第30話 PKerは倒すに限る

 

 そして、隠れてから20秒ほど経ったところで知らない4人組のプレイヤーと、見たことがあるような気がする2人組のプレイヤーが、シャドウダイブ中の視界に入ってきた。


「ぎゃああ!?」


 襲われているプレイヤーが自身に迫って来ていた攻撃を寸でのところで躱す。今攻撃したのは2人組の方の……レッドNAMEプレイヤー、あ、前に倒したことのあるPKerだ。


 うーん。それにしても樹々が生い茂る視界の悪い森の中で4対2という数で優っているのに、4人組の方が一方的に攻撃されているのは何故?

 第2エリアに来られている段階である程度のLVはあるだろうし、ステータスもそう差があるとは思えないのだけど、突然襲われたからパニックになって逃げている感じなのかな?


「おいおい、逃げちゃだめだろ! アースウォール」


 逃げ惑う4人組の逃げ道を制限するようにオレンジNAMEのプレイヤーが、本来はエネミーからの攻撃を防ぐために使う障壁系のスキルを発動させる。


「おべっ?!」

「おま、ちょっ?!」


 シャドウダイブ中の視界はそれほど広くはないので、どの辺りにアースウォールが出たのかはわからないけど、聞こえた声からして、どうやらそれに当たってしまったプレイヤーが居たようだ。


「おいおい! ふざけんなよ! 今までレッドにならないように加減してたのが無駄になっちまったじゃんよ」


 いや、襲われている側からしたら理不尽な発言だよね。

 まあ、こんなことを嬉々としてやっているプレイヤーなのだから、ある意味変な発言ではないのかな。この手のプレイヤーは自分が良ければそれでいい、自分に不都合なことがあったら人の所為にするものだし。


「そんなの知るか、ってうお?! あぶねぇ!」

「隙あり! ってお?」


 既に見える範囲から出て行ってしまっているので何が起きているかわからないけど、どうやらもう1人のPKerに攻撃されてギリギリで躱したみたい?


「おい、そいつは俺の獲物だ。他の奴を攻撃してろ」

「あーはいはい」


 うん? PK側は仲が良い訳ではない? そう言えば、連携して攻撃している感じではないし、今まで会話もなかったような。偶然一緒にいて、都合がいいから同じ相手を攻撃しているだけなのかもしれない。


 距離的にそろそろ出ても問題ないかな。あっちが【感知】系のスキルを使っていたら気付かれる可能性はあるけど、様子をみていた感じだと頻繁には使ってないみたいだからおそらく大丈夫。まあ、先に気付かれたら逃げるか、倒すかすればいいんだし。あ、いや、気付かれなくても倒すけど。


 周囲を確認してから潜っていた影の中から出る。そしてすぐに戦っているプレイヤーたちから見えない場所に移動して、【感知】でPKer2人の場所を確認する。


【感知】で見る限り、近い方のPKerとの距離でも10メートル以上離れていた。一応、ブラッドウェポンで攻撃できる範囲ではあるけれど、視界の悪い森の中だと当てるのに不安な距離なので、武器を構えながら静かに近づいていく。


「はっはー! おら、死ね!」

「うぐっ!」


 気付かれること無く、前に倒したことのあるPKerの後ろに回り込むことが出来た。襲われていたプレイヤーが2人になっているようだけど、殺されたのか逃げ切れたのかはわからない。

 ただ、攻撃している側の2人から倒したような発言はないし、襲われている側から仲間が倒されたと取れる声も聞こえていないので、逃げ切れた可能性が高そうかな。


 とりあえず、PKerは攻撃することに集中しているようなので、隙だらけの背後からレイピア型に変形させたブラッドウェポンを構えて、【細剣術】で覚えた[ピアース]を発動させてから攻撃する。


「ほれほれ、ぬるぽっ。ガッ!?」


 弱点に攻撃したことで倒せたのはよかったけど、なんか絶妙なタイミングで攻撃が当たったっぽい?


『アナウンス

 レッドNAMEプレイヤーを討伐しました。

 討伐されたレッドNAMEプレイヤーに掛かっていた懸賞金がギルド金庫に送金されました。おめでとうございます』


 ≪ワールドアナウンス

 賞金首のレッドNAME:ププリ・ペペルペルポが討伐されました。

 条件を満たしたため、ププリ・ペペルペルポが投獄されました≫


「へっ? え?」


 突然襲い掛かって来ていたPKerが死亡したことで、襲われていたプレイヤーが驚いているけど、それは無視して次に移る。


「他のプレイヤーだと!? しかもあいつ死んだってことは、禊できなくなったじゃん! ふざけんな!」


 片方が倒されたことに気付いたもう1人が声を上げる。そして【感知】を使ったのか、すぐにこちらに向かって動き始めた。

 ただ、もう1人の方が奇襲によって倒されたことで警戒しているのか、木の間を縫うように移動しながら近づいて来ている。


 さすがに、このままブラッドウェポンで攻撃するのは難しいので、【影魔術】の熟練度が75%に上がった時に覚えた、範囲攻撃スキルの[シャドウニードル]を使って、一時的に動きを封じる。


「シャドウニードル」

「ウィングショ、ちっ!」


 スキルの発動に合わせてシャドウニードルの攻撃範囲が地面に表示される。

 それを見た相手はすぐに横に飛んで攻撃を避けようとしたけれど、それよりも早く地面から複数の黒い棘が無数に伸び、それの一部が相手に当たった。


「ぐっ! 範囲攻撃持ちとか、ミスったな。さっさと逃げとけばよかった」


 シャドウニードル自体の攻撃力はかなり低いので与えたダメージはかなり少ないけれど、あくまでも動きを止めて攻撃しやすくするためなので、問題はない。

 何か言葉の割に余裕そうな表情をしていることが少し気になるけど、探ったところで私に利はなさそうなのでさっさと倒すことにする。


「おべっ?!」


 背後から弱点に攻撃されたことでHPが全損した相手が力なく地面に倒れ、数秒もしない内にポリゴンになって消えていった。


『アナウンス

 レッドNAMEプレイヤーを討伐しました』


 ≪ワールドアナウンス

 レッドNAME:バルアルファが討伐されました。

 条件を満たしたため、バルアルファが投獄されました≫


 アナウンスが出たけど、今倒したプレイヤーは賞金出ないのか。さっきのはあったのだけど、レッドNAMEでも全員に懸賞金がかかっている訳ではないってことかな。


 それと、襲われていたプレイヤーがいつの間にか居なくなっていたのだよね。まあ、絡まれても面倒なだけだから別にいいのだけど。

 

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