不思議な荷物⑩




その聞き覚えのある声にいち早く反応したのは孝行だった。


「ッ、先輩の声だ! 早く行くぞ!!」


何かは分からないが何かしら問題が起きたのだ。 正直今は目立ちたくない。 二人は急いで声が聞こえた方へ走り出した。


―――・・・あッ!


そこで捜し求めていた本来の荷物を発見した。 どうやら間違えて荷物を持って行ったのは配送員で、工司と口論になっている様子だ。 


「俺がさっきまで運んでいた荷物はどうしたんだよ!」

「そんなものは元々なかった! お前がこの箱と台車を盗んだんだろ!?」

「だから今俺が求めているのは、お客様の荷物なんだよ! 俺の服装を見たら分かるだろ!?」


確かに男は分かりやすい配送員の服を着ている。 だが仕事中にしては荒っぽく、性格的にもおっちょこちょいなのかもしれない。 孝行は慌てて割って入った。


「工司先輩!」

「孝行!」


当然台車は押していて、配送員の男もそれに気付いた様子だ。


「ん? ・・・あ、俺の荷物! お前たちだったのか!? 荷物をすり替えたのは!!」


弟は眠っていたのだから間違えたのは恐らくこの男だ。 だが自分のミスを認める気はないらしい。 見ると孝行たちの箱は既に開けられかけていた。


―――ッ、マズい・・・。


男が工司を差して言う。


「コイツが急に『それは俺の後輩の荷物だから返せ』って言い出してきてよ! これは今から届ける巨大なオーブンだ!って確認したら、中身が入れ替わっているし! 

 何だよ、お前たち三人でグルになって俺を嵌める気か!?」


―――貴方が勝手に持っていったんでしょうよ・・・。

―――というか、配送しようとしているものを普通開けるか・・・!?


そう思うも心の中だけに留めておく。


「荷物は返します。 紛らわしいことをしてしまってごめんなさい」

「ったく・・・」


男は荷物を入れ替えようとした。 それを工司が止める。


「お前の台車はタイヤがすり減っているし大分傷付いている。 荷物だけが移動しているっておかしいだろ」


男は一時停止をした後舌打ちし、孝行たちが引いてきた台車を押してそのまま去っていった。 しばらく沈黙が訪れる。 そして工司が静かに言った。


「・・・箱を開けたことは先に謝っておく。 ・・・だがな、アイツは気付かなかったようだが、俺には中身が見えちまったんだよ。 これは本当に親戚のものなのか? 孝行は知っていたのか?」


―――・・・そっか、先輩が中身を見たのか。

―――透明な袋に入れていたのがマズかったかな。


「はは・・・。 俺さ、さっきばあちゃんが死んでいるの見てきてさ、いや、まぁ、いいや、何つーか・・・」


―――・・・先輩、本当にごめんなさい。


これ以上工司を巻き込んではいけないと思った。 


「先輩。 送馬を連れて高知まで帰ってください」

「え!? ちょ、兄さん何を言っているのさ!?」

「二人共、早く」

「駄目だよ! そんなことをしたらだって、兄さんは」

「俺の言うことを聞けないなら、今すぐに二人をここで殺しますよ。 二人はこの荷物が何かを知らなかった。 高地に来たのは俺一人だけ」


冷たい表情でそう言うと、工司は孝行に縋る送馬の腕を引っ張った。


「ッ、送馬くん行くぞ!」

「兄さん!!」


工司は泣き始める送馬を連れてここを離れていった。 仲のいい先輩だからこそ孝行が何を言わんとしているのか分かったのだろう。


―――俺が捕まるのも時間の問題だな。


工司が通報するのかもしれない。 それならそれでいいと思ったが、もしそうならなるべく時間が経ってからにしてほしかった。 もしかしたら三人でいるところを見た人が出てくるのかもしれない。 

付箋に聞き出した光平の住所を書き箱に貼った。 台車を押しながら光平の家へと向かう。


―――場所はここか・・・?


念入りに場所を確認すると目を瞑って黙とうを始める。


―――ご冥福をお祈り申し上げます。


今までは送馬と一緒に持ち運んでいたが一人でも下ろすのも一苦労だった。


―――あとはどうしよう。

―――警察のところへ行って、自首をするか。


光平の家の前で荷物を下ろしていると、目の前のドアがゆっくりと開いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る