第28話 防具を新調する

 

 そろそろガルスの防具屋の営業が始まる時間なので、丁度営業が開始する時間に着くように調整してギルドを出る。


 既に日が差している時間なのでじりじりとダメージを受けている感覚を覚え、ギルドを出てから1分くらいで受けたダメージは35。【日光脆弱】の説明に書いてある通り10秒に1%のダメージになっている。

 日光によるダメージの受け方は10秒ごとにカクカク受けるのではなく、常に減り続けて10秒でちょうど1%分減る感じ。

 だから、1~2分に一回ポーションを使っていればガルスの店にはたどり着けるはず。



 セントリウスの街中を駆け抜ける。

 走りながら周囲を確認していると、プレイヤーがそこそこ増えているが見て取れた。まあ、日中のこの時間にログインしているのはそれほどいないので、ちょこちょこアバターの上にNAMEが表示されたプレイヤーを見かける程度だけど。


 セントリウスの中央にある噴水広場を通り過ぎる。そこでふと掲示板に掛かれていた内容を思い出した。


 そう言えば噴水の近くにテレポーターかもしれない石像があるんだっけ? 壊れているらしいけど。


 噴水の近くに石像がないか探してみる。すると、噴水から少し離れたところに上の方が崩れている石像のようなものを見つけた。

 私はそれに近付き、確認のために【鑑定】を使った。



[(オブジェクト)壊れた何かの石像〔セントリウス〕 Ra:Ex Qu:- Du:-/-]

 壊れた石像。本来はなんらかの機能があったと思われるが、損傷が激しく、本来の機能が使えないどころか、何の用途で使われていたかさえわからない石像。



 掲示板で書かれていた通りのことしか書かれていないのか。うーん、でも後ろにセントリウスって載っているからテレポーターの可能性は高そうかな? さらに触って確認してみる。



『アナウンス

 この石像は修復が可能です。

 修復することで本来の機能を使用することが出来ます。

 修復に必要な素材は、以下の通りです。

 石材:0/100・宝石類:0/100・重力石:0/100・魔石(中):0/1 』



 おぬ? 何か触ってみたらアナウンス来たのだけど。修復可能? 掲示板ではこのアナウンスの事は何も言っていなかったから、未確認情報? それとも知っているプレイヤーは要るけど秘匿しているだけかな。


 でも、うーん。修復に必要な素材に重力石や魔石が入っているから、やっぱりテレポーターっぽい? 重力が次元に干渉とか、ファンタジーでよくあるし。

 石材は簡単に集まるけど、他がねぇ。宝石は委託に流れているから買えなくはないのだけど、魔石なんて物は見たことが無い。それに最近、重力石が手に入りにくくなっているのだよね。

 圧縮鞄を自力で作ろうとしている錬金師が出て来たのか他の理由があるのか、ASが上がってきているし委託にない時が増えて来た。一応、見つけたら買うようにしているから1つも持っていないということは無いけど、100個集めるとなると現状難しいかな。私が使う分を気にしないなら出来なくはないけど。


 やっぱりイスタットに行かないとって、HPが大分減ってきている。危ない。


 石像の事に集中しすぎてHPが7割以下にまで減ってしまっていたので、慌ててポーションを使う。


 とりあえず、今この石像に対して出来ることは無いので、一旦石像の事は忘れてガルスの所に行こう。



 噴水広場から離れ、10分程走ったところでガルスの店に到着した。


「ん? おお、来たか。夜に来ると思っていたが、大丈夫だったのか? 確か日差しでダメージ受けるんだろう?」

「大丈夫。何とかなった」

「そうか」


 店に入った私に気付いたガルスが声を掛けて来る。店の中には他の客の姿は見えない。

 あまり人気が無いのかなと思うけど、作ってもらっている装備の性能が良いから、セントリウスにプレイヤーが多く来れるようになれば、こうやって対面でゆっくり対応してもらうことが出来なくなるくらいには繁盛しそう。


「頼まれていた物は全部出来ているぞ。ちょっと待っていろ」


 そう言ってガルスは店の奥に在るらしい倉庫へ、私が頼んでいた装備を取りに行った。


 昨日、ガルスに頼んでいたのは、岩陰色のコートの改造だけでなく、胴と腰、それと脚装備の製作だ。


 今装備している防具は、第2エリアに来た最初の頃に作った物で、持っていた素材が少なかったから、ガルスが出してきた有り合わせの素材を使って作られた物だ。使った素材が第1エリアに生息するエネミーの物だったため、第3エリアの素材を使っているにも関わらず、能力が微妙な物だったらしい。

 比較対象が無いので私にはわからないけど、ガルスはそう言っていた。


 今回は、フォレストシャドウウルフの素材が多く手に入れたので、それを使って新しい防具を作ってもらったのだ。


「ほら、これだ、確認してくれ。それと余った素材はこっちだ」


 余ったらしい素材を直ぐにインベントリに入れて、差し出された箱の中身を確認する。そこにはしっかりコートと頼んでいた装備が入っていた。



[(防具)森影色の皮鎧 Ra:Uc Qu:B Du:100/100 SAS:18000]

 隠蔽能力の高いフォレストシャドウウルフの皮から出来た皮製の鎧。鎧と名前が付いているが見た目は普通の服とそう変わらない。隠蔽能力の高いモンスター素材を使用しているため、着用者の気配を薄くし、隠蔽能力を強化する。また、森の中に入る事でさらに隠蔽能力が強化される。

 装備効果:VIT+30 MND+14 隠蔽系強化(中) 認識阻害(微) 影属性強化(小)


[(防具)森影色の長ズボン Ra:Uc Qu:B Du:100/100 SAS:13000]

 隠蔽能力の高いフォレストシャドウウルフの皮から出来た皮製の長ズボン。ズボンと名前が付いているが防具として扱われる。防具としての性能は十分備えており、着用者の気配を薄くし、隠蔽能力を強化する。また、森の中に入る事でさらに隠蔽能力が強化される。

 装備効果:VIT+20 MND+12 AGI+6 隠蔽系強化(小) 認識阻害(微) 影属性強化(小)


[(防具)森影色のブーツ Ra:Uc Qu:B Du:100/100 SAS:12000]

 隠蔽能力のフォレストシャドウウルフの皮から出来た皮製のブーツ。森の中や夜闇に溶け込むような色をしており、着用者の気配を薄くし、隠蔽能力を強化する。

 装備効果:VIT+16 AGI+21 静音(中) 影属性強化(微) 悪路軽減(微)


[(アクセサリー)森岩影狼のコート Ra:Ep Qu:B Du:120/120 SAS:22000]

 やや緑がかった暗い岩色の裾長のコート。動きを阻害しない程度に裾が長く狼の頭を模ったフードが付いている。フードを被ることで日を遮ることが出来、同時に認識阻害の効果が発揮される。森影狼の素材が使われたことで後天的に属性が追加された珍しいコートとなった。フードにつけられた狼の瞳が怪しく光る。

 装備効果:VIT+35 MND+8 土属性付与(微) 影属性付与(中) 隠蔽系強化(小) 静音(小) フードを被った際に認識阻害(小) フードを被った際に感知範囲強化(小)



 うん。強いね。今付けている防具の倍くらいの性能だ。特に腰と脚は倍以上の性能になっている。

 それと、ガルスの言った通り、同じエリアで取れる素材を使った方が性能は上がるみたいだ。まあ、使っているのはあの犬とゴリラの素材だけなのだけど。


「こんなもんで大丈夫か?」

「うん」

「コートの方は、最初に言った通り、初期にあった能力は弱くなっている。特に斬撃耐性は無くなっちまったな。代わりにVITがちょい上がってはいるが」

「問題ない」


 斬撃耐性が無くなったところで攻撃を受けなければいいし、そもそもエネミーで斬撃属性の攻撃をしてくるのは今のところ見ていないので、無くなっても問題はない。


「そうか。なら、今回は材料全持ち込みだから予定通り40000ASだな。着替えるなら前に使ったあそこに行け」

「ん」


 ガルスに指定された通りの額を支払う。そして、更衣室に入って装備を替える。


「……前も思ったが、装備替えるの速いな」

「異邦人だから」

「うん? ……ああ、そう言えば異邦人は一々着替える必要ないんだっけか」

「そう」


 ガルスは少し恥ずかしそうに頭を掻いている。

 なるほど、知らなかったわけではなく、忘れていただけのようだね。


「余計なお節介だった訳か」

「それは人によると思うけど、私は助かる」

「ならよかった」


 私もフルダイブ型でなければそこまで気にしないのだけど、フルダイブ型となると自身が着替えているのと同じだから気にはなる。装備を替えるのは一瞬だけど、着替えているのには違いないし、気にしている人はいると思う。


 そうして、防具を受け取った私はギルドに戻ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る