第47話 嫌な奴とは関わらないが吉

 

 何か変なのが近づいて来た。それと同時に兄のアバターが私を隠すように移動して来る。ああ、直ぐにこうするってことはあまり良いタイプのプレイヤーではないのか。

 そう判断して、隠蔽で姿を隠すように意識する。何かあったら直ぐに逃げることが出来るようにしておこう。むしろもう逃げた方が良いのかもしれないけど、そうすれば変に意識される可能性もあるし今は動かないでいよう。


「何の用だ? いつもだったら声なんて掛けてこないだろうに」

「いやー、何かやっているみたいだったんで見に来ただけですよー」


 明らかに警戒しているエンカッセの雰囲気を気にも留めずその男は私の方に視線を向けている。どうやら最初から見つかっていて、何らかのターゲットとして認識しているようだ。


「で? 何の用もないならさっさとどこかに行って欲しいんだが?」

「つれないなー。まあ、いいか。で、その子は何です? いつものメンバーじゃないですよね。新入り?」


 もう完全に煽るようなおちょくるような、はっきりと嫌がらせとかの悪意ある意思がわかる口調だ。多分、相手が嫌がっているのも理解した上でやっているのだろう。悪質なプレイヤーは本当に絶滅して欲しい。


「フレンドどころかブラックリスト入りしているお前には全く関係ないことだ。それだけならさっさと消えろ」

「えーいいじゃんさ。ちょっと、ねぇ、ちょっとだけでもさぁ」


 そう言いつつ私のことを見ようと近づいて来た。

 最悪である。やはり人の多いところには来るべきではなかった。兄は私にとっての疫病神か何かなのかもしれない。正直話し方が気持ち悪いの一言。

 そのプレイヤーと対面しない様に兄の体を軸に移動する。


「ねぇ、鑑定させて。それで十分だから。したら別の所行くって」


 絶対に鑑定はさせたくない。そもそも許可なくプレイヤーを鑑定するのはマナー違反だ。まあ、このプレイヤーがそれを守るとは到底思えないけど。

 しかも、問題はこのプレイヤーがいくら嫌がらせをしてきてもこちらから攻撃することは出来ないと言うこと。これがオレンジネームやレッドネームなら問題なく攻撃して撃退できるけど、そうでない場合は攻撃すればオレンジネームに、倒してしまうとレッドネームになってしまう。

 こういうプレイヤーはこういう仕様を悪用して他のプレイヤーに嫌がらせをしてくるので、悪質極まりない。

 おそらく他のメンバーの人が運営に通報しているとは思うけど、それでも直ぐに対応してくれるわけじゃないから、結局は自力で何とかしなければならないという話だ。


「ねぇってさぁ!」


 強引に兄を横にどかして私の前に来ようとするゴミを避けるようにシャドウダイブを使う。ちょうど兄の背が南門に向いているのでこのまま南門から街の外に出て行こう。フレンド登録も済んでいるし、もうここには用はないから問題はない。


 【影魔術】の熟練度が上がっているのと装備の影属性強化のおかげで、シャドウダイブで影の中に入っている状態でもある程度移動できるようになっているので、噴水から出来るだけ離れた見えづらい位置に移動する。そして影から出て直ぐに南門の方向に走って行った。

 これがもう少し時間がたって日が昇っていたら上手く影に隠れられなくて逃げることが出来なかったかもしれない。今後のことも考えるともう少し隠蔽系のスキルを強化したり取得したりした方が良いのかもしれない。


 南門を抜ける。今回は問題なく通過できた。

 一気に走り抜けたからそもそも門番の人に認識されていたかどうかも疑問ではあるけど、そこは気にしないようにしよう。

 この後は、一番近くの村の宿に泊まって夜になるのを待った方が良いのか、それとも近くに森があるらしいからそこに行ってそのままセントリウスまで移動した方が良いのか。どちらを選んでも時間的にダチョウの居たところから2つ目の村で宿に泊まってログアウトしないといけないのだけど、どうしようか。



 とりあえず、ウエストリアから一番近いログアウト可能な宿がある村についた。そして宿を取って中に入る。さっきの悪質プレイヤーから回避したことで忘れかけていたけど、兄に防具用の素材を渡してしまおう。

 あ、その前に今送っても問題ないか確認をしないといけないか。フレンドチャットを開いて兄のアバターNAMEであるファルキンを選択。そして、今からチャットしても問題はないかの確認を取る。すると直ぐに返信が来た。


 ――――――――――――

 ファルキン:今からでも問題はないぞ

 ファルキン:さっきはすまなかった。本来ならもっと庇えたらよかったんだけどあいつあれでブルーNAMEだから下手なことが出来ないんだよ

 アユ:理解している。問題ない

 ファルキン:それならよかった。それで何の話だ?

 アユ:さっき素材渡すって言った

 ファルキン:え? あれマジだったの? 冗談だと思っていたんだけど

 アユ:今から譲渡申請する

 ファルキン:え? もう?

 アユ:そっちも予定あるよね? だったら早い方が良い

 ファルキン:そうだけどさ。本当にいいのか? 今のより良いのが作れる素材ってかなりレアだと思うけど

 アユ:問題ない。私には合わない素材だったから

 ファルキン:ならいいけど

 アユ:譲渡申請した。素材3つ分。防具全部作るのは足りないけど、少なくとも胴の防具は作って

 ファルキン:ああ、受理した……って待って! これ何さ! アユさん、ちょっと!?

 アユ:?

 ファルキン:ちょっと前にアナウンスがあったBOSSの素材なんてどこで取って来たんですか!? お兄さん聞いていませんよ!?

 アユ:普通に倒した奴

 ファルキン:え? それマジでっすか? 

 アユ:うん

 ファルキン:おうふ、マジかぁ。一つお聞きしますが、現在のLVは?

 アユ:16

 ファルキン:オウェッファエェ!? おっ、まっ13!

 アユ:大丈夫?

 ファルキン:大丈夫! 兄、正気戻った!

 アユ:……そう

 ファルキン:うわぁ。いろいろ衝撃を受けたけど、コレマジで貰って良いの? 簡単に手に入る感じじゃないだろ?

 アユ:いらないからいい。物理職向け。斬撃耐性が付くらしい。一応その素材使った防具のSS

 ファルキン:おぉう。マジか。装備効果がもうね…多い。まあ、素材はありがたく貰っておく

 アユ:うん

 ファルキン:む、そういえば普段どこで活動しているんだ?

 アユ:セントリウス

 ファルキン:どこだそこ…って、はぁ!? セントリウスって第2エリアじゃないですかぁ!? ちょっと待って!

 アユ:もういい?

 ファルキン:ちょっと待ちなさいアユさん。いや、第2エリアってことはオルグリッチ倒したて来たの!?

 アユ:うん。大して強くなかったから

 ファルキン:うぐふぅ。まじっかよ。強くないって。ってあぁ! ソロアナウンスぅ!!

 アユ:何か大丈夫? 混乱中なの?

 ファルキン:アユパイセン! オルグリッチの攻略法を教えてくだせぇ!

 アユ:遠隔で状態異常は直せない。無念。

 アユ:胴体魔法、首物理

 ファルキン:いや、それは一回戦ってみればわかります

 アユ:……翼を広げた時の内側の毛が薄かったから多分物理通る。首は無理やりでも当てた方が良いかも?

 ファルキン:翼マジか。いや首の位置考えてください。無理です

 アユ:どうにかする。たぶん首攻撃して弱点判定とかクリティカル判定出れば転ぶと思うから

 ファルキン:えぇ? 一応考慮はしておきます

 アユ:もういい?

 ファルキン:あ、はい

 アユ:じゃ

 ファルキン:ああ、何かあったら連絡してくれよ。LV的にあまり役に立たないかもしれないけどな orz

 アユ:そんなことは無い

 ファルキン:アユさん (´;ω;`)ブワッ

 ――――――――――――


 何か兄の反応が怪しいというか情緒不安定というか心配になる感じだったけど、まあ用は済んだし次のことを考えよう。


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