第9話 何か出た

 

 最初の一回目以降はしっかり連携のことを話し合ったから、少しずつ討伐タイムが早くなり、周回ペースが上がってきた。


 さすがに1分を切るようなことは無かったけど、2時間くらいで30回ほどオルグリッチを倒している。途中、経験値の取得のために弱点攻撃無しでやった時は5分以上かかった。まあ、兄曰くそれでも早いらしいのだけど。


 素材もそれなりに集まったし、LVも一応上がった。ギルドポイントに関しては一回ギルドに行かないと加算されないみたいだからわからないけど、兄が言っていたことが正しいのなら180ポイントくらいは溜まっているはず。


 それと、そろそろ時間的に日が昇ってくるから戻らないといけない。多少時間に余裕はあるのだけどギリギリで終わらせると街に着く前に日差しでダメージが入るようになるかもしれないからね。

 あ、でも、今回は兄が居るから別に問題はない? 一応回復魔術は使えていたから、ダメージを食らっても問題は無いのか。


 うーん、いやでも。それをあてにすると気付いたら日差しが強くなっていそうだ。だから次で止めよう。うん。そうしよう。


「次、最後で」

「え? あぁ、そうか了解」


 え、もう? みたいな表情をした兄だったけど、私が日中だとダメージを受けることを思い出したようですぐにそう返事をして来た。


「じゃ、入る」

「おけ」


 ウィンドウに出ている再戦しますかの選択でYESを押す。そして、次第にエリアが変わっていき……見慣れないエリアに飛ばされた。


 あれ? 今までのオルグリッチがいたBOSSエリアじゃないのだけど? 今までならちょっと暗めの空が広がる草原って感じの所だったのに、ここは荒野? 空模様は同じ感じだけど、何か変なフラグでも踏んだのだろうか。


 いや、まずは警戒をし……


「え? ぺぎょむっ!?」


 周囲の変化に警戒を強めた瞬間に横に居た兄から変な声が上がった。何事かと警戒のために【上級感知】を使いながら兄の方を確認する。


 するとそこには兄のアバターの下半分だけが残っていて、それが徐々にポリゴンになり始めていた。


「え?」


 状況が呑み込めない。上が無いってことはアバターが千切れてなくなったってこと? いや待って。オルグリッチって初手後衛に向かって攻撃する奴だったよね? 何故兄が先に攻撃されているの? いや、そもそも兄のステータスでVITが2番目に高いとか200は行っているとか言っていたのだけど、それでこれなの? 即死攻撃?


 いや、まずは警戒! 兄が何にやられたかはわからないけど、少なくともオルグリッチではないことは確定。


「ギュギョアアア!!」


 後方から高速で接近してきている赤い点と叫び声。まずい、このままだと私も兄の二の舞になってしまう。直ぐに回避…は間に合いそうにないからシャドウダイブ!


「ギョアアア!!」


 何かが私が隠れている影の上を通過していく。それが通過したのを【上級感知】で確認してから直ぐに影から出る。そして、今通過していった相手を確認……砂埃で視界が悪くて確認できない。まさか、荒野エリアの影響が出るとは。すぐに砂埃が立っていない場所に移動するけど、その間も相手は高速で移動し続けている。


 砂埃の中から出ることでようやく相手の姿を確認できた。見た目はオルグリッチと同じ感じ。ただ、サイズが全体的に一回り大きい? いや、首とかの弱点部位が明らかに違うな。たぶんオルグリッチと同じようにはダメージが入らない感じかもしれない。


 そんなことを考えている内に相手がこちらに迫ってきているので横に回避って!?


「ちょあっ!?」


 変な声が出たけど思い切り横に飛んだので回避は成功。と言うか、いきなり進行方向を30度近く変えて来たのだけど、危なく当たる所だった。


 形からしてオルグリッチ系だと思ったから直線的な攻撃しかしてこないと判断したら、いきなり曲がって来るとか驚く。さすがに進路を90度変えるとかは出来なさそうだけど、あの感じだと45度くらいは変えてきそう。気を付けないと。


 それにあれが走っている限り砂埃が立ち続けるから、正直やり辛い。それにオルグリッチとは違って方向転換の時に減速していないみたいだから、攻撃のタイミングが掴み辛いな。


 しかも私のスキル構成だと、オルグリッチみたいに一時的にでも減速してくれない高機動型って、あまり得意ではないのだよね。魔法系でもあそこまで動いていると当てるのが難しいし、さっきみたいに方向転換できるなら、回避力も高そう。しかも即死級の攻撃持ちか。ああ、これは勝てないかも?


 まあ、負けるにしても出来る限りはやろう。あ、その前に鑑定をしておいた方が良いか。


[(モンスター・レアBOSS)蹴奪のグラングリッチ LV:24 Att:風・毒]

 HP:3467/3500

 MP:315/315

 スキル:■


 レアBOSSとは? 名前が違うけどオルグリッチ関係っぽい感じだ。LVが高いけど、属性は変わっていない感じか。同系統なのかな。

 それと何かちょっとだけどダメージを受けているのは何で? 私はまだ攻撃していないから自滅ダメージ? それとも、兄が死ぬ前にギリギリ攻撃できたのかもしれない?


 とりあえずダークランスで攻撃。……うん。当たらなかった。やっぱりカウンター系じゃないと駄目か。


 正面から攻撃すれば当たるだろうけど、その代わり攻撃が躱せなくなるから死ぬよね。うわぁ、これ詰んでいる? 


 真面に戦おうにも、攻撃の手数が足りない。と言うよりは、囮が足りない感じか。何故兄は先に死んでしまったのか。まあ、初見であれを躱せと言うのが無理な話か。


 それにしてもカウンター。カウンターかぁ。おそらくすれ違いざまに攻撃するのが良いのだろうけど、攻撃するなら首? でも首太くなっているのだよね。あれだとオルグリッチみたいに怯んでくれないかも。いや、一回攻撃してみればわかるかな。


 迫って来ていたグラングリッチを躱して、同時に【血魔法】で作った短剣で攻撃。


「ギョエアッ!」


 グラングリッチは悲鳴を上げたけど怯んではいないか。って、ちょっと待って。人工血液の耐久値が1割近く減ったのだけど!? 何で!?


 あ、カウンターに失敗したとか、上手く出来なかった時のペナルティかもしれない。それに切ったと言うよりもぶつけた感じの当たり方だったし、そんな当たり方をすれば普通の武器でも余計に耐久値が減りそうだ。


 とりあえず鑑定。うーん、グラングリッチのHPは1割減ったくらいか。一応1割は超えていそうだけど、これで弱点攻撃になっているの? いや、当たりが悪かったと言うことなのかも。


 また向かって来ていたグラングリッチを躱す。砂埃がすごい。もしかして、このまま少しずつダメージを与えていくのは良くないかもしれない。明らかに周囲の見晴らしが良くなくなってきている。

 たぶん全く見えない、ということにはならないだろうけど少なくとも相手が何をしてこようとしているか、どっちを向いているのかは遠目ではわからないくらいにはなりそうだ。

 現にグラングリッチが通り過ぎて直ぐの場所は向こう側が薄らとしか見えないくらいにはなっているし、時間が経つほど不利にはなりそう。


 あ、これもしかすると【水魔術】とかを使えば改善する系? しかもぬかるみとかを作り出せればワンチャン転びそうな気もする。


 さっきからちょくちょく攻撃しているのだけど、やっぱり当たらない。いや、当たる時もあるけどカス当たりとかで、大してダメージにはなっていない。やはり攻撃は首刈りオンリーになりそう。


 それと相手の狙いを定めにくいように私も移動している。ただ、AGIの差かサイズの差か、確実に倍以上に速度が違うから逃げ切るのは無理。いや、逃げるつもりはないけどね。


 もう一度すれ違いざまにカウンター。さっきとは違って少し武器の当て方を変えてみる。今度はしっかり切ったような感覚があったけどどうだろう。


「ギョルッアアァア!?」


 お? さっきとは叫び方が違う、もしかして倒れて……はいないか。残念。HPは……7割切ってる? 2割近いダメージ……って、特殊行動の事忘れていた! あ。グラングリッチがこっちを見て何か構えて……


「ギョオガァアア!!」


 咆哮……いや、雄叫びか。って、怯み(1)の状態異常ついた!? 拙い、凄く拙……あ、詰んだ。


 雄叫びを上げ、私が怯むと同時に走り出していたグラングリッチが眼前に迫っている。うん。動けないから躱せない。いや、動けてたとしてもここまで近くに迫っていたら躱せないな。


「へぷっ!?」


 痛覚設定をオフにしているから痛くはないけれど、顔面にグラングリッチの攻撃を食らって私の視界が消失した。そして、兄が一撃で死ぬような攻撃を受けて私が耐えられる訳もなくその一撃でHPが全損し、私は死亡した。


 ああ、視界が真っ暗だ。ん? これはもしかして私のアバターの頭が消め……、考えないようにしよう。……うん……そうしよう。


『HPが全損したため、当アバターは死亡しました。周囲に蘇生が可能なプレイヤーがいないため、蘇生待機時間を短縮し、最も新しいリスポーン地点に転送します』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る