不思議な荷物⑨




―――案外すんなりと聞き出せたな。


やたら声量の大きい中年の女性が耳に口を寄せて教えてくれた。 それでもかなり周りに声が漏れていたように思う。


―――光平くんの事件は随分大きくなっているということか・・・。


まだ亡くなったと決まったわけではないのに、もう完全に事件に巻き込まれた体だった。


―――場所だけでなく住所まで丁寧に教えてくれたからな。

―――戻ったら後でメモすることにしよう。


とりあえずこれで目的地に一歩近付いたということで、送馬のところへ戻ろうとして異変に気付く。


―――・・・あれ?

―――送馬の奴、どこまで行ったんだ?


周辺を探しているとベンチの上でうたた寝をしている送馬の姿があった。 隣には遺体があるというのに随分な神経だ。


―――この件は終わっていないというのに、呑気な奴。

―――まだ気は抜けないんだぞ。


だがそれ以上に何か違和感を感じ、送馬のもとへ駆け寄った。


―――あれ、この箱・・・。


台車は確かに工司の車に乗っていたのと同じものだ。 だがその台車に乗っている箱の何かが違う。


―――ッ、何だよこれ!

―――俺たちの荷物じゃねぇじゃん!!


箱の見た目は全く一緒だ。 だが貼り付けたラベルが違う。 普通なら気付かないかもしれないが、孝行は神経質にそれを観察していたのだ。


―――重さも全然違う・・・!


理由は分からないが荷物がすり替わったのは確かで、それを知っているとしたら送馬しかいない。


「おい、送馬! 起きろ!!」

「ん・・・」


激しく肩を揺すると、送馬は気だるそうに目を開ける。


「俺たちの荷物はどうした!?」

「どうした、って・・・。 目の前にあるじゃん」

「よく見てみろ! 微妙に違うだろ!?」

「え、嘘!?」


送馬も箱を持ち上げ中身が入れ替わったことに気付いたらしい。


「本当だ・・・。 一体どうして?」

「俺は離れていたんだから知るはずがない。 それより送馬は見ていなかったのか?」

「ごめん、すっかり寝ちゃってて・・・」

「・・・まぁ、過ぎてしまったことを責めても仕方がない。 誰かが間違えて持っていったんだろうな」

「台車までそっくりだったのかな・・・。 ごめん、兄さん」

「謝るんじゃなくて、まずは捜そう。 中身を見られる前にな。 はぐれたら大変だから二人で捜すぞ」


入れ替わってしまったが、台車をそのままにしておくわけにはいかない。 台車を押しながらで、あまり目立つわけにもいかないとなると捜索は苦戦するのは当然だ。


「そう簡単には見つからないか・・・」

「・・・兄さんごめん、巻き込んじゃって」

「今更だよ」

「本当は兄さんにはバレたくなかったんだ。 何も悟られず全てを愛媛へ置いていきたかった」


利用したと言ったが、もしバレたら自分には罪が被らないようにしようと思っていたのだろう。 だが自分より頭のいい送馬にしては軽率な判断だったようにも思えた。 

恐らくまともな精神状態ではなかったのだ。


「元はと言えば、送馬が自ら告白をしてきたんだろ」

「いや、兄さんが中身を見たからだよ。 流石に勘付かれたと思って打ち明けた」


―――・・・確かに、一発目に顔を見た時は衝撃的だったな。


「でも勘付きはしないと思うぞ。 俺は送馬を信じているからな」

「それだけの理由?」


それに頷いて今日考えたことを言う。


「あぁ。 だから誰かが送馬に嫌がらせをして送ってきている、そう考えるのが普通だ」

「・・・ありがとう」


捜しているとある叫び声が聞こえてきた。


「だから俺は知らねぇって!」



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