不思議な荷物⑪




―――しまった・・・ッ!


そう思った時には既に遅かった。 出てきた女性は年齢から見ても母親で、顔がやつれているよう思える。


「貴方は誰? それは・・・」


母は荷物に貼ってある付箋に視線を落とす。


―――付箋に書いてある住所はここの家のものだ。

―――『間違えました』とか言って、引き返せない・・・。


「あ、え、えっと・・・。 瀬戸内って言います」


ここで嘘をつけばバレた時に怪しまれるのは確実だ。 そのため嘘をつかず本当の苗字を言った。 しばらく前に問題になった相手のため会ったことはないはずだが、それで察したようだ。


「・・・! もしかして、瀬戸内送馬さん?」

「? あ、いえ。 送馬は俺の弟です」


女性は驚いたような怯えたような表情を見せた。


「あぁ、そう・・・! そうだったの・・・! ずっと送馬さんに謝りたかったんです」

「・・・謝りたいって、何をですか?」

「作文コンクールの時、息子の光平が不正をしたということを」

「ッ・・・」


まさか母親の口から聞くことになるとは思ってもみなかった。


―――何だ、全て知っていたのか。

―――子供を守りたくて、送馬が光平くんの作品を真似したと証言していたのか?


「去年、担任の先生に言われたんです。 『お宅の息子さんは、送馬くんの作品を真似しています』と」

「先生も知っていたんですか!?」

「えぇ。 光平は昔から国語が苦手で。 だからすぐにバレたみたいです」


担任は送馬を犯人に仕立て上げた張本人。 だが光平のところへ来た時は真実を追求するつもりだったことになる。


「・・・どうして、息子さんが不正したと認めなかったんですか?」

「父が有名な会社で働いているんです。 光平の評価が下がると父の評価も下がる。 だから先生にお金を渡して口止めしていたんです」

「は・・・!? 金を渡していた、って・・・ッ」

「申し訳ありません・・・。 もちろん光平にはキツく叱っておきました」


いくら渡したのかは分からないが、それで送馬の人生は滅茶苦茶になったことが許せなかった。 だがその許せないという気持ちは脇にある遺体で何ともモヤモヤとしてしまう。 

送馬の話が真実なら正当防衛か過剰防衛にはなるが、殺したのは酷いしそれをバラバラにして隠そうとしたのは流石にやり過ぎだ。


「ッ、どうして光平くんは送馬の作品を盗んだんですか?」

「光平にはどうしても叶えたい夢があったそうです」

「夢?」

「はい。 そのためには徳島の高校に入るしかなかった」

「成績を少しでも上げるために不正をしたんですか?」

「その通りです。 中学校三年生の時の実力では、全然届かなかったので」

「・・・」


怒りとやるせない気持ちが入り混じり何も言葉が出なかった。


「私は反対したんですけど、父がそれを許さなくて」


彼女は深く頭を下げる。


「送馬さんの評価を下げてしまってごめんなさい。 第一志望の高校に入れなかったのは、それが原因だと聞きました」


言い返したい気持ちはあった。 だが遺体のことを考えると強く言うことができない。


「・・・あの、こちらこそごめんなさい」

「どうしてお兄さんが謝るんですか?」

「そんな深い事情があることを知らずに、不正したことに腹が立って仕返しをして・・・」

「?」


彼女は不思議そうな顔を浮かべている。


「ただ張本人の光平はしばらく家に帰っていないんです。 本当は本人の口から謝らせるべきだと思うんですが・・・」


孝行は視線を荷物へと向けた。 光平の母親もつられてそれを見る。 これ以上隠し通すことはできず、孝行は全てを話すことにした。



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