第35話 進撃のワイバーン
ワイバーンのブレスが迫る中、シャドウダイブによる行動不能状態が抜けてすぐ、腰に下げサブウェポンとして装備していた宵闇の短剣を手に取る。
ブレスが迫るタイミングに合わせて短剣を振り上げる。そして、振り上げた宵闇の短剣がブレスに当たってすぐ、ブレスによる衝撃を受けた。
「ふぐっ!」
眼前まで迫っていたワイバーンのブレスが当たったことによって体が吹き飛ばされる。
宵闇の短剣の能力である魔法を切る力を使ってブレスを防ごうとしたのだけど、残念ながら失敗してしまったらしい。
ん? いや、受けた衝撃がそこまで大きくないみたいだし、ダメージ自体もリスポーンした感じでもないし、視界が赤く染まっているわけでもないから、そこまでじゃないみたいだ。一応は成功したのかもしれない? 私はMNDが高めだから受けるダメージが少なくなっただけかもしれないけど。
宵闇の短剣によるブレスの切断が成功したかどうかはさておき、ブレスの衝撃によって吹き飛ばされてしまったので、このままでは地面に投げ出されてしまえば大きな隙を作ってしまうし、余計なダメージを受けてしまう。それだけは避けたい。
そうならないように空中で身体を捻り、すぐに行動できるよう前かがみになりつつも足から着地。そして、すぐにその場から移動する。
すると、移動してすぐに着地した場所にブレスが着弾した。すぐに移動できるように着地で来てよかったと思いながら、ワイバーンの様子を確認。
ワイバーンは上空でホバリング?しつつ私に狙いを付けたままだ。いつまで狙われ続けるのかはわからないけれど、当分はこの状態のままかもしれない。
上空からの攻撃を受けないように動きつつ、インベントリから人工血液の予備を取り出せる隙を伺う。
走りながらワイバーンから放たれているブレスを避け続ける。
最初に食らったブレスに比べれば一回りどころか2回りくらい小さくなったブレスな上、偏差射ちをしてこないので、走っているだけで簡単に回避することは出来る。しかし、ブレスの間隔が割と短いのでインベントリを開いている余裕があまりない。
それとワイバーンのブレスはゴフテスのブレス擬きとは違い、吸込み行動が殆どないようだ。そのため、吸込みと言うかチャージして狙いを定めて打ち出すという動作を、10秒ほどという短い間隔で繰り返している。
これが特殊行動による攻撃なのか通常の攻撃なのかはわからないけれど、こうも連続して攻撃されているとインベントリを開いて、予備の人工血液を取り出すことが出来ない。誰か他のプレイヤーが来てくれれば狙いが逸れてくれるかもしれないけれど、今のところ近付いて来ているプレイヤーの影は見当たらない。
ブラッドウェポンによる攻撃が出来ないので、【闇魔法】による攻撃を加えていく。
与えられるダメージはやはりブラッドウェポンに比べて少ない。その代わりMPの消費は少ないので多少余裕をもって攻撃出来ている。
暫く、ワイバーンのブレスを回避しながら【闇魔法】での攻撃を繰り替えしてダメージを稼ぎ続ける。
同じ行動を繰り返すのは、格好の的になってありがたいのだけど、今、ワイバーンと戦っているのは私だけだ。いくら良い的状態だったとしても、1人だけなら何の意味もない。
同じことを繰り返していたのは時間にしたら10分くらいの間だったけど、ワイバーンのHPは10000を少し割った程度までダメージを与えることが出来た。
ブラッドウェポンによる攻撃に比べれば3分の1程度しかダメージを与えられていないけれど、これでも1人で与えたダメージと考えれば大分多い方だと思う。
「よっしゃあ! まだ倒されていないな!」
「行くぞ!」
ここでようやく他のプレイヤーたちが駆けつけて来たようだ。これで、少しは余裕が出来ると良いのだけど。
ワイバーンと戦いに来たプレイヤーは20人くらい。ソロプレイヤーって感じの人はいなさそうだから人数的に4パーティーってところかな。
ただ、他のプレイヤーが来たからと言って、今まで稼いでしまったヘイトの関係でワイバーンの狙いは私のままだ。
私はワイバーンからの攻撃を回避しつつ攻撃回数を減らし、他のプレイヤーの攻撃を利用してワイバーンの狙いが他のプレイヤーに向くように調整していく。
「報酬の独占はさせねぇ!」
「このまま、1人に良い所を持って行かれるわけにはいかねぇんだよ!」
うーん、なんか一部のプレイヤーから報酬の独占とか聞こえて来たけど、私よりも先に戦っていたプレイヤーは居るし、独占は出来ない……ああ、でも、倒されると討伐報酬は無くなるのだっけ? そうなれば確かに独占の可能性もあったのか。まあ、あのまま1人で倒しきれるとは思えないけど。
タンクプレイヤーが挑発スキルを使用してワイバーンの攻撃を誘導する。何度も連続で攻撃を食らうのは難しいみたいだけど、他のプレイヤーと連携して1プレイヤーに攻撃が集まらないようにしているので、今のところ倒されそうなプレイヤーは居ないようだ。
ワイバーンからの攻撃が途切れて来たのでようやく余裕が出来た。一切攻撃が来ないという訳ではないけれど、インベントリを開いてアイテムを使うくらいの余裕はある。
さっそく人工血液の予備を、と思ったけどそれよりも先にポーションでHPを回復しておこう。【HP自動回復(微)】の効果で多少回復しているとはいえ、問題ないと言える範囲ではないので先にHPを回復させた方が良いだろう。
ポーションを取り出したところでワイバーンの攻撃が飛んできたので躱す。その後にポーションを使ってHPを回復させた。全快にはなっていないけれど、これで一撃で死ぬという事は無くなったと思う。
HPも回復させたのでインベントリから人工血液の予備を取り出し、メイン武器として装備している水筒の中に入れる。これでブラッドウェポンが使えるようになった。
さて、それじゃあさっそく攻撃に移ろう、としたところでいきなりワイバーンが迫ってきていることに気付いた。
「うぇ!?」
人工血液を水筒に移すにはウィンドウ上で操作する必要があるのだけど、その一瞬目を離した隙に何故ここまで、とか、先ほどまで他のプレイヤーの近くまで移動していたというのに何でこっちに来ているのか、という疑問を覚えたけれど、その答えが出るよりも早くワイバーンの頭が眼前まで迫り、私の体は宙に弾き飛ばされた。
「はぅっ!?」
視界を揺さぶる衝撃に若干気持ち悪くなりつつも、痛覚設定を0%にしている影響で痛みはない。
視界に映る地面までの距離からして結構な高さまで弾き飛ばされてしまったようだ。それに視界が久しぶりに赤く染まっている。これはHPが危険値以下まで減ってしまっていることを示すものだけど、先ほどHPを回復させていなかったら死んでしまっていたという事でもある。先にHPを回復させておいて正解だった。
それと、ギリギリ視界に入っているワイバーンが私に向かって追撃をして来る様子は見られない。一瞬、助かったと思ったけれど、このままだと地面に叩きつけられてそのダメージでどの道死にそう。
ポーションを使ってHPを回復させれば耐えきれる可能性も、と思ったのだけど、どうやら先ほどの攻撃によるノックバックを受けてしまっているらしく動くことが出来ない。
さらに体勢の関係で、このまま落ちると顔面から地面にダイブする形になりそう。犬に背後から攻撃された時と同じような状況だけど、あの時はダイブする前に死亡判定を受けたからそれは未然に防げた。でも、今回はそんなことはなさそう。
どうしよう。地面に落ちる前にはノックバックによる硬直は解けるだろうけど、それでは回復をする余裕はない。まあ、顔面が地面に衝突しないようにすることは出来そうだから、それくらいはしておこうかな。
うん? 地面に衝突するタイミングでシャドウダイブを使えれば、落下ダメージを回避できる……かも? いや、でも、タイミングがシビア過ぎるかな。少しでも遅れればダメージが入って死ぬだろうし、早すぎても発動に失敗しそうだ。
あ、でも、確かシャドウダイブの発動条件って、入り込む影にアバターもしくは装備しているアイテムが触れている事だったはず。ならコートの先や宵闇の短剣が地面に触れてさえいれば問題なく発動できるのではないだろうか。
まあ、ここまで考えたけれど、本当に発動できるかどうかはわからない。でも、やらないよりはマシだろう。
そう判断して、硬直が解けてから宵闇の短剣を手に取る。少しでもタイミングを外せば失敗してしまうので、頭の中で短剣を地面に突き刺すタイミングを想定する。
うーん、これだとシャドウダイブの詠唱は少し早めのタイミングで始めないと駄目そう。となると突き出す少し前から詠唱する感じか。
脳内でシミュレートした後、地面が迫る中、宵闇の短剣を構える。
そして、地面が目前に迫ったところで宵闇の短剣を突き出し、それが地面に刺さるタイミングに合わせてスキルを発動させる。
「っ、シャドウダイブ!」
そうして私は地面に衝突すると同時に、トプンッ、という水の中に落ちたような感覚で地面の中に落ちた。
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