運営裏話・1


 サービス1日目


「さて、さっきサービス開始したが問題は起きていないか?」

「今のところ問題はないですね。アバター制作の方で少し待機組が出ていますけど、それも1分以内で解決していますし」

「そうかなら良し。種族関連で問題は出ていないよな? あれはベータの時に確認していないし今回初めて稼働する奴だろう」

「種族の方はないですね。いち早くキャラメイクしたベータ組とかは気付いてすらいないようですが、これは後で荒れるんじゃないですか?」

「まあ、それはある程度想定していることだ。元からレア種族は少ない方がゲームとしてのバランスは取れるし、むしろ俺はない方が良いと思っていた派だからな」

「そうですけどねぇ。こういうサプライズ的な物は必要ですよ? それにしっかり確認すれば気付ける範囲のことですから、気付けなかった方が悪い、そう言うことですよ」


 画面から目を離さずに会話に入って来た男がそう言うと、周りで作業している者たちも納得して同意と言った感じで頷いていた。


「あ、初めて称号取得者が現れました」

「え、早くないか。ベータの参加者の称号ではなく別の?」

「別のですねぇ。まあ、比較的直ぐ取得されると予想してた世界の不思議のやつですよ。とは言え私も早いとは思いますけど」

「あー、あれか。確かにあれなら気付く奴はすぐ気づくか」

「ああ、しかもレア種族のプレイヤーですね。種族ヴァンパイア(純血)。確かプレイヤーだけじゃなくてUWWO内で1人だけの設定でしたっけ」


 称号を取得したという報告をした男がそう言うと周りで話を聞きながら作業していた者たちは驚いたようにその男の方に振り向いた。


「マジかよ。そっちももう出てんのか。まさか初日で出るとは思っていなかったんだけど。確率何%だっけ」

「大体50万分の1だから……0.0002%くらいですね。まさに豪運の持ち主と」

「すごいなホント。第2陣で出るかどうかとか考えていたんだが」

「そうですねぇ。ただこのまま続けるかはわかりませんが」

「あー、確かに。通常のやつに比べて種族値1.4倍と1.5倍の種族は僻地スタートだっけか」

「そうですね。しかもヴァンパイア(純血)は、……確か1番面倒な第3エリアからのスタートですからね」

「続けてほしいところだがどうなるかねぇ」


 男はそう呟きながら他の作業をしているところを確認するために他の場所に移動していった。



 8日目


「進行の方はどうなっている。順調か?」


 PCに向かって忙しなく作業をしている者が多く居る部屋に入って来た男が、部屋の中の人たちに向かって声を掛ける。


「ああ、主任。まあ、基本的には順調ですよ」

「基本的? 何かあったってことか?」

「ああ、いえ。何かあったって程じゃないです。小さなバグがいくつか見つかったって感じですね」

「あー、そういう感じか。被害か何か出たのか?」


 主任と呼ばれた男がそう聞くと、話していた男は少し言い辛そうにしてから口を開いた。


「ああ、うーん、まあそうですね。被害と言う程ではないと思いますが…、少しありまして」

「しっかり報告しろ」

「え、あ、すみません。簡単に言うと、1プレイヤーに被害はあったと言えばあったのですが、その後自力でどうにかしてしまいまして、その詫びとして少し対処した感じです」

「どういうことだ? いや、どんなバグだったんだ」

「第2エリアの先にある第3エリアの序盤に森があるじゃないですか、そこのバグですね」

「第3エリア? まだ行けたなんて報告はないから、レア種族関係か?」

「そうですね。あそこに純血のヴァンパイアの初期地点を設定していたんですけど、森にはあのフォレストシャドウウルフってモンスターが居るんですよ」

「え? そのプレイヤーまだ諦めてなかったのか。もう開始1週間経つが」

「不屈の精神ですねぇ。まだやめてないどころか、ついさっきゴフテス倒していましたよ」

「は? マジで? いや……まさか初見でじゃないよな?」

「マジなんですよ。まあ、さすがに初見ではないですが、時間かけてじわじわ削って行った感じですね。あ、そこも状態異常系のバグがありましたが修正済みです」

「状態異常のバグ?」

「微毒と毒が二重で掛かるようになっていました。それはさっきのバグとは関係ないんですけど。あそこの森って入る時に門番モンスターが設定されていたんですよ。さっき言ったウルフが」

「二重とかまあ修正したならいいが。森の門番って、ああ誰だったか、なんか前にそんなことを言っていたな。ヴァンパイアが住んでいた廃屋があるから簡単にたどり着けないようにとかなんとか言って」

「それが、どうやら出て行く時も出て来るようになってまして、そのプレイヤー死に戻りしたんですよね」

「直ぐ対処したのか、いや、話からして対処する前に突破したのかそいつ」

「そう言うことですね。そのバグについてはもう修正しています」

「それならいいが、しかし第2エリアボスの前に第3エリアのボスが倒されるとは考えていなかったな」

「普通はそうだと思いますが、倒されたくなかったわけではないのでしょう?」

「当たり前だ。むしろそう言った想定外の事が起きた方が観察している分には楽しいもんだよ」

「まあ、主任はそうですよね。直接作業するのは俺らですし」

「そんなこと言ったところで、君だって別に嫌ではないだろう」

「そうですけどね。あ、そういえばそのプレイヤー世界の不思議について掲示板に流してましたね。あんまり掲示板とか見たり書き込んだりしていないようですけど」

「そういう時だってあるだろう。と言うかあれ見つけたプレイヤーが少なすぎて作った奴が拗ねていたな」

「そうですねぇ。そういえばこの前の迷惑プレイヤーのアカウントBANしましたけど良かったんですか」

「構わんだろう。いちいち時間かけても無駄だし、温情掛けたりしてもまたやるだろうし。すぐに対処した方が後々のリスクは少なくなるだろうからなぁ。直ぐ対処するようにすればああいった馬鹿な奴らも今後減るだろうし」

「そうですか。まあ主任の部下である以上指示には従いますが」

「そうしろ。よほど問題があると判断した時は別だがな」

「最初からそうするつもりです」

「他に問題はありそうか?」

「問題にならなそうな小さいバグがちらほらって感じですね。エリア移動のお仕置きモンスターもしっかり動いているようですし、他の部分もヤバめな物は報告に上がってきてないです」


 主任と呼ばれた男は、ふむそうかと男に返し他の所を見て回ることにしたようだった。


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