第33話 フィールドBOSS・ワイバーン

 

 聞こえて来る悲鳴から察するに、戦況は大分悪そうだ。


 一方的にプレイヤーが殺されているような悲鳴が多い。魔術や弓術などの遠距離攻撃でダメージを与えられているようだけど、先ほどよりも攻撃エフェクトの数が少なくなっているから、それよりもプレイヤーの減りが早いようだ。


 おそらく、誰かしら掲示板に書き込んだり、フレンドに救援要請とかを出したりしているプレイヤーも居るだろうけど、このままだとそのプレイヤーたちが着く前に全滅しそう。


 私みたいに自ら気付いて近付いた上で、戦いに挑んでいるプレイヤーも居るみたいだけど、焼け石に水、というか戦況をひっくり返すには数が足りていない。


 私が近付いてくる間にも結構な数の攻撃が当たっていたみたいなのだけど、ワイバーンに怯んだ様子が無いのが気になる。

 あまりダメージを与えられていないのかも? でも攻撃エフェクトの数からして、一発が弱くても結構なダメージを与えられているような感じなのだけど。


 うーん、今戦っているプレイヤーの状況がはっきりわからないから、もうちょっと近付こう。でも、近付きすぎるとワイバーンに気付かれて強制的に戦闘になりそうだから、距離を意識しながら慎重に近付いて行く。


 出来れば攻撃しているプレイヤーが居るうちに【鑑定】したいところだけど、今いる位置では遠すぎて【鑑定】出来ない。もうちょっと近付かないと駄目か。


 ちょっとずつ近付いて行く。そろそろ【鑑定】出来る範囲に入りそう。


 ワイバーンとの距離は目算で200メートルくらいまで近付いて来た。【鑑定】……はまだ出来ないのか。


 一歩進む。まだ【鑑定】が出来る範囲に入らない。


 さらに一歩進む。あ、【鑑定】が出来る範囲に入った。あ、ワイバーンが攻撃モーションで少しだけこっちに近付いて来た……って、え?


『アナウンス

 ワイバーンの感知範囲に入りました。戦闘状態に移ります。現在の参加人数:87

 注意:これから距離を取っても一定時間は戦闘状態が維持されます』


 うわぁ……マジですか。ワイバーンの感知範囲に入れば強制戦闘ですか。そうですか。なるほど。


 戦闘状態に入ったってことは、既にヘイトを稼いでしまっているだろうから、【鑑定】してもそう変わらないはず。ヘイトの面だけで見れば0と1だと大きな違いだけど、1と2ではそう変わらないのだよね。


 そう思い、半ばやけくそ気味にワイバーンを【鑑定】する。



[(フィールドBOSS)ワイバーン LV:30 Att:風・毒]

 HP:18763 / 24800

 MP:2067 / 2560

 スキル:■



 ……え? 待って。HP……5桁?


 今まで戦ったエネミーの中で一番HPが高かったゴフテスで、それでも5000を超えていなかったと思う。それに比べてワイバーンは5桁か。HPの総量がゴフテスの5倍。MPもまあまあ高い……ね。

 これならあれだけの攻撃を受けていても、怯まなかったのはおかしくないよね。


 私がHPの多さに困惑している間にも、他のプレイヤーはワイバーンに攻撃を与え続けている。それでも、鑑定したことでワイバーンの上に表示されたHPバーは目に見えて減っているようには見えない。


 今までどれだけの間、戦っていたかはわからないけど、あれだけ攻撃を食らっていたのに4分の1くらいしかダメージを受けていないとは。空を飛んでいる所為もあるだろうけど、防御面のステータスでVITなのかMND、もしかしたら両方のステータスが高いのかもしれない。


 あれ、でもこれだけHPが減っているってことは、特殊行動……。


「ギャァッガァアアッ!!」


 ワイバーンが叫びながら空から地上へ勢いよく降りてきた。降りた場所はプレイヤーが多く集まっていたところであり、その周囲から多くのポリゴンエフェクトが湧き上がっているのが見える。


 そして、ワイバーンが地上に勢いよく降りたことで、私が立っている場所まで振動が伝わっている。これによって、状態異常:スタン(1)が付いた。


 私はすぐに攻撃を受けるような場所には居ないし、スタック(1)のスタンなら1秒で回復するから問題はない。だけど、ワイバーンの近くにいたプレイヤーはこれより高いスタンのスタックを得てしまっているだろう。

 距離があれば多少スタックが付いたとしてもどうにかなるだろうけれど、近くに居るプレイヤーにとって、スタックが1でも付けばそれが致命的な物であることは、ワイバーンと戦っているプレイヤーなら誰でもわかる。


 それを知っているのか、ワイバーンは周囲に攻撃を繰り出していく。また、多くのポリゴンエフェクトが沸き上がった。


 ワイバーンが地上に降りて来てくれたのは近接型のプレイヤーにとっては有り難い事だろうけれど、それ以上にワイバーンの攻撃が厳しい。


 近付いたら尻尾や翼腕で攻撃されて死に戻りする。正面から行くと噛みつかれ、叫び声をあげると衝撃波でも出ているのか吹き飛ばされて、地面に落ちた時の衝撃で死に戻り。生き残ったとしても戦意は消失しているプレイヤーは多いようだ。


 ああ、これ無理ゲーだ。


 一撃ではないにしろ、簡単にプレイヤーたちが死に戻りしていく。おそらくあの中にはVITが高いタンク職のプレイヤーも居ただろうから、まともに攻撃を食らえば私も同じように死に戻りするのは確実だ。


 気付けばワイバーンの近くに居たプレイヤーは粗方倒されてしまった。そして、周囲のプレイヤーが減ったからか、ワイバーンが私の方へ顔を向けた。


 他にも私みたいに様子を窺っているプレイヤーは居ると思うし、もっと近くにプレイヤーも居るだろうけど、でもまあ、そうだよね。


 たぶん、漁夫の利を得ようとか、勝てそうなら戦おうと様子を伺っていたプレイヤーで戦闘状態になってしまったのは沢山居たと思う。だけど、先ほどのワイバーンの攻撃で殆どのプレイヤーが死に戻りしていった光景を見て、すぐにこの場を離れたと思う。


 それで残っているプレイヤーの中で割かし見えやすい位置に私が居て、さらにさっき【鑑定】をしたから、他の様子見プレイヤーよりもヘイトが高い。だから私の方へ顔を向けたのだと思う。もしかしたら私よりもヘイトの高いプレイヤーが私の後ろに居る、という可能性もあるだろうけれど、その可能性は薄いだろう。


 本当に慎重なプレイヤーは【鑑定】とか、滅多に使わないらしいからね。掲示板情報だから本当かどうかはわからないけれど。


 ワイバーンの体が徐々にこちらに向いてくる。これは完全にターゲットが私か、この近くに居るプレイヤーに移ったようだ。


 そして今、ワイバーンと戦闘状態のプレイヤーの数は、視界の端に表示されている13。


 最初にアナウンスを受けた時から1分程度しか経過していないというのに、プレイヤーの数が約7分の1まで減ってしまっていた。

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