第23話 苦行を乗り越えし者

 

 私と同じ高難易度のエリアが初期地点のプレイヤーって、最初はそれなりに居たらしいのだよね。掲示板を見る限り20人くらいは居たっぽい。まあ、掲示板情報だから全員が第3エリアが初期地点だったかどうかはわからないけど、それくらい居たことは確か。

 でも、チュートリアルが受けられないとか周囲のエネミーが強すぎるとかで、大半のプレイヤーはそう時間が経たない内にキャラメイクからやり直していったらしい。


 だから、次々と同じ境遇のプレイヤーがプレイをリセットしていく中で、このプレイヤーはその苦行を乗り越えてここまで来たということだ。


「ん? あれ、ネーム出てない。まさかNPC!?」


 え? 何でNPC……って、ああ、NAMEを非表示にしているからか。プレイヤーNAMEはデフォルトだと表示される設定だし、住民にはNAMEの表示はないからそう思われてもおかしくないのか。


「違う。私、プレイヤー」

「え? あ、そっか非表示にしているのか」


 NPCではないと否定すると、そのプレイヤーは一瞬理解できないといった表情を浮かべたが、直ぐに納得したようで直ぐ笑顔に戻った。そして、さすがに振り向いたままだと姿勢が辛かったのか、立ち上がってこちらに向き直した。


 あ、向き直ったから気付いたけどこのプレイヤー結構身長が高い。たぶん170センチは超えている? それに女性だ。


「ここに居るってことは、貴方もこのエリアスター……トの割には、装備が良いような? もしかして、このエリアスタートでない?」


 まあ、このプレイヤーの装備はまだ初期のままだからわかりやすいけど、私は既に装備を替えているし。たぶん、自分と同じように第3エリアスタートのプレイヤーが、まだ他のエリアへ行けていないと思っていた感じかな。


「一応、このエリアスタート……です。ただ、もう別のエリアに行っているだけ…です」

「あ、なるほど、そうかって…え? もう他のエリアに行った人が居たの? 掲示板だとそんな情報は…いえ、別に掲示板を使わない人もいるよね。だったら変でもないのか」


 うーん。このプレイヤーの人、考えていることを口に出すタイプの人なのかな。まあ、わかりやすいし、ちゃんと考えているみたいだから説明する必要もなさそうだから良いのだけど。


「ほ、本来だったら一緒に別エリアまで行こうって誘いたかったのだけど、貴方はもう自力で別エリアに行けるんだよねぇ。だとすると一緒に行動するメリットはないか」

「まぁ」


 確かに一緒に行動するメリットは私にはない。ただ、後はセントリウスに戻るだけだからゴフテス討伐くらいなら一緒にやっても良いのかもしれない。討伐が終わったら即解散でも良いのだし。


「メリットがない以上無理に誘うのは駄目だよね。残念だけど仕方ない…か。なら、どっちに行けばいいかとか、教えて貰えたり?」

「それくらいなら」


 まあ、別に減る物でもないし教えても問題はないよね。最初はあれだったけど、今のところ態度が悪いとか騙そうとしている感じはないから、関わっても嫌な事にはなりそうにないし大丈夫そうかな。

 それに私と同じように苦行の末にここに辿り着いたプレイヤーだから、多少助けても良いかなって気持ちもあるし。


「ありがとう! それでどこに向かえば別エリアに行けるの? マップの矢印からして南に行けば良さそうだけど、あっちはダムっぽいし」

「南で合ってる。あれはダムではなく防壁?みたいな物。それともう少し先に行くとBOSSエリアがあるから、そこのBOSSに勝たないとたぶん向こう側の第2エリアには行けない…です。後、この先にリスポーン設定が可能な場所はないです」

「あれって、ダムじゃなかったのね。しかもBOSSを倒さないと駄目と。ん? 第2エリア? 先が第2エリアってことは、ここって……」

「第3エリア……です」

「えぇ……マジか」


 うーん? ここが第3エリアだったことに気付いていなかったの? 公式ホームページに載っているマップと照らし合わせれば何となく場所は分かるはずなのだけど。もしかしてあまり情報を確認しない、攻略本とか嫌いなタイプのプレイヤーなのかな。


「しかしBOSSが居るのか。しかもリスポーンポイントが更新できないとなると、負けたら最初から? 最悪なのでは? あの、BOSSの強さとかは…」


 あ、うーん。別に教えるのは良いのだけど、ネタバレとか好きじゃないかもしれないしどこまで話して良いのだろうか。……NAMEとLV、それとどんな戦い方くらいで良い…のかな。


「どこまで言えば?」

「あ、あー、そっか。まあ、いつもだったらネタバレは避けたいところだけど、さすがにもう他のエリアに行きたいからその辺りは気にしないで良いです。はい。気遣いありがとうございます」

「なら、えっと。BOSSのNAMEは岩腕のゴフテス。LVは28で属性は土です。戦い方については近接戦闘物理特化で、見た目が体高3メートル越えのゴリラ。NAMEの通り腕全体が岩を纏っている感じになっていて、体も所々岩を纏っている感じなので、STRだけじゃなくてVITも高い感じ……だと思います」


 ゴフテスの説明はこんなところかな。後は攻撃方法と特殊行動についてか。初見であのブレス擬きを躱すのは難しいし、初見突破するなら知らないと駄目だよね。


「ゴフテス? どこかでその名前を見たような気がするけど、岩を纏っているという事は物理耐性があるのね。そして近接型。私、耐久高めの近接物理メインのスキル構成なのだけど、勝てるの?」

「……PS次第?」

「それって、普通に戦ったら負けるってことでは?」

「……まあ」

「マジか」


 まあ、見る限り装備している武器が最初の私と同じで初心者のナイフだけみたいだし、防具も初心者シリーズならステータス次第だけど一撃食らっただけで死ぬ可能性もあるかな。耐久高めらしいから一撃死はなさそうだけど、どうだろう…3発耐えられればいい方?


「あの、やっぱり一緒に来てもらっても……、あ、いや、嫌ならそれでもかまわないです!」

「元からそろそろ帰る予定でしたので、問題ないです。ただ、必ず勝てるかはわからないですけど」

「え? いいの!? あまり関わりたくなさそうな雰囲気だったから、駄目かと思っていたんだけど」

「まあ、序だし、帰る時に戦うかどうか迷っていたから」

「そっか。一緒に戦ってくれるならどんな理由であれ、ありがたいですね」


 そうしてこのプレイヤーと一緒にゴフテスを倒すことになった……のだけど、そういえばこのプレイヤーのNAMEを聞いていなかったことを移動し始めた後になって気付いた。

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