時期・季節ネタSS(ショートストーリー)

季節SS 年末の夜

 年末という事でこの話

 この話の時間は第1章 48話 PKは倒すに限る。慈悲はない ~ 49話 イベントが始まる の間の話になります。


 ―――――


 

 今年の最後の日となった夜。


 外から除夜の鐘が聞こえる中、炬燵に入りながら見ていた大して面白くない年末特番を何となく見る。しかし、面白く感じない物を何となくとはいえ見ているのが苦痛に感じて来たので、見るのをやめてテレビの電源を落とした。


 本当なら毎年年末にやっているお笑いを見たいところだが、明日の朝が早いと既に寝ている両親が俺の笑い声で目が覚めるようなことが無いようにと、その番組を見ないようしている。

 どうせ、後でも見ることは出来るのだ。リアルタイムで見ることが出来ないのは少し残念ではあるが、これは毎年の事なので納得はしている。


 現在は23時半過ぎ。後30分もしない内に今年が終わるな。


 あゆもまだ起きている。

 毎年、年始の最初の挨拶はあゆにしている。本当なら父さんと母さんにもした方がいいのだろうが、父さんの仕事の関係上、俺たちが年始の挨拶をするのは1月1日の夜か2日の朝だ。


 テレビを消したことで多少手持ち無沙汰に感じたので、炬燵の上に置いてあったタブレットを手に取る。

 今からUWWOをやり始めるのは時間が遅いし、他のパーティーメンバーもログインはしていないだろう。ふとももとジュラルミーんはもしかしたらログインしているかもしれないが、3人だけで先に進むわけにもいかないので結局ソロでLV上げをするだけになるだろう。


 あまり1人でプレイするのは好きじゃないんだよな。


 そう思いつつ、UWWOの掲示板を開きアカウントIDを打ち込む。UWWO内にある掲示板は基本的にゲームアカウントを持っていないと見ることも出来ない。

 掲示板荒らし対策らしいが少し不便だが、他のゲームも同じようになっているので今更ではある。


 総合掲示板の方を覗いてみたところ、年末だというのに年末らしさがない流れだった。

 いつも掲示板に書き込んでいる奴らが年末だという事でログインしていないからか、それとも今掲示板に書き込んでいる奴らにとって年末年始というのはどうでもいいのかもしれない。


「テレビ消したの?」

「ん? ああ、大して面白くなかったからな」


 少し前に部屋へ物を取りに戻っていたあゆが戻って来た。手には小型のタブレットを持っていることからして俺と同じように掲示板でも確認するつもりなのかもしれない。


「そう」


 リビングの外は寒かったようであゆは寒そうに身を縮めながら炬燵の中に足を入れてきた。

 その姿が小動物チックで可愛かったが、同時に冷気が炬燵の中に入ってきたことで俺は少しだけ体を震わせた。


「あゆも掲示板を確認するつもりなのか?」

「……うん」


 俺の言葉に引っかかりを覚えたのかあゆの返答が1テンポ遅かったが、俺が持っていたタブレットを見て少し納得したような動きをしたことから、おそらくあゆ「も」と付けたのが原因だろう。



「あゆはUWWOで今何をやっているだ?」


 あゆが掲示板を確認し始めてから少し間を空けてとところで声をかける。


 俺の記憶ではあゆは今、第2エリアの街に居るはずなのだがどうだろうか。

 アユが第2エリアに行けることを確認した後、さらに第3エリアへ行ける事を知った訳だが、今はイベントも近いし、もしかしたらそっちに移動しているかもしれない。


「スキルの熟練度上げ」

「ん? LV上げはしないのか?」


 イベントの事を考えればメインはLV上げだと思っていたんだが、あゆは違うのか。


「第2エリアだとLVが上げ辛い」

「あ、あぁ、そういう事か」


 この前聞いた時でLV16だったのだから、それは上げ辛いだろうな。あゆから聞いた限り第2エリアに出るエネミーは第1エリアとそう変わらないらしいし、そうだとしたらLVを上げる速度は俺らとそう変わらないだろう。それにあゆはレアRACEな分LVは上げ難いはずだ。

 これはイベントまでに追いつけるかもしれない。


「……兄さんはLV上げ?」

「ああ、俺はスキルの方が上げ難いからそっちをメインにしてる」


 話しに乗ってくれるのか。いつもだったら返事をしてくれるだけの対応が多いんだが、今は機嫌が良いのかもしれない。いや、単にやることが無いから付き合ってくれているだけかもしれないな。


 様子を確認しようとタブレットからあゆの方へ視線を移す。

 すると、あゆは手に持っているタブレットに視線を向けず、俺の方をじっと見つめていた。いつもと変わらない表情ではあるが、しっかりと俺の事を見ているという事は聞きたいことがあるのかもしれない。


「何か聞きたいことでもあるのか?」


 そう聞いてみたもののあゆは少し間をおいてから首を小さく振って否定してきた。

 あゆの反応からして、たぶん聞きたいことはあるんだろうが、そこまで聞く気はないという事だろうか。もしかしたら気になるがそれだけ、という内容なのかもしれない。


 ……ああ、もしかして他のプレイヤーの動向が気になるのか? あゆの居る第2エリアに到達しているプレイヤーは俺が知る限り居ないし、1人でプレイしている分余計に気になるのかもしれない。

 今も確認はしているが、掲示板だけだと本当にそうなっているかはわからないからな。むしろその所為で気になっているのかもしれない。


「ああ、そう言えば知り合いにLV上げが辛いからってスキルの熟練度を上げているやつもいるな。装備を新調するってやつもいるけど、知る限りだと少数だな。新規の素材が見つかった訳でもないから、そう差が出る訳じゃない……あ」


 そう言えばあゆから貰った素材を使って胴装備を作ったことを思い出した。あれはかなり良い素材だったのか結構いい性能になったんだよな。


「そうだ、あゆ」


 いきなり話を止めた俺を、小首を傾げ不思議そうに見つめているあゆに言う。


「あゆからもらった素材のおかげで良い装備出来たんだ。今回はちゃんとした見た目のやつだ。助かった。ありがとう」

「……そう」


 自分から渡しておいて存在を忘れていたのか、少し反応が鈍かったが俺もこの話をする前まで記憶の隅に置いていたのでお互い様だろう。いや、受け取った側の俺が忘れかけていた方が悪いな。とりあえず年を越す前に感謝出来たのだから良しとしよう。


「あ」


 タブレットに視線を落としたあゆの声を聞き、俺も直ぐにタブレットへ視線を向ける。


「おっと、何時の間にか0時過ぎているな」

「うん」


 そうあゆと言葉を交わし、一旦深呼吸する。


「あけましておめでとう」

「あけましておめでとうございます」

「今年、いや去年は1年ありがとうございました。今年も1年もよろしくお願いします」

「うん。今年もよろしくお願いいたします」


 そう言って俺たちは炬燵に入りながら頭を少しだけ下げ合った。


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