第46話 兄、装備、チェンジ!

 

 30分くらい歩いたところで目的地の噴水に到着した。警備の人から解放された後に連絡はしてあるからもうこの場に居てもおかしくはないのだけど…。そういえば兄のアバターの外見を知らないから見かけてもわからないのでは?


 とりあえず周囲を見渡す。確か兄のアバターNAMEはいつも使っているファル何とかだったはずだから、そんな感じのNAMEが出ているプレイヤーを見つければいいはずだ。


 見た感じ周りにそれっぽいNAMEのプレイヤーは1人いるけど、さすがに身長170くらいの白兎獣人の男でふわふわファッションの変態ではないはずだ。あれは明らかに女性もののデザインだと思うけど正気なのだろうか。


 何かこっちに向かって手を振っているけど違うはず。そうであって欲しい。こっちに向かってきているけど私の後ろに待ち人が居るとかそれだよね?


「おーアユ。やっと到着したか」


 うーわー、兄だったかぁ。まあうすうすどころじゃなくそうだとは思っていたけど、正直もう少しまともな装備でいて欲しかった。いや、何を装備するとか着るとかは個人の自由だけど、身内がこうなっていると何かこう…何かなぁって感じ。言葉にできないけど微妙な気持ちになるよね。


「あ……うん」

「ん? ああ、この装備か。…一応これでも最前線で使われてる奴なんだが、何故かこれ作った奴が悪乗りして俺だけこんな感じになっているんだよ。正直別のやつに変えたいところなんだが、地味に他のヤツより性能が良くて替え辛い」


 なるほど。兄の趣味ではないなら仕方ない? けど早急に別の物に替えて欲しいと思うのは自分勝手だろうか。いっそゴフテスの毛皮が残っているから渡すのもありかもしれない。


「いや、そんな目で見ないでくれると助かるんだが。別に好きで着ている訳じゃないんだぞ」

「そう」

「理解してくれると助かる」


 やっぱり渡しておいた方がいいかもしれない。少なくとも昨日倒したダチョウだと防具向きではないし、ゴフテスの素材を使った物に関しては物理よりの装備になるみたいだからあげても問題はないはず。そもそも私にはあまり向いていないし。


「……アイテムの受け渡しってどうやるの?」

「え? フレンドリストから譲渡を選択すれば出来るけど、何でそんなことを聞くんだ?」


 フレンドリストからと言うことはフレンド以外には譲渡は出来ないと言うことか。知らない人に譲渡することはまずないから別に構わないけど、これだともしかして近くに居なくとも譲渡可能なのかな。


「その装備は替えるべき。譲渡って近くに居なくとも出来る?」

「まあ、同じ国の領内に居れば可能だけど。ってか替えるべきって、他に良いのが無いのに無理だろ」

「そう。じゃあ、後で装備に使えそうな素材譲渡しとく」

「いや、何故?」


 ゴフテスの素材は兄に渡すことは確定として、この後は何をするつもりなんだろうか。来いと言われたから来たけど、理由は聞いていなかったな。


「そういえば何で呼んだの?」

「え? いや、いまさらそれ!?」

「? うん。聞いてなかったし」

「おーう。言ってなかったかぁ? …いや、言った記憶はあるんだけどな、まあ良いか。俺が今組んでるパーティーメンバーと顔合わせだな。と言ってもメンバーはいつもの奴らだからフレンド登録がメインになると思う。アユもずっとソロでやるにしてもフレンドはもう少しいた方が良いだろ?」


 いつものと言うことは他のゲームでも会っているだろうからすぐ終わるかな。多分面倒なことにはならないはずだ。


「つーか、もうそこに居るから行くぞ」


 エルフが2人と獣人が2人、後は多分ヒューマンだと思われる5人組の所に兄が私の腕を引いて向かう。ああ、さっきからこっちを見てきていたから何でだろうと思っていたけど、あそこに居るのがそうだったのか。


「すまん。先に話し込んじまった」

「良い良い。UWWO内だと初合流だろう? それにこう言うのはいつも通りだしな」


 兄の謝罪に獣人の男…多分黒犬が軽く笑って返した。隣に居たエルフ男もうなずいているので、目の前にまで来ていたのに無視して話し込んでいたことは問題なかったようだ。


「とりあえず自己紹介って程ではないが、RACEとNAMEくらいは言っておいた方がいいだろ。多少は外見から誰かはわかると思うがNAME…はそういや上に出ているんだったな。ならいらないか?」

「一応しておいた方がいいんじゃないの? エンカッセ以外はRACEが違うし、私の場合はNAMEも前とは違うから」


 上にエンカッセと出ているヒューマンの男が、自分で言いだしたことを否定すると横に居た白猫?の獣人の女がそれを否定した。ヒューマンの方は見覚えが…多分ある。何となくNAMEの方も覚えている感じがあるから会ったことはあるはずだ。白猫獣人の方は本人が言っていた通り見た目もNAMEもまったく見覚えがないのでこの人だという確証はない。


「そうか? ならしておくか。まあ、見て分かると思うがエンカッセだ。RACEはヒューマン。他のでも会ったことはあるが、UWWOでもよろしくな」

「次は俺な。ふとももだ。RACEは獣人(黒犬)だ。NAMEは適当に付けただけだから深い意味はないぞ」


 エンカッセの自己紹介が終わって直ぐに横からふとももと名乗った男が出て来た。そもそも自分から深い意味はないって言うのは、大半は逆に疑われると思うのだけど。まあ、言い方からして本当に深い意味は無いようだけどね。


「ジュラルミーんよ。RACEはエルフ。前会った時のNAMEはミント。よろしくね」


 ああ、あのよくNAMEが変わる人か。前に会ったのは半年くらい前だったはず。そしてこの後の2人から自己紹介が終わったので次は私の番になるのだけど、どこまで話していいのだろうか。なるべくRACEとかも話さない方が良いのだけど、兄を除いて口は堅い方だったしRACEの方も公式のホームページで多少公表されているからそこまでなら問題ないかな。


「……アユです。RACEは………ヴァンパイア。よろしくお願いします」


 私が自己紹介をした瞬間に兄を含めて全員の動きが止まった。多分RACEが原因だと思うけど、そこまで驚くようなことでもないはずだけど。


「え? ヴァンパイアなの? マジで!?」

「見た感じヴァンパイアっぽくはないけど、キャラメイクの結果か?」

「見た目ヒューマンと変わらないけど、なるほどだからその装備か」


 なるほど、見た目が普通だから驚いていたと。兄に関しては元からレアRACEであることは話しているからそこまで驚いている感じはしないけど、もしかしたら言う前から気付いていたのかもしれない。


「ああ、だから今まで合流してなかったんだね」

「納得した。いつもならファルキンはすぐにでも合流しようとしていたからな」

「ホント、マジで早く合流したかったんだけどなぁ」


 まあ、確かにいつもはゲームを始めて直ぐに合流してプレイ時間の半分くらいは一緒にプレイしていたから、いつもとは大分違う流れになっている。そもそも今回は前のゲームでのことを踏まえて、殆どソロプレイするつもりだったから別に合流することはあまり考えていなかったんだけど。


「でもアユちゃんは、前のこともあるから完全にソロでやるつもりだったんだよね?」

「そう」

「うぐぅっ!」


 兄が攻撃を受けたように仰け反った。前のことに関しては完全に兄が原因だから反省して欲しいところ。UWWOでも何となく怪しい感じだからなるべくコンタクトは取らない方が良いのかもしれない。

 あ、それを考えると、ゴフテスの素材を譲渡するのは悪手なのでは? いや…でも、それ以上に今の兄の装備は替えた方が良いと思うし。


「まあ、前のことはより反省するとして。フレンド登録も済んだし、この後どうするんだ?」

「考えてない。けど、とりあえずギルドに行く」


 もうそろそろ日が昇ってくる時間だし、ギルドに一旦避難して生産活動って感じかな。それで夜になったらセントリウスに帰ればいい。少なくとも人の多いここで活動するつもりはないから。


「あっれー。エンカッセさんたちじゃないっすかー! 皆さんお揃いで何してるんですー?」


 意図しない所から話しかけられたことで、私たちはその声がした方に意識を向けた。

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