第5話 書庫について聞く

 

 アップデートと2陣が来た翌日。

 私はウエストリアやイスタットではなく、元から決めていた通りサウリスタの総合ギルドに向かうことにする。


 昨日はPKKと生産にほとんどの時間を使った。

 初心者用に基本価格のASに設定した生産は、当然あまり利益は出なかったけれど、PKKの方でかなりのASが稼げたので良しとする。


 昨日倒したPKerは10数人。その内、賞金が付いていたのは半分以下の6人だけだった。まあ、初心者支援が主な理由だったしこれだけ倒せただけでも十分だとは思う。


 ギルド倉庫の入金ログを確認したところ、最高額が800kで次点が640k。残りを合わせた合計は約2.2Mとなかなかの額になった。

 これで十分な利は得ることが出来た。


 ただ、残念なことはPKKをしている内にPKerたちが狙われていることを気付いたのか把握したのか、PKKが多数出ていると情報が出回ったらしく早い段階で出て来なくなってしまった。

 なので、PKKをしていた時間は精々2時間ちょっと。その間に10人以上倒せたのは十分な成果だったけど、もう少し時間があればもっとASを稼げたと思うと残念でならない。


 まあ、掲示板で確認した限り、初心者狩りをしていたPKerの大半は愉快犯的なプレイヤーが多かったみたいだから、即逃げされたあの結果は妥当と言えば妥当かもしれないけれど。


 生産の方はPKKの後に一度セントリウスのギルドに戻って確認したところ、最初に委託に流していた物はすべてはけていたので新たに作ることにして、初級ポーションとウエストポーチをひたすら作っていた感じ。


 初級ポーションは【調合】スキルを使って作った。【調合】はもう少しで2次スキルなのでポーションを作る時は率先して使っている。まあ、作ったのは初級ポーションだけだから熟練度はあまり上がらなかったのだけど、それでも足しにはなった。


 そんな感じで昨日は終え、今日はサウリスタのギルドにあるギルド書庫に向かっているわけだ。


 目的は昨日の段階で判明したギルド書庫にある生産系のレシピ。

 無くても不自由がある訳でもないけれど、あるとわかっていて無視することは出来ない。それにWIKIで見ることが出来るとはいえ、そのレシピを覚えるには1度作る必要があるのだ。

 しかし、ギルド書庫でそのレシピを見れば自動的に覚えることが可能で、一々要らないアイテムを作る必要が無いというのはとてもありがたい。



 セントリウスから転移石像を使い転移する。

 サウリスタの街に着くと朝一という事もあり、転移石像の近くにある噴水広場にはプレイヤーの数は見える限り10数人程度と少なかった。


 とはいえ、今は少なくとも時間が経過するごとにプレイヤーの数が増えることはわかっているので、さっさとギルドに向かう。


 サウリスタのギルドは他の街のギルドとは異なり、街の中心に近い場所ではなく、港に近い場所に位置している。

 これはサウリスタのギルドが漁業関連の依頼が多い事と、歴史考察プレイヤーによるとサウリスタ自体が漁村から発展した街であり、最初期からこのギルドが存在しているため、この位置に存在している。らしい。


 まあ、そんな感じでサウリスタ自体、漁業が主な収入源であり主業の国という設定がある。だからそのプレイヤーの話は嘘ではない、というか間違いでも無い気はする。


 そんなことを考えながらギルドの中に入る。ギルドの中は外と同じようにほとんどプレイヤーの姿はなかった。


「あの、すいません」

「ようこそ総合ギルドサウリスタ支店へ。何かご用でしょうか?」


 ギルド書庫の話を聞くためにギルドにある生産施設の受付の女性に話しかける。


「ギルド書庫……について聞きたいのですが」

「ギルド書庫ですか。少々ギルドカードの確認をしてもよろしいでしょうか?」

「あ、はい」


 ギルドカードを受付の女性に渡す。女性はギルドカードのJOB欄を確認しているようだ。


「うん。問題はなさそうですね。これはお返ししますね」

「はい」

「それで、ギルド書庫ですが、そちらの説明を受けたことはありますか?」

「ないです」


 返却されたギルドカードを受け取りながら質問に答える。


「でしたか、こちらで簡単に説明させていただきます。詳しい説明は書庫の方で聞いてください」

「わかりました」

「総合ギルドのギルド書庫は基本的にギルドに所属している方で生産スキルを所持している方なら、誰でも使用することが出来ます。

 使用する際の費用などは一切かかりません。ですがギルド書庫内にある書物は外に持ち出すことは出来ませんので注意してください。保証金制度もありません。また、書庫内では原則スキルの使用は出来ませんのでそちらも注意してください。

 最後に、書庫内の書物を破損させた場合は、賠償金を払う必要があります。それを払うまではギルド書庫内に入る事は出来ません。ギルド書庫内に存在する書物の中には古い物もありますので細心の注意を払った上で閲覧していただきますようお願い致します。

 先ほども言いました通り、詳しい説明や書物のある場所などは書庫内に司書が居りますのでそちらに質問してください。

 説明は以上になります。何か質問などはありますか?」


 怒涛の説明って程でもないけど一気に説明された。

 とりあえず、本は外に持ち出せなくて壊したら弁償。古い本もあるから大事に使って、詳しい説明とかは司書に聞くと、こんな感じか。

 特に問題はなさそうなので、質問はしないでも大丈夫かな。


「改めて質問したいことが出来た場合は司書の方へお願いします。それでは書庫の場所になりますが、そちらの階段から上った先にありますので」


 そう言って受付の女性は受付カウンターのやや後ろを指差した。


 その受付の女性が指差した先に階段らしきものはなかったと思い内心首を傾げる。記憶上、生産工房以外にそれらしきものはなかったと思うのだけど。


 そう思いながら受付の女性が示した先を見る。するとそこには先ほどまではなかった階段が現れていた。


「え? あ、ありがとうございます」


 その光景に少しだけ驚き、少しだけ言葉に詰まった。


 これはあれか。説明を受けるとかの特定の条件を満たさないと現れない系の施設。生産工房とかもこれっぽかったけど、ここまで露骨に変化しなかったから特に驚きはなかったのだけど、これはちょっと驚くね。


 とりあえず、ギルド書庫へ入る事が出来るようになったので早速書庫の中に向かってみることにしよう。

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