第6話 ギルド書庫
受付の女性に示された階段を上り切るとほんの一瞬視界がブレた。
時間にすれば0コンマ1秒未満。瞬きをしていたり他の事を考えていたりすると知覚できない程度のものではあったけれど、そうでなければ他のプレイヤーでもわかる程度には視界がブレた。
同じような事がBOSSエリアの出入りや生産工房の部屋に入る時に起きているし、掲示板の情報でもギルド書庫は特殊エリア扱いと記載されていたから、特に驚くようなことはなかった。
ギルド書庫は階段を上がって直ぐ、目の前にあった。
ドアなどはなく、入口の幅は2メートル以上ありそうな感じ。誰でも入れる、というのがよくわかるオープンな見た目の書庫だった。
書庫の中に入る。
中に入ってわかった書庫の広さは10メートル4方くらいで、書庫としては広いとは言えない。それにこの部屋の中に2つ大き目の机が置かれているため、本棚の数も少ない。
と言うか、机が置いてある以上、それは本を読むためのスペースという事だよね。ならギルド書庫、というよりはギルド図書室と呼ぶべきでは? ……語感が少しショボ……格好わ……パッとしない気がするから書庫になったのかな?
書庫の中をパッと見まわした感じ、本棚が少ないせいこともあってそれほど置かれている本の数は多くない。しかし、ここの書庫の構造を見る限り、自由に閲覧できる本の数よりも倉庫、というよりも閉架図書に割いている数の方が多そうな感じだ。
ああ、だから書庫なのかも。
まあ、おそらくプレイヤーにとって必要な物は閉架図書の中には無いだろうから、すぐに読める物が少なくても問題は無いはずだ。
そうして元の目的である生産に関わる本を探そうとしたところで、書庫の受付の場所に座っていた男性と目が合った。
おそらく彼が司書なのだろう。年齢はそれほど若くはないね。40から50歳くらいかな。
とりあえず目が合ったので会釈をしておく。本、というかレシピの方は自分で探すつもりだったので司書に質問をする予定はない。目的の本をを探すのはなかなかに楽しい。違う本であっても内容が意外といい物だったりするから、わくわく感があるよね。
まあ、本当に見つからなかったら聞くことになると思うけど。
「初めてここを利用する方ですね。急ぎでなければこちらに来ていただけると助かります」
自分で探そうと本棚のところへ行こうとすると司書の男性から声を掛けられた。
さて探すか、と思っていたところで話しかけられたから、出鼻を挫かれたというか水を差されたというか、別に
でもおかしい。生産施設の受付の女性の話からしてこちらから声を掛けない限り、司書がこちらに関わってくるような印象はなかった。なのに何で声を掛けられたのか。
うーん。もしかして変なフラグでも立ってる?
掲示板の方でも変に司書が声を掛けて来る、みたいな話は見ていないから普通ではないはず。となればやはり何かしらのフラグが建っている可能性は高そう。
そうであるなら司書の話を聞いてみた方が良いかもしれない。
そう判断して受付にいる男性の元に移動した。
「ようこそ、ギルド書庫へ。どのようなご用件でこちらへ?」
普通の対応だ。これってもしかして誰でも最初に確定で起きる奴なのでは? フラグとか、早とちりだったかも。
「えっと、生産のレシピを見に」
「なるほど、生産スキルに関わる本でしたら、あちらの本棚にまとめて収めてあります。また、各本棚を【鑑定】していただければどのような本がその本棚に収められているかが目録でわかるようになっています。私がここに居ない時、他にお探しの本があった際に試してみてください」
司書が指差した本棚を見る。
なるほどあの本棚が生産系と。早とちりしてしまったけど、探す手間が減ったから良しとしよう。その代わり探す楽しみは無くなったけど。
それと本棚を鑑定すれば何が入っているのかがわかるのか。これは便利?だね。あまり使いそうにないけど、他のところの本棚でも同じように使えるなら覚えておいた方が良いかもしれない。
「ありがとうございます」
「あ、すいません。もうちょっといいですか?」
説明も聞いたことだし、さっそく教えて貰った本棚のところに行こうとしたら、また止められた。今度は何だろうか。
「すいませんが、一度ギルドカードを見せて貰ってもよろしいでしょうか?」
「あ、はい」
この司書はNPC……ここの住民だし別にみられても何か減る訳でもない。さっさと終わらせたいと考えてすぐにギルドカードを差し出した。
「ありがとうございます。少々お待ちください。……ああ、ギルドランクはDなのですね。なるほど」
Dランクが何か関係あるのだろうか。そう言えば下でもギルドカードを確認されたけど、何の意味があるのだろう。
「【上級錬金】のスキル持ちですか。【調合】の方もそろそろ【上級調合】が取得できそうですね」
ん? あれ? もしかしてこっちがフラグだった? と言うか、もしかしてギルドを読み込む機械ってプレイヤーが取得しているスキルとかわかる? よくよく思い出してみれば、ギルドカードを確認した後にスキルの話をされたことが何度かあったかもしれない。
となると、さっき下で確認されたのはJOBではなく、生産スキルを取得しているかどうかを調べられていたってことなのか。
「ギルドランクがDで【上級錬金】のスキルを取得しているので、閉架書庫内にある一部の本を読むことができますが、どうしますか? 読むのでしたら取り出しますが……」
内容についての説明はなしか。でも、フラグというか条件を満たさないと読めないとなれば、読まない理由はないよね。
「お願いします」
「わかりました。ちょっと待っていてください」
そう言うと司書の男性は、該当する本を探しに受付の後ろにあるドアの中に入って行った。
閲覧制限のある本か。どんな内容が書かれているのか、気になるね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます