第18話 ふぁっ!?

 

 ※ファルキン視点です

 ―――――


 ピコン!


 村の復興作業を進めているところで何かの通知が届いた。作業自体アイテムをインベントリから出した状態で運んで積み上げる、などの単純作業ではあるがさすがに作業をしながら通知の確認は出来ない。


「ちょっとすまん」


 一緒に作業していたエンカッセたちに断りを入れて作業を中断する。メンバーが横目で俺の事を見ているが作業の手は止めることはなかった。


「んー……フレンドチャットか」


 何の通知なのかシステムボードを出し確認するとフレンドチャットに1件の通知が届いていた。

 誰からの連絡かと確認すればアユのNAMEが表示されていた。料理をトレードしてもらったのは少し前ポーションも同様。だとすれば、消去法でチャットの内容を推察できる。


 おそらく俺が注文したナイフが出来たのだろうとコメントを確認すればSSのみ。いつもだったら何かしらのコメントがあるはずなのにそれが無い。

 少し嫌な予感がする。


 基本時にアユはこういった取引の時は何かとコメントを付ける子だ。説明文なり何なり。ぎーんが買った短剣の時も能力の割に高い、とか、しばらくすればこのくらいの短剣は出そうとか、そんな感じの忠告じみたコメントが同時に送られてきていた。


 しかし、今回はコメントなし。

 こういうパターンは大体アユ自身が目を逸らしたい何かがある場合がほとんどだ。過去の例で言えば、性能が想定よりもかなり低い、逆のパターンで異常に性能が良い、あとは適当に作った所為でデザインが微妙などだな。


 過去の事を思い出しながら恐る恐るSSを確認する。

 アイテム名は毒の鋼ナイフか。性能は……おお! めちゃくちゃいい。ぎーんが買った短剣よりもSTRが高いナイフとか信じられないがしっかりとSTR+44とSTR+18が記載されている。AGIも上がるし風属性耐性もついている超高性能ナイフだ。


「ふぁっ!?」


 SASを見た瞬間驚きのあまり声を上げてしまう。いや、それくらいに衝撃的な価格だった。


 一十百千万……56万!? ちょっと待て! ぎーんが買った短剣は約12万と普通ではありえないSASだった。たしかに相応の能力を持ってはいるが、それでも高い物は高い。


 しかし、これは……

 おそらく現段階で手に入る性能のナイフではないのだろう。アユが普通ではやらないような手段を使って無理やり作れているだけで、普通に作れるようになるのはもう少し先なのだろう。


「いや、まっ、うぇえ」


 確率とは言え状態異常:毒を付与出来てSTR+62・AGI+20・風属性耐性(微)となれば、破格の性能だ。しかも本来低性能のナイフで、だ。

 少なくともこれを手に入れれば、今まで同格だったプレイヤーから一歩抜きんでることが出来るだろう。


「ふおおぉおぉ……」


 買えるなら買いたい。しかし、圧倒的にASが足りない。

 手持ちは最近街に戻っていないためアユと素材の取引をしていて稼いだASと 、前にギルド金庫に預けて来るのを忘れていたものを合わせて25万ほどあるが、それでも半分に満たない。ギルド倉庫に預けてあるASを引き出したとしても40万ASに届かない額しか俺は持っていないのだ。


「足りないィ」

「どしたー」


 俺の様子が変だったのか、ジュラが心配そうに俺の所に来た。他のメンバーもこちらを気にしている様子が見える。

 俺が手元で表示しているSSをジュラが見ようと覗き込んで来たので見え易いようにボードを傾ける。


「ん? ああ、これってアユちゃんに頼んでいたナイフ? 出来たんだ。え? 性能すご……ひぇっ?!」


 ジュラもSASの所を見たのか小さく悲鳴を上げた。その様子を見て他のメンバーも集まって来る。


「何か驚くような物でもあったのか? どれどれ、お! めっちゃ性能良いじゃん! これなら俺も欲し……い? ……百千……562,860!? はあ!?」


 俺の後ろからボードを覗き込んでいたふとももがSASに驚き大声を上げた。耳元で声を上げられたせいで耳が痛いが、それ以上に他のプレイヤーに聞こえるような声を上げるのは止めろ。掲示板でポロっていた俺が言う事ではないが。

 そう言えば掲示板の音声入力に修正が入っていたな。プレイにはあまり関係ないから今まで忘れていたが。


「おい、ファルキン。お前これ買えるのか?」

「ムリィ。25万しか持ってねぇ」

「意外と持ってるのな」


 どうあがいても買えない。ギルドまで戻れば話は変わるが、今の他メンからASを借りても足りるかどうか。


 ぎーんの短剣が12万だったから、基本短剣よりも安くなるナイフならどんなに高くても同程度のASになるだろうと考えていた。が、結果は推して知るべし。

 まさかこんなに高額な物を作って来るとは。いや、強いナイフを作ってくれたのは有り難いけどさ。


 ああ!? と言うか短剣を買った後のフレンドチャットで『出来る限り強いのが望ましい』とか『出来る限り最高額で買う』とか自分で言ってたわ。というかそれがフレチャのログが残っている。という事は、これが出来たの俺の所為じゃん!

 そうだった。アユって要望は忠実に守るタイプだったよな。だから俺の発言を元にこれが出来たって訳で。しかもアユって限界に挑戦するのも好きだったなぁ……


「自業自得ぅ」

「え、何いきなり」


 ジュラが変なやつを見る目で俺を見ているがそれを無視する。

 あー、そうだよ。予め出せるASに限度を設けておけばよかったんだよ。今更だけどさ。とりあえずアユと交渉することにしよう。分割にするか、素材払いにするか……






 アユとの交渉が終わった。まあ、交渉らしい交渉はなかったけど。

 フレンドチャットでの取引では分割払いが無理そうだったので、ナイフは前払いで25万AS。残りは素材払いという形になった。そして手元には56万のナイフが……


 即座にサブ武器を付け替える。そしてステータス欄のSTRが劇的に上昇。AGIもかなり上がって気分も上がる。が、56万という言葉が脳裏に過り気持ちが落ちる。


 足りない分は素材払いにしてもらったとは言え、実質借金。いやローンか? とりあえず足りない分はすぐにでも補充しなければ! 


 借金は駄目、絶対。……時と場合によっては可だけど、なるべくしないようにしなければならない物だ。した場合はさっさと返すに限るよな。変な心配をしなくてよくなる。まあ、アユが変な事をすることはないからその辺りは安心できるけど。早めに返すに越したことはない。


「あたくし、素材を狩りに行って来るでザマス!」

「は?」

「素材払いですの! だから素材狩って来るのですわ!」

「ファルキン、ステイ」

「……はい」


 今すぐにでも素材を取りに行きたいところなのだが、エンカッセに止められた。他のメンバーも止める側に居るっポイ。まだ付き合いの浅いリラは状況がよくわかっていないようだが。


「素材払いって言うのは、アユちゃんが作ったナイフをそういう形で買ったという事で良いのか?」

「手持ちのASと素材払いという形です」


 何故か尋問されている気分になってきた。おかしい、別にやましい事をしたわけではないのだが。


「それでその素材払い用のアイテムを今から取ってこようと」

「そうです」

「なるほど」


 エンカッセはそう言うと暫し沈黙した。何かを考えているのだろうが、エンカッセはこうやって考え込むことが多い。


「とりあえず、お前が素材を取りに行きたいのはわかった」

「じゃあ」

「だが、今やっていた作業を終わらせてからだな。その後なら素材集めに行っていい。ただし他のメンバーも一緒にだ」

「ウィ。了解っす」


 ですよねー。1人じゃダメですよねー。

 復興も進めるべきだから1人でって思ったんだが駄目か。そもそも1人で第3エリアのエネミーを狩るのは大変だし効率が悪いから一緒に来てくれるのは有り難いんだけどさ。


 うーむ、とりあえず作業に戻ろう。元々中断していたからな。それに早めに終わらせて素材を取りに行けるようにしなければ。




―――――

ピコン!

ファルキンの所持金が2桁になった!

ファルキンは借金(借素材?)持ちになった!

ファルキンは(現状)最強のナイフを手に入れた!


※現在の1陣プレイヤーが所持しているASの平均は大体300,000AS。大抵はギルド倉庫に預けているので手持ちは10,000ASくらいが普通。

アユはPKKの結果、異常にASを持っている。他のPKKも沢山ASを持っているが使い道が無いのが現状。アユ以外にも生産職のPKKは少ないけど居る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る