第13話 エンチャント×10

  

 委託で適当に短剣を買う。

 どうやら新規プレイヤーが製作物を流しているらしく、低Quの短剣がそれなりの数存在していた。


 Quが低かったとしても試しに使う分には問題ないよね。とりあえず10本購入して簡易エンチャントを試していこう。


『簡易エンチャントを実行します。

 エンチャントするアイテム:銅の短剣 Qu:F

 エンチャントに使用するアイテム(0/1):選択してください』


 なるほどこんな感じになるのか。割とわかり易い感じでよかった。普段の錬金と同じようにするとなると混乱するかもしれなかったから、テンプレート的なシステムがあるのは有り難い。


 今更だけど前に作った毒の短剣とかってどういう扱いだったのだろうか。エンチャントと合成は別扱いなのか、同じだけど方法が違うだけなのか、どちらなのだろう。いや、他の可能性もあるけど。


 まあ、いいか。

 とりあえず適当な素材を選んでエンチャントしよう。


 素材はどうしようかな。まあ、適当に余っている奴を選んでみればいいか。となれば使い勝手が微妙な割に数が多めな[ベアの毛皮]あたりでいいか。それより下となると【裁縫】の熟練度上げで結構使っているし、エンチャントするにも微妙そうな感じだよね。

 あ、いや待った。[熊の爪]方が今のところ使い道が無いな。たぶん【細工】で使う素材だろうけどまだ当分使えそうにないしそっちにしよう。


『エンチャントに使用する素材に[熊の爪 Qu:D]が選択されました』


 そうアナウンスが表示されると同時に錬金台が光りを発し始める。これは【錬金】で合成をする時と同じ反応だ。



[(武器)銅の短剣+ Ra:C Qu:F Du:50/50 SAS:1,210]

 銅で作られた短剣。銅で作られているためやや耐久値が低めだが、その分価格は安い。後付けで能力が追加されている

 追加能力:STR+10  強化者:秘匿

 装備効果:STR+8 



 ふむ。追加能力か。要するにエンチャントしてある=追加能力付き、という事だよね。アイテム名の後ろについている+はエンチャントしてあることを示すものかな。たしかバフ付きの料理にも同じように+がついたはずだし。それと、最初に毒の短剣を作る前に見つけた炎属性のナイフはエンチャントの結果作られた物だったということだね。


 それにしても毒の短剣の時は追加効果で、今回は追加能力。別物扱いという事か。

 とすれば毒の短剣にさらに毒属性をエンチャント可能? それとも同属性は不可なのだろうか。その辺も試してみないといけないね。それと素材のQuによって追加能力が変わるかどうかも調べた方が良いよね。選択したアイテム名の後にQuが表示されていたからほぼ確実に影響するだろうけど。




 何度かエンチャントを繰り返し、ある程度の仕様は調べることが出来た。


 基本的に素材であれば何でもエンチャント用の素材として使用できる。さらに同じジャンルであれば武具もエンチャント用の素材として使用可。ただし、エンチャントしても能力は上がることは無くDuが少し上がるだけだった。


 素材のQuは高い方が良いっぽい。まあ、予想通りと言えばそうだけど。熊の爪だと先にエンチャントした通りQu:DでSTR+10なのだけど、Qu:BでSTR+14になる。増加量としては微妙だけど、素材によって上昇する数値は違うだろうからQuは高いに越したことはないだろう。


 それで合成済みの武器にさらにエンチャントを掛けることは可能だった。ただし、合成に使った素材とエンチャントに使う素材は同じものを使う事は出来なかった。しかし、別素材であればデストリマッシュと合成して作った毒の短剣にペテュードの毒腺という同系統の素材をエンチャントすることは出来た。

 この場合の効果は、追加効果と追加能力で別記載になっている。おそらく同時に効果を発揮し相手に与える状態異常:毒のスタックは2つの合計になると思われる。その辺りは試していないから定かではないけど。


 エンチャントするアイテムは別に武器・防具・アクセサリーではない普通の素材でも出来た。ただ、エンチャントしたところでアイテムの見た目や説明文は一切変わることはないので、同じアイテムに重ねられるかどうかでしか判断は出来ない。

 このエンチャントされたアイテムはどうやら内部値が変化しているらしく、このアイテムをエンチャント用の素材として使用すると、元の追加能力よりも強い効果を付けることが出来る。


 そこでちょっと気になったというか、悪乗りしたというか、何処までエンチャントが続けられるのかを試してみたくなってしまった。


 簡単に言うと、AをAでエンチャントして、そのAでエンチャントされたA+をさらにAにエンチャントして――みたいな感じでエンチャントを繰り返してみた。

 結果的に10回繰り返したところで、『これ以上、同じ素材によるエンチャントは出来ません』というアナウンスが出てエンチャントは出来なくなった。

 だけど、アナウンスの内容から他の素材でならエンチャント出来そうだよね。まあ、今回は切りがないからそこで止めたけども。


 それで、そのエンチャントを続けた素材を銅の短剣にエンチャントしてみた。さすがにエンチャントし続けた素材を使うので銅の短剣はQu:Cの物を使った。



[(武器)銅の短剣+ Ra:C Qu:C Du:80/80 SAS:8,480]

 銅で作られた短剣。銅で作られているためやや耐久値が低めだが、その分価格は安い。後付けで能力が追加されている

 追加能力:STR+24 強化者:秘匿

 装備効果:STR+12 



 STR+24が熊の爪の限界なのか。今回はQu:Cの熊の爪を使ったからQu上げればもうちょっと上がりそう……かな。

 それにしても合計すると基本性能の3倍のSTRになっているのは凄いね。


 で、まあ、こんな感じの物が出来たから欲が出て来たというか、沢山あって使い道があまり思いつかなかったオルグリッチの鉤爪を、エンチャントし続けたらどのくらいの性能になるか、気になってしまったのだよね。

 とりあえず沢山余っているから丁度良いと思ってエンチャントし続け、毒の短剣を作った上で、それをエンチャントしてみた。


 それで出来上がったのがこれ。



[(武器)毒の短剣+ Ra:C Qu:C Du:105/105 SAS:106,700]

 毒属性が付いた鉄製の短剣。元は鉄のみで作られた普通の短剣だったが、錬金で合成された際に毒性を含む素材が使用されたため毒属性が追加された。この短剣による攻撃が相手の体に直接当たった場合、毒属性の元となった素材と同じ効果を発揮する。また後付けで能力が付与されている。

 追加効果:攻撃が相手の体に直接当たった場合、40%の確率で毒(4)の状態異常を与える。

 追加能力:STR+36 AGI+22 強化者:秘匿

 装備効果:STR+22



 ちょっとやり過ぎたかもしれない。

 いや、RaとQuの割にSASが高すぎる。それに性能も短剣としては破格だけど、他系統の武器であれば合計値くらいの性能がある武器もあるのだよね。大剣とか斧とかの両手武器だけど、SASもこの3割くらいで。

 正直、微妙と言えば微妙。いや、性能だけ見ればかなり良い物だけどね? やっぱりSASが高いよね。それに、もう少し時間が経ったらSASの割に性能低いとか言われそうだ。


 他に作ったやつは邪魔だから専用委託に流すけど、性能は良さげなのでさすがにこれをこのまま流すのは躊躇う。流せばすぐに買うプレイヤーは居るだろうけどちょっとなぁ。でも自分で使うかと言えばそうでもないし。


 ……まあ、委託に流さないで兄に押し付ければいいか。あ、でも前に売ったのはナイフだった。忘れてた。

 買ってくれなかったらギルド倉庫行きかな。




―――――

……在庫処分?

ついでに同じ素材でエンチャントし続けた素材を別の素材でエンチャントすると内部データが上書きされます(それまでにエンチャントした素材が無に帰す)。合成でQuを上げてエンチャントで最大まで底上げするのが最適解。ただし、割に合うかは別。


現段階での短剣の最大装備効果はSTR+46・VIT+6

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