第10話 他の所でも出たらしい

 

 転送による光が収まり視界が正常に戻る。周囲に見えるのはセントリウスの中央付近にある噴水広場。要はリスポーン地点だ。


 徐々に視界が戻るのは久しぶりの感覚。あ、そう言えばここに来てから一度も死んでいないのでは? 日中外に出なくなったから日光のダメージで死んでないし、戦闘で死んでもいなかったはず。うん、結構久しぶりかもしれない。前がゴフテスの時だったはずだからリアル1週間は死んでなかったのか。


 さて、時間的にそろそろ日が昇るね。ギルドに移動し…何か、足元に居るな。うん、まあ、それが何かは直ぐにわかったけど、これはどう反応すべきなのか無視するのが一番?


「アユさん! 申し訳ありませんでしたぁ!」


 えぇ、こういうの要らない。目立つから嫌なのだけど、時間的にまだ住民も殆どいないからましではあるのだけど、嫌な物は嫌だ。


「謝罪、要らない」

「いやでも、壁役やるとか先に言っておいて即落ちとか、無いだろ。何やってんだよ俺。ゴミかよ」

「別に気にしない。初見であれはどう見ても躱せないし」

「でもなぁ。アユがあれだけ粘っていたのに俺は即落ちとか、さすがにねぇよ」


 私もそこまで耐えていた訳でも…ん? 何か私が何をしていたのかを見ていたかのような言い方だったな。


「ん? ごめん。さすがに何を言いたいのかがわからん」

「見てたの?」

「え? あぁ、なるほどそう言う事か。パーティーを組んでいる時は全滅しない限りリスポーンしないんだよ。だから死んでもその場に留まる…幽霊状態に近い感じになるんだ」

「そう」


 なるほど。だから見ていたような発言、いや、実際に見ていたからあの発言か。

 と言うか、見られていたの、あれを? 変な声が出た時も? ……何か少し恥ずかしいのだけど。まじかぁ、見られていたのかぁ。これは、あれか。兄を足蹴にすべき時が来た? 丁度いい位置だし、1度くらいなら。

 ……いや何か、止めておこう。最初にいた位置からして蹴られるのを望んでいるような…気がしないでもないし。


「それで、リベンジするのか?」

「うーん」


 リベンジか。そもそもあれって次も出て来るの? レアBOSSってことは毎回出ないよね。それにもう日が昇るし無理かな。


「しない」

「え? しないのか? 何時もだったら勝てるまで何度もやっていたよな?」

「まあ、うん。そうだけど、今回のやつは多分まだ勝てないと思うから」

「そうか。一応あと3人は呼べるけど」


 ああ、他のメンバーも呼んで討伐すると。でも、今回兄と組んで戦ったからわかったけど、今の私のスキル構成、と言うか戦闘スタイルは完全にソロ向きなのだよね。

 ここの所ずっとソロでやっていたからと言うのもあるのだろうけど、他のプレイヤーと連携するのが難しい。私は基本弱点攻撃主体だから連携とかがあった物ではないし、兄みたいに合わせてくれる感じで来てくれないと逆に私が動けなくなるし。

 まあ、それ以前に時間なんだけどね。


「そろそろダメージ食らうのだけど」

「あ、そうだった。一旦ギルド行くか」

「うん」


 そう言って兄が立ち上がる。ついでに兄のアバターの兎耳が私の顔にべしっと当たった。


「あ、ごめうぐすっ!」


 ちょっとイラっとしたので腹パンする。ダメージは入っていないしそんなに力も入れていないので、そこまで痛くは無いはずだけど必要以上に兄が痛がっている素振りをしている。まあ、お道化ているだけだろうから無視していいだろう。


「ねぇアユさん。何かゴリっと来たんだけど」


 そう言えば制御の指輪を嵌めたままだった。まあ、自業自得ということで無視してギルドに行こう。




 ギルドに着くと兄のパーティーメンバーがそろって待っていた。


「ああ、やっと来たか」

「ん? 何かあったのか?」


 エンカッセの発言に兄が反応する。しかし、ここに集まっていると言うことは兄に用事があったと言うことだろう。私の可能性も微レ存だけど。


「とりあえずギルドカード更新してきていいか? あと、戦闘関係だと今はデスペナ中だから難しいぞ」

「急いでいないから構わない。だが、デスペナってことは死んだのか」

「おーう、殺された。まあ、その話はカードを更新してきてからな」


 そうして受付でギルドカードを更新する。ギルドポイントの方は確かに増えている。先に受けた依頼分を加えて66ポイント増加している。うん? でも兄の言うとおりだったら後120ポイントくらい増えているはずなのだけど。


 そう思って兄を確認すると同じく想定していたよりもポイントが少なかった事で困惑している兄の顔があった。


「え?」

「嘘つき」

「いや、完全には嘘ではないだろ。だけど、申し訳ない気持ちはある…が、あれってもしかして回数制限付きだったのか?」

「ああ、なるほど」


 確かに制限が無いと倒し易いBOSSを永遠にマラソンしてギルドポイントを大量に稼げてしまう。ポイントによって解放される部分がある以上、さすがにそれが出来たら問題があるよね。


「10回目までがカウント」

「だろうなぁ」


 まあ、ギルドポイントは思っていたより手に入らなかったけど、素材の方は沢山手に入ったから良いか。後は依頼を熟してポイントを稼いでいこう。


「終わったか」

「ああ、それで何かあったのか?」

「BOSSに関する事だな」

「BOSS?」

「ああ、掲示板からの情報だがSSもあったから嘘ではなさそうだ」

「どの掲示板だ?」

「ウエストリアの攻略掲示板だな。BOSS羊の所で別のBOSSが出たらしい」

「ん?」


 それはグラングリッチと同じ系のやつ? レアBOSSだから別の所で出てもおかしくはない。ただ、タイミングがそんなに変わらないのが気になる。もしかしてイベントの後のメンテナンスの時にサイレントで入ったのかも?


「出てきたのは、レアBOSS斜陽のダークライツシープ。属性は闇だそうだ」

「逆の属性が出て来たのか。時間が関係するタイプ?」

「その辺りはまだわからない。一応先ほどのことらしいから夜ではあるな」

「そうか。まあ、俺らも似たような奴に会ったんだけど」

「は?」


 それが普通の反応だよね。たぶん私も同じ立場だったら似たような反応になるだろうし。それに、話題の存在に似たような奴が他にも居たなんて聞けば驚かない方がおかしい。


「デスペナ関係か」

「そうそう。瞬殺された」

「初見なら仕方がない場合もあるが、お前が瞬殺されるとなると攻略は現状ムリだな」

「まさか、不意打ちとはいえクリティカル無しの通常攻撃で一撃とかふとももでも下手すれば溶けるんじゃないか?」

「聞く限りだと否定はできないな。まあ、直接見ていないから正確な判断は出来ないけどさ」

「BOSS名はわかるか?」

「俺はわからない。そもそも姿かたちも正確に把握する前に死んだからな。まあ、姿に関しては死んだ後に確認したけど。オルグリッチのごつくなった感じのやつだったな。アユは名前、わかるか? 【鑑定】はしていたと思うけど」


 兄は鑑定する暇もなく蹴り殺されたから仕方ないね。死んだ後に【鑑定】できれば楽なのだろうけど、さすがに許されないか。


「ん。蹴奪のグラングリッチ。LVは24で属性は風と毒」

「オルグリッチの純粋強化型か。やはり倒すのは無理だな」

「それで、どうするんだ? この話をして来るってことは羊の方を倒しに行くのか?」

「まあそうだな。ただ、直ぐにではない。あいつらも居ないし俺らだけが先行する訳にもいかない」

「まあ、そうか。じゃあなんだ?」

「お前のこれからの予定を聞きに来ただけだ。掲示板の話がメインだが」

「あーそれは」

「私、この後は生産」


 兄が私の予定に合わせようとしてきたので直ぐにこの後の予定を示す。今から外に出たらダメージ受けるから、って。あ、でも、そろそろ積極的に【日光脆弱】の熟練度下げた方が良いか。うーん、まあ、それは1人の時にやろう。


「だ、そうなので俺はパーティーに戻ります」

「お、おう」


 何かやらかしたのかこいつは、みたいな表情でエンカッセが兄のことを見てから私の方を見て来たけど、大体そんな感じです。みたいな感じで頷いた後に兄とのパーティーを解消して、私は生産施設の方に向かった。

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