良い素材、おいしい料理!
何という企画だったのかは忘れましたが、料理系の企画で書いた短編です。
パラレルワールド|д゚)
――――――――――
電子世界。いや、ゲームの中の世界でも料理は作ることは出来る。
現実の胃の中が満たされるわけではないものの、技術の進歩により味は現実と同じように感じることは出来るようになっている。
「さあ、今回作るのは『アグニス鳥のクレープ包み揚げ』ルート〇アを添えてです」
全く表情は変わっていないが声色だけ少しテンション高めのアユがそう宣言する。どうやら昨日見た番組の影響を受けているのだろう。
「わぁーわぁー、え? ちょっと待って。最後に変なの入っていなかった?」
アユが最後に足した飲料はある意味有名な物だ。当然いい意味で、ではない。いや、ネタとしてはいい意味なのかもしれないが、普通に飲み物として考えればやはりいい物ではない。
と言うか、飲料は添える物ではないのでは?
「入っていない」
「いやいや、最後に足した飲み物、おかしいでしょ」
あれは普通にまずい。飲める人が居るのも知っているし、好んで飲む人もいるだろう。しかしあれは万人受けする物ではないし、飲めないという人の方が多いのではないだろうか。
そんな物を当たり前に入れていくアユに戦慄を覚えた。
「そもそもこの世界にあれあるの?」
「有志による制作物」
「マジかよ。あるのかよ……」
アユが取り出したアイテムを見て、どんな場所にも物好きが居ることを理解した。いや、何処にでも物好きは居るし悪乗りをする奴らも居るからおかしい事ではないのかもしれない。
って俺の方に差し出してくるってことは飲めという事か!?
ぐいぐいそれを押し付けながらも心なしかうきうきしているようなアユに逆らえず、俺はそれを受け取ってしまった。いや、表情は変わっていないんだけどさ、圧がね。
「うっわ。湿布ぅ。まっずいわ。本当によく再現したな」
現実の物と同じ味がする。どうやって再現したのか知りたいとは思わないが、生産職の執念を感じた。
「では確認も済んだようなので、料理を進めて行きましょう。今回使用する素材はこちら」
俺の反応を見て満足したのかアユは材料の説明に移った。
・霊原小麦 Ra:Uc Qu:A 霊界草原に自生する小麦
・ネレナル牛のミルク Ra:Uc Qu:A ネレナル牛の牝牛から採取できるミルク
・アグニス鳥の肉 Ra:Ep Qu:A 大怪鳥アグニスの胸肉。あの見た目に反してこの肉はしっとり柔らか
・アグニスの卵 Ra:Le Qu:S 大怪鳥アグニスの卵。通常の卵の10倍の大きさ
・マンデュラグラァ Ra:Ep Qu:A ギリア火山の中腹に生える香草 抜いても叫ぶことはない
・マイルド梅ぇ~干(`*′)(PM) Ra:Uc Qu:A とあるプレイヤーが作った梅干し。マイルドな酸味と旨みが癖になる
・ニャ-ニャ草 Ra:Uc Qu:A 猫系エネミーを惑わすことに使われる香草 料理に使うことも可能で加熱するとすっきりとした香りが変化する
・ウサギ殺し Ra:Uc Qu:S 名前の由来はウサギ系エネミーを虜にする香りを発しているため。獣人には効果はない。加熱すると香りが変化し、さっぱりとした香りになる
・パツ金ゴマ油 Ra:Uc Qu:S パツキンから獲得できるゴマから絞り出した油。普通のごま油より香りは薄いが、食べた時のすっきりとした風味が良い
・その他:香草類・調味料各種
「おお~、って
「自分で取りに行った」
「え?」
無表情ながらも背後に、キリッ! という効果文字が浮かんでいそうな感じでアユが俺の方に顔を向けた。
地力でって、たしかアグニスの卵を手に入れるには巣を壊さないようにアグニスをほぼ封殺しなければいけなかったよな? しかもこのQuとなると巣自体も無傷じゃないといけないはず。
いや、あいつって第8エリアのレアエネミーだけど第8エリアの裏BOSSって言われるくらい強かった記憶が。今なら普通に勝てる程度にはなっているが完全封殺は無理だろう。
そういうのに特化した奴じゃないとQu:Sで取れる奴は居ないだろうから、おそらくプレイヤーで取れる奴は数人しか居ないんじゃないか?
「それでは調理を開始します」
そう言うとアユは料理を始めた。さすがに調理中に話をする気はないのか口を開くような気配はなかった。
ついでに俺はアユの横で待機しているがスキルの影響を考慮して手伝うことはない。まあ、多少道具を移動させる程度の手伝いはするが、料理に関わることはない。
スキルを使って小麦を粉状(おそらく薄力粉)にしミルクと溶いた卵を混ぜ合わせ、クレープ生地を作っていく。デザート用ではないし最終的に揚げるので砂糖は入れないらしい。一瞬それはガレットではないかと思ったが、卵が入っているから一応クレープかと思い直す。そしてフライパンを使い生地を焼いて行く。クレープを作り終えると、冷ますためかその生地を一旦横にどけ別の作業に移る。
次にするのは肉の下処理だった。特に下味をつける様子はなく、要らない部分を切り取りつつも生地で包みやすい大きさに整え、蒸篭に入れていく。
先に蒸し焼きにしておくのか。そう言えば加熱が甘いと生焼けになってQuが下がる時があるって言っていたからその対策か?
肉が蒸し上がるまでの間、付け合わせを作る作業に移った。香草を適当なサイズに切り分け、えぐみなどを抜くために湯がく。この段階でかなり良い香りが漂って来る。アイテムの説明通りすっきりさっぱりとした香りだ。食欲をよりそそられるようなものではないが、最終的に油で揚げるのであればガッツリ系の匂いよりは良いのかもしれない。
梅干を潰し梅肉ソースを作る。これはおそらく肉の上に載せる物だろう。後付けではなく包む前に使う物かな。卵黄ソース的な物もつくっているので、そっちは後からかける物だろう。
胸肉が蒸し上がった。アユはそれを取り出すとすぐにクレープの上に置く。そして梅肉のソースを塗り、その上に香草を載せ、クレープ生地で包んで行く。
この間にかかった時間はなんて2分! スキルアシストによる高速調理は伊達ではない。
そして前もって温めておいた油にクレープ生地で包んだ胸肉を解けない様に慎重に投入。
ぱちぱちと油で揚げている音が聞こえ、同時にごま油の良い香りが漂う。
そして、揚がるまで待機した上で油から取り出し、余分な脂を落とす。
クレープ生地がこんがりと上がり良い色味になっている。
それをさらに盛り付け、付け合わせの野菜を添え、卵黄ソースを……かけずに皿の空いている部分に添える? 見た目的な物か? いや卵黄ソースについて俺よくわからないからあれだが、上げたばかりの物の上にかけるのは駄目なのかもしれない。
そうして完成した『アグニス鳥のクレープ包み揚げ(PM)』が俺の前に置かれる。そしてついでのごとくルー〇ビアがその隣に置かれた。これでジャスト3分って、また飲ませる気か!?
「いただきます」
ついでに置かれた飲料は無視して、料理に手を付ける。
油で揚げたことでクレープ生地の表面はカリカリになっているが中身はしっとりしているようだ。ただ、そのまま食べるのは難しいので既に半分に切られており、その断面から見える香草が目に映える。
一口食べた段階で、ある欲求が沸き上がる。
ご飯が欲しい。パンでもいい。と思ったがやっぱりご飯だな。
あー、だけどバフの関係で食べれないんだよな。この後、フィールドに出るから、得られるバフを無駄にすることは出来ないし。つれぇ……
「うん。まあ、わかっていたことだけど普通に美味い」
極々稀に発生する罰ゲームの如き不味さの料理もあるが、アユの作る料理の大半はとても美味しい。今回の料理過程でもいい香りが漂い続けていたし、不味くなる要素は何もなかったから想像通りの美味しさだ。
「普通ぅ?」
背後から不穏な気配が漂って来る。ああ! そう言えば普通は禁止ワードだった。それを思い出した俺はすぐさま追加の説明を追加した。
「今の普通は、あくまでも想像通りの美味しさという意味であって、別に不満がある訳ではないです。いつもと同じように美味しゅうございますぅ!」
「そう」
背後から不穏な気配は去ったようだ。
「あれ、何か変なバフ付いた」
「ステアップしかなかったと思うけど?」
「いやそれは付いているけど」
「うん?」
『アグニス鳥のクレープ包み揚げ(PM) Ra:Le Qu:S』効果:食べてから3時間、STR・VIT・MND・AGIが中上昇する。応援されるとやる気が上昇する。
この効果、意味あるか?
―――――
今作限定効果
調理手順は適当
※素材・制作物の価格は省略
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