第34話 復讐のワイバーン
逃げたい。
まあ、今から逃げ出したとしても逃げ切れるとは思えないけど。それに、ワイバーンの感知範囲から出ることが出来ても戦闘状態が維持されるってことは、追って来るってことだよね?
……その状態で街とかに逃げ込んだらどうなるのだろう。
そのままワイバーンが付いてくることになったら、賞金首とかになるかもしれない。フィールドBOSSをトレインした犯罪者。うん、レッドNAME一直線かな。
……あ、でも、それを利用すればプレイヤーが戦いやすい場所に誘導することも出来たかもしれない? まあ、今更そんなこと出来ないけど。
ワイバーンの体が完全にこちらに向いた。
このまま何もしないで死に戻りするのも嫌だ。どうせなら次につなげるために特殊行動の1つくらいは起こさせたいところ。さっきの地上に降りて来たのもおそらく特殊行動だろうから、次の特殊行動はまだ先だろうけれど。
私とワイバーンの距離は多分200メートル弱。近くはないけど遠くもない。先に居るワイバーンのサイズからしてすぐに詰められる距離だと思う。
ワイバーンに向かって走り出す。まだ射程外ではあるけれどダークショットのチャージを開始する。
UWWOのワイバーンは翼腕タイプだ。いや、ワイバーンの大半がそうだろうけど、そうではないタイプも稀に見るからね。
それで翼腕タイプである以上、走るよりも飛ぶ方が得意の可能性が高い。
現状200メートルくらい離れてはいるけれど、あのワイバーンにとってこの距離は飛んで移動する距離なのか、走って移動する距離なのかがわからない。もしも飛んで移動することになれば厄介な状況になりかねない。
ブラッドウェポンの射程は基本的に存在しないけれど、実際に攻撃するとなるとおそらく20メートルくらいが限界。あまり動かないエネミーに対してならもう少し伸びるだろうけれど、ワイバーンはよく動くタイプのエネミーのようなので射程はもっと短くなる。
そもそも、私が使う攻撃の中で主にダメージを稼ぐ攻撃手段がブラッドウェポンによるものなのだから、それが使えないとなるとジリ貧にしかならない。
「ギュアアアァアッ!!」
叫び声を上げながらワイバーンが走り出した。とりあえず、飛ばれることが無かったので安堵したけど、思った以上にワイバーンの走る速度が速い。
このままでは数秒もしない内にワイバーンと衝突してしまう。すぐにチャージしていたダークショットを放ち、次に使うスキルのチャージを開始する。
ダークショットはまっすぐワイバーンへ向かい、そのままワイバーンの顔面に当たった。しかし、顔に当たったにも関わらずワイバーンは何事もなかったように突き進んで来ている。やはり、MNDが高いのか魔術系スキルに耐性があるようだ。
どのくらいダメージを与えられたのかを知りたいところだけど、そんな余裕はない。ダークショットを放ってからすぐにシャドウダイブを使って、眼前まで迫っていたワイバーンの突進を回避する。
時間帯が夜だから【影魔術】による回避がしやすい。これが日中だったらこうも簡単に攻撃を躱すことは出来ていないだ。
ワイバーンが通り過ぎて行ったことを確認してすぐに影の中から出る。
私がシャドウダイブで身を隠したことで目標を見失っているワイバーンだけど、居なくなっていないことを理解しているらしく、走る速度を落としている。そして、周囲を見るために長めの首を横に曲げ、すぐこちらに視線を向けて来た。
それと近付いたことで再認識したことだけど、このワイバーン、イベントの時に出て来たワイバーンよりも何倍も体のサイズが大きい。あのイベントワイバーンの体長が5メートルを超えるくらいだったのに対して、10メートルを優に超えていそうな程だ。
それに体格も全然違う。イベントワイバーンはしなやかな感じのフォルムだったけど、このワイバーン、しなやかさはあるけれどそれ以上に表皮がごつごつしていて力が強そうな見た目なのだよね。
何と言うか、イベントの時のワイバーンが幼体でこのワイバーンが成体みたいな感じ? そう考えるとなんかしっくりくるかもしれない。
私が後ろに居ることに気付き、ワイバーンはまた体の向きを変え始める。
「うおおおっ!!」
するとそれを隙と見たのか、ワイバーンを挟んだ方向から大きめの剣を持ったプレイヤーがワイバーンに向かって近付いて来ているのが見えた。
漁夫の利狙いにしてはタイミングが早い気が。もしかして攻撃できそうだったから飛び出して来ただけなのだろうか。
そのプレイヤーは一気に距離を詰め、ワイバーンへ剣を叩きつけるように振り下ろした。
「よっしゃ! これうべぁっ!?」
攻撃を当てたことでヘイトを稼いでしまったのか、それともただの偶然かそのプレイヤーはワイバーンの尻尾による攻撃を受け、一撃でポリゴンに変わってしまった。
尻尾による攻撃が強過ぎる。
あのプレイヤーは、今まで出てきていなかっただろうからHPは減っていなかったはず。防御していなかったとはいえ、一撃で倒せるほどの攻撃力があるのは運営が調整失敗しているのではないだろうか。
あのプレイヤーがヘイトを奪ってくれたら嬉しかったのだけど、倒されてしまったためワイバーンの狙いはまた私の方へ向いた。
このままの距離だとまた突進攻撃に移ってしまうので、ワイバーンの死角に入るように移動しながら距離を詰める。
そして、ある程度距離を詰めたところで、あのプレイヤーの二の舞にならないように、尻尾による攻撃や翼腕による攻撃が当たらない、一定以上の距離を保ちながらワイバーンに攻撃を加えていく。
ブラッドウェポンで背中や翼腕の付け根を狙って攻撃していく。
正面を避けるように移動しているので首や頭に攻撃を当てることは出来ていないけれど、ダメージはそこそこ稼げている。
死角に入りながら攻撃をし続け、それにより少し余裕が出来たので、ワイバーンのHPを確認したところ13000を切るくらいにはダメージを与えられている事がわかった。
そろそろ特殊行動が来るかもしれないけれど、気にしたところでどのような物が来るのかがわからない以上、気にしても仕方がないと判断して攻撃を加えていく。
「グギャアアアッ!!!」
ワイバーンのHPが半分を切ったのか、ワイバーンがいきなり叫び声をあげて翼腕を振り上げた。
直前までブラッドウェポンによる攻撃をしていたため、振り上げた翼腕に当ってしまい、元となっていた人工血液が弾け飛んで完全にロストしてしまった。
「うぇ!?」
想定外に武器がロストしてしまったため、変な声を上げてしまったけれど、それどころではない。
ワイバーンは振り上げた翼腕を振り下ろすと同時に飛び上がり、真横に居る私目掛けて足による攻撃を繰り出してきたのだ。
「シャドウダイブっ!」
人工血液がロストしてしまった衝撃で一瞬反応が遅れてしまったけれど、ギリギリシャドウダイブによる回避が間に合った。
ワイバーンは攻撃の後、そのまま空へ飛び上がったようだ。
このまま影の外に出るとワイバーンの真下に出てしまうので、シャドウエスケープを使い少し離れたところで影の中から出る。
「ギャオァァッ!!」
影の中から出た瞬間、ワイバーンが叫び声を上げた。すぐにワイバーンを見ると私に向けてブレスのような物を放っているところが見えた。
なんで私が出て来る場所がわかったのか、という疑問はあるけれど、このままでは躱すことが出来ない。
シャドウダイブを使うにしても、クールタイムの関係ですぐに使うことが出来ない。それにこの前のアップデートの際にシャドウダイブに修正が入ってしまい、少しだけどその時間も伸びてしまった。どうあってもこの回避方法は使えない。
向かって来るブレスのサイズからして急いで横に避けたところで躱しきれない。
そう判断して、私は咄嗟に腰に下げてある物に手を伸ばした。
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