困るからその方が良いのだけど。


 インベントリから[古きヴァンパイアの日記]を取り出し、ガーディアントレントドールに近付けてみる。


 示せってことだから見せる感じで良いのだよね?


 [古きヴァンパイアの日記]をドールの目の前まで持っていくと、今までピクリとも動いていなかったガーディアントレントドールが軋むような音を立てて動き出した。


 これで合っていたようだ――って、あっと、あーそうくるのかぁ。


 ガーディアントレントドールの枝、おそらく腕として使っている部分が差し出した本を確認するために伸びて来たのだけど、その拍子にガーディアントレントドールの枝からポロポロと何かが落ちていった。



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