第1回イベント

第32話 住民(NPC)に初遭遇

 

 ゴリラを倒した翌日の朝。いつも通り8時にUWWOにログインする。

 UWWO内はまだ日中なので、セーフティーエリアにある光がほとんど入ってこない廃屋の中でスキル上げに勤しんでいる。


 ゴリラを倒したことで討伐特典やらLVも上がったのでSTPとSKPは大分溜まった。STPはLUKに15、DEXに5振る。これでステータスすべてが50以上となった。


 SKPの方はそろそろチュートリアルが受けられそうなので、受けてから必要そうな生産と採取系のスキルを取得しようと思う。



 いろいろとやっている内に外が暗くなっていた。


 スキルの熟練度は【血魔術】が55%になり、ブラッドウェポンを使っていたからなのか【短剣術】の熟練度も5%上がって31%になっていた。もう少し熟練度を上げていきたいところだけど、夜が明ける前に日光を防げる場所があるセーフティーエリアに着かないと最悪初期地点に出戻りになるので、早めに出発することにする。


 セーフティーエリアを出て南に向かう。出て直ぐゴリラと再戦しますか、と言うウィンドウが出たけど速攻でNOを選択する。なぜまたゴリラと再戦しなければならないのか。


 再戦を拒否してから道に沿って南に疾走する。ステータスが上がったこともあるだろうけど、大分早く走れるようになった。これなら遠くに見える横に長い何かの下に思ったより早く着けそうだ。




 2時間ほど走った。未だ目標に辿り着けず。


 さらに1時間走った。ようやく目標の全容が見えるようになった。しかし未だ人影は見えず。


 さらに1時間走った。ようやく目標の足元を確認できた。どうやらあれは壁のような物であるらしい。壁は真直ぐ横に伸びているわけではなく少し歪曲して横に広がっていっているようだ。近い外見を上げてみるならダムの水を溜めるためにある壁が近いかもしれない。


 ……いや、まさかダムとかじゃないよね? 

 さすがに何キロも横に伸びているダムなんてある訳ないし、と言うことは防壁とかなのかな。何でそんなものがあるのかはわからないけど、ここに来るまでに見た物から推察するに何かしらは起きたのだろうけど。しかし、人が居ない。



 さらに30分程走ったところでようやく壁の下の方に扉のような物を見つけた。そこに向かって走って行く。しかし、見る限り人の姿は見えない。もしかしたらすでに誰もいない施設とかなのかもしれない。


 ようやく扉の前まで来られた。さてここからどうしよう。

 周りに人はいない。扉自体の高さは3メートル以上ありそうな大きさだし、重さも考えると1人で開けるのは無理。


 扉には人ひとり通れるサイズの扉があったけど鍵付きで押しても引いても開かなかった。後は無理やり壁を登るくらいしかと思って上を見上げたら壁の穴から顔を出していた人と目が合った。かなりびっくりしたけれど、良かった人が居た、これで安心できる……といいのだけど。


「何用でここに来た!」


 どうしたものかと若干焦っていたところで声を掛けられた。まあ、完全に警戒している感じではあるけど、こっちから話しかけるよりは何倍もましである。


「え…っと、ここを通りたいんですけど」

「なぜだ!」

「ええ…そ、そのチュートリアルを受け…る? ために」


 チュートリアルを受けると言ったところで、果たしてNPC、いやここだとNPCって言うと友好度が下がるらしいから住民って言った方がいいんだっけ? それと、住民がチュートリアルと聞いて果たして理解してもらえるのかどうかがわからないことに今更気付いた。


「チュートリアル? ……もしかしてお前…異邦人か?」

「え、あ、うん。そうです」


 チュートリアルは一応通じたようだ。未だに警戒している感じはあるけど、少しはましになっているようだ。


「異邦人は基本的に3国に出るのではなかったのか?」

「……例外?」

「は? ……いや、基本的にだからそういう場合もあるのか? いや…しかし」


 何か悩んでいるようだけど、まあ確かに私が異邦人だ、と言ったところでこの状況でそれを証明できないからわからなくはないけど。できれば早く判断してここを通してほしい。


「ぬぅ…。どのみち判断はしないといけないか。よし! 今からそちらに行く。とりあえず扉から5歩離れた場所で待機していてくれ!」


 そう言って壁の穴から頭だけ出していた人は、頭を引っ込めた。言われた通り5歩離れたところに立っていよう。


 少しして小さい方の扉から錆び付いた鍵を開けるような音が鳴って開いた。そこからさっき上にいたと思われる軍人っぽい恰好をした男の人が周囲を念入りに確認してから出てきた。


「すまないが、そこから動かないでくれ。まず確認することがある」


 動くつもりはなかったけど動くなと言われた以上、それに従う。そして軍人のような人は持っていたカバンから何かを取り出して私に向けた。


 何だろうかあれは……あ、もしかして鑑定用の道具か何かだったり? 鑑定すると所属国とかいろいろわかるらしいし、どこから来たのかわからない怪しい人にするのは効果的だろうしね。


 やっぱり道具の使い方からして鑑定用の道具っぽいな。対象が私じゃなかったら何とも思わなかっただろうけど、さすがにいきなりやられるのは気分がいい物じゃないのだけど。


「すまない。人に擬態するようなモンスターが稀に出ることがあってな、怪しい人物には真っ先にやるように指示されている」


 間違ってはいないけど、こんなやり方だと何かしら問題が起きたりしないのかなぁ。偉い人とかがお忍びで来てこんなことされたら国際問題とかになりそうだけど。それともそういったことが日常的にあるのだろうか。


「問題は無いようだが、ヴァンパイア…しかも純血? 100年前のスタンピードで途絶えたのではなかったのか。いや異邦人なら関係ない…のか?」


 何かブツブツ言っているけど、スタンピード? ここに来るまでに崩れた家とか小屋があったのはそれが理由なのかな。


「…まあいい。お前が異邦人だと証明するものはないか? できればギルドカードがあればすぐわかるが」

「ギルド…カード? それはないです」

「ん? ああいや、すまない。そういえばチュートリアル受けるとか言ってたな。なら持っているわけないか。他には…」


 ギルドカードはチュートリアルを受け終わらないともらえないので、私が持っているわけがない。しかし、他に異邦人であると証明できる物は何か……、あ、そういえばインベントリは異邦人しかもっていなかったはずだ。そう思いついて私はインベントリを軍人らしき人に見せた。


「これは? ん? ああなるほど、これがインベントリか。ふむ、確かに異邦人のようだな」


 どうやらようやく警戒を解いてくれたのか、軍人らしき人のこわばっていた雰囲気が和らいだ気がした。


「しかし、岩腕はどうしたんだ? 少し行ったところに居座っていて通れなくなっていたはずだが」

「倒した。これで証明できる?」


 ゴリラを倒した時に手に入れた通行証を見せる。しかし、あのゴリラはここに居る人にも認知されていたのか、出来れば住民の人たちで排除してくれればよかったのに。そうしたら私があんな苦労をしなくて済んだのに。


「は? マジかよ。お前岩腕を倒したのか? 1人で? 嘘だろ?」


 なんだかとても驚いている様子だけど、確かにLVも低いし、見た目的に強くなさそうなのが倒したなんて言ったら信じられないだろう。


「通っていい?」


 このままだとろくに話が進んで行かなそうなので軍人らしき人に問いかける。


「え? ああ問題はない。通っていいぞ、付いてこい」

「そう」


 軍人らしき人はいきなり問いかけられてびっくりしたようだったけど、通行の許可を出してくれた。そういって軍人らしき人の後に続いて扉を潜った。


「ここからこっちに入ってきたやつは俺がここに就いてから初めてだな。この先に何があるか知っているかはわからんから言っておくが、この先、多少距離はあるが中央都市セントリウスがある。犯罪をするつもりはないだろうが、この辺の住民は基本何かしらの自衛手段を持っていることが多い。だから下手にケンカを売るようなことはしないことをお勧めする」

「そう。ありがとう」

「おう」


 軍人らしき人の返事を聞いて先に進もうとしたところで、聞かなければならないことがあったことを思い出した。


「あの、聞きたいのだけど、この辺で安全に休憩出来るところはあ…りますか?」

「安全に休憩? そういや、異邦人は俺たちよりも頻繁に眠ることがあるとか聞いたな、それ関係か? だが、残念ながらこの辺には人が住んでいるようなところはない。防壁の中なら可能だが、部外者を中に入れるわけにはいかんし。廃墟とかでいいならこの先に多少あるが、周辺に何もないから野盗とかは出ん。ただ、俺らは任務中だからここからは離れられんしなぁ。たまに魔物が出る時があるから完全に安全かと言うと微妙なところだ」

「わかった。ありがとう」

「何があるかわからんから気を付けろよ!」


 軍人らしき人の忠告に頭を下げてから、道を進んで行った。そこから20分程行ったところに入っても問題なさそうな廃屋を見つけたので、そこで多少見つからないようにカモフラージュしてから私は一旦ログアウトした。

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