第29話 【縄術】

 

 防具を受け取ってギルドに戻ってから、いくつか依頼を受ける。

 いつも受けている生産系の依頼やランクの低い討伐系の依頼は既に達成済みなので、それらを今日は再度受けることは出来ない。また、料理納品依頼も期間限定の依頼が無くなってしまったので、同じ内容の依頼はあるものの何度も受けることが出来なくなってしまった。


 なので、今回受けた依頼は今まで受けて来た依頼よりもランクの高い、Eランクの依頼。内容は指定されたエネミーを討伐してくるもの。


 一応、私のギルドランクならDランクの依頼まで受けることもできるのだけど、セントリウスのギルドにDランクの依頼はなかった。理由は、おそらく依頼発生の条件を満たしていないからだと思う。


 そもそも、Eランクの討伐依頼の対象がフォレストベアとフォレストウルフで、この2匹は第1第2エリアで最上位の強さを誇るエネミーだ。それがEランクの依頼で出ているのだから、Dランクの討伐依頼の対象は最低でも第3エリアのエネミーになるはず。たぶん。


 まあ、Dランクの依頼があったとしても受けなかっただろうけどね。今まで受けていた依頼と比べてどのくらい難易度が上がるのかを知らないまま、高ランクの依頼を受けるのは無謀だと思う。まあ、生産系の依頼だったら話は変わるけどね。




 セントリウスの街を出てから1時間と少し。【走法】を取得してそれの熟練度か上がった結果、前よりも短い時間で第2エリアの西にある森に到着。


 コートについているフードを被ることで日差しダメージを軽減で来ていたけれど、コートを強化したことで【HP自動回復】の回復量が日差しからのダメージを上回った。


 これにより、日中にフィールドに出ても日差しのダメージで死ぬことは無くなったのは嬉しい。その反面、大き目のフードを被っているから視界は大分悪くなるけどね。


 それに日光によるダメージが無くなった訳ではないので、この状態で日差しを受ける場所に出ていればポーションを使わずに、【日光脆弱】の熟練度を下げることが可能になった。まあその分、熟練度下げにかかる時間は伸びるだろうけど。



 受けた依頼を達成させるために森の中を進む。

 今回受けた依頼の内容は、フォレストベアを1体討伐するものとフォレストウルフを5体討伐するもの。


 指定数以上に倒してもギルドポイントや依頼の達成金が増えることは無いけれど、スキルの熟練度を上げるためにある程度の数は倒す予定だ。まあ、あくまでも予定だから、すぐに切り上げるかもしれないけどね。



「ウィップ、バインド」


 エンチャント:パラライズを掛けた人造血液で作った縄をフォレストベアに叩きつけ、そこからさらにそれを巻き付ける。

 ただ、縄を巻き付けたからといって、フォレストベアの行動を制限することは出来ない。けれど、縄が解けない限り微麻痺のスタックは追加され続けるので、暫くするとその状態異常の効果によってフォレストベアの動きが鈍くなった。


【鑑定】で確認した限り、フォレストベアに掛かっている微麻痺のスタックは(11)。これでは、20秒も掛からない内に麻痺が解けてしまうので追加でパラライズミストを発動。それと同時に縄に掛かっていたエンチャントが解けたので、バインドを解除する。


 あとはパラライズミストを消えるまでフォレストベアに当てつつ、【縄術】のスキルである[ウィップ]で攻撃し続けるだけ。


 そうして、フォレストベアは微麻痺の効果が切れる前にポリゴンになって消えていった。フォレストウルフについてはフォレストベアと戦う前に遭遇し、既に討伐済みなので、これで依頼は完了。


 フォレストウルフに続きフォレストベア相手に物理攻撃系のスキルを多用したため、満腹度が70%を下回りそうになっていた。まだ気にするほどではないけれど何かあったら困るので、満腹度を回復させるためにインベントリに入れていた料理を取り出して食べる。


 取り出したのは、防具を取りに行く前に生産設備を使って作ったサンドイッチ。第3エリアで小麦を手に入れてから、料理のスキルが2次になる事でようやく作ることが出来た料理だ。


 具はウサギ肉とレタスっぽい葉野菜。マヨネーズがあればさらに良かったのだけど、残念ながらマヨネーズを作る分の卵が手に入らなかったために断念。


 ここはセーフティーエリアではないので周囲を警戒しながらサンドイッチを頬張る。


 ちょっとしっとりしたパンに胡椒をきかせたウサギ肉、それとシャキシャキレタス擬き。うんまあ、これでも十分美味しいから問題はない……のだけど、なんと言うか物足りない感。やっぱりマヨネーズが欲しい。

 卵、見つかっていない訳じゃないのだけどあまり委託に流れていないのだよね。自分で取りに行かないと駄目なのだろうか。まあ、手に入れたところでお酢が見つかっていないから作れない……いや、柑橘系の果物があれば作れるかな? それも見たこと無いけど。


 食べている間に徐々に満腹度が回復していく。【上級料理】の熟練度の影響でバフはついていない。そして食べ終わる頃には満腹度は最大値の100%まで回復した。



 依頼の対象のエネミーを倒したことで、使っていたスキルの熟練度が上がった。今回の戦いで使用していたスキルは、【毒魔術】【縄術】【投擲】。【毒魔術】は元から熟練度が90%を超えていたため1%しか上がらなかったけど、【縄術】は5%、【投擲】は4%上がった。


【投擲】はそもそも熟練度が低かったので上げやすいのだけど、出来れば【縄術】の熟練度をさらに上げて2次スキルにしたいところ。


【縄術】は2次スキルになると【鞭術】になるのだけど、UWWOの検証を進めているプレイヤーたちが纏めている公式の攻略WIKIに掲載されていた。

 実のところ、私は【鞭術】を取得するために【縄術】の熟練度を上げたいわけではなく、別のスキルを取得したいからなのだ。


 それは他のゲームなどで見かけることがある、スネークソードや蛇腹剣と呼ばれる武器を扱うためのスキル。

 それに似たスキルが【縄術】の熟練度を100%にしたうえで、【短剣術】もしくは【長剣術】の熟練度を100%にしていることで、【縄術】からそのスキルに上げられることがわかっている。


 そのスキルの名前は【鞭剣術】。

 ただ、私の想像していたスキルとはどうやら少し異なるらしく、この武器スキルに対応する武器はカーリングソードというらしい。


 知らない武器の名前だったので調べてみたところ、インドの武器らしい。柔らかい鉄を使った刃渡りの長い長剣? でインドではウルミと呼ばれている剣。

 切れ味は良いらしいけど、どう見ても戦闘向けではないし、見つけた情報からしても演舞で使うのが主みたいだ。


 さすがにUWWOで武器として出てきている以上、演舞で使う物ではないだろうし、スキルアシストがあるだろうから使えないということは無いと思う。どう見ても使い勝手悪そうだけど。


 ただ、よく考えてみると、蛇腹剣がUWWO内に存在しているとして、現段階でプレイヤーの鍛冶師があんな複雑な武器を作れるのかと、申し訳ないけど疑問。あれを2次スキルで作れるとは到底思えないし。


 蛇腹剣が存在していれば、おそらく住民の鍛冶師で作れる人はいるだろうから、そこから買うことは出来ると思う。

 だけど、少なくとも総合委託に流れている所を見たことが無いので、コネなり何なりを得てから、それを作れる住民の鍛冶師に直接注文しないと手に入らなそう。


 私は【血魔法】で武器が作れるから、買えなくても鍛冶で作れなくても関係ないけどね。

 あれ、何だろう。作れると思うけど、MPの消費が激しそうな気配が……


 ……とりあえず【縄術】は【鞭剣術】にするつもりで熟練度を上げていこう。



「ぎゃあぁっ!? お前らみたいのがここに居るんだよ!?」

「そりゃあ、お前たちみたいなカモを狩るために決まってんだろ!」


 スキルの熟練度上げに戻ろうとしたところで、どこからか悲鳴が聞こえて来たため【感知】を使うと、複数のプレイヤーがこちらに向かって来ているのがマップに表示されていた。


 数は……6? エネミーはいないみたいだ。【感知】で表示されている点の配置と聞こえて来る声からして、2グループっぽいけど何だろう? 片方から悲鳴が上がっているみたいだから襲われているのはわかるけど、目視出来ていないので詳しい状況がわからない。声だけ聞けば襲っている方はPKerっぽいけど。


 私は状況を把握するために【上級隠蔽】によって気配を薄め、シャドウダイブを使って姿を隠し、近づいて来ているプレイヤーたちを待った。



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