不思議な荷物⑧




配達員を待っていた時と同様に孝行がアパートの階段に座って工司を待つ。 中身が分かってしまった今、例え箱の状態であっても人目にはなるべく晒したくなかった。 

見慣れたワゴン車が到着するのを確認し弟に合図を送る。 工司が車を降りる前に荷物を全て運んでしまいたかった。


「おう、孝行。 って、そんなにあるのか! スペースあるか!?」

「こんばんは、工司先輩。 急にすみません」

「だから平気だって。 可愛い後輩のためだ、急ぎなんだろ?」

「はい」


工司は車の後ろを開けてスペースを確保してくれている。 キャンプ用の細かな荷物は孝行が用意していて、それがないため荷物を乗せるくらいはできそうだ。


「また夜になったら戻らなきゃいけないから、あまり遅くまでは無理だぞ?」

「大丈夫です。 ありがとうございます」

「よしッ」


スペースが空いたのを見てすかさず二人は荷物を積んだ。 工司にはなるべくそれを持ってほしくなかった。


「あ、先輩は持たなくていいです。 俺たちで車に乗せますので。 台車は徳島へ着いてから貸してくれると助かります」

「おっけー。 そう言えば、弟くんには挨拶していなかったな」

「あ、今日はお車を出していただきまことに・・・」

「いやいやいや、そんなにかしこまらなくていいって!」

「そうはいきません。 本当にありがとうございます」


送馬が深々と頭を下げたのを見て孝行と工司は顔を見合わせた。 工司はそれに少し吹き出しそうになっている。


「まッ、いいや。 行こうか」


助手席には孝行が座り、送馬は後部座席に乗り込んだ。 工司は早速とばかりにエンジンをふかす。


「で、徳島のどこまで行けばいいんだ?」

「あ、えっと、場所は・・・」


ニュースで調べた市を伝えた。


「そこまでお願いします」

「おっしゃ。 こんなにデカい荷物、どうすんの?」

「親戚の急な引っ越しが決まったみたいで、荷物を忘れたから届けてほしいと」

「はー、なるほど。 親戚って言えば、さっきまぁ、集まっていたんだけどさ・・・」


工司はマザコンで有名なおじさんが号泣していたことなどを話していた。 それを見ているとどうにも自分が泣くわけにはいかなくなったらしい。 

そのモヤモヤとした感情を発散させるためにも孝行とのドライブは有難かったようだ。


―――適当に理由を言ったけど、信じてくれたみたいでよかった。

―――光平くんの住所は近所の人に聞いたら教えてくれるよな?


自分も辛いだろうにそのようなことを微塵も感じさせない工司のことを孝行は素直に凄いと思っていた。 車を走らせていると嫌なことも忘れられるのだそうだ。 

道中バックミラー越しに後ろを見ると弟はぐっすりと眠っていた。 今日一日かなり動いているし精神的にも疲弊したのだろう。 自分とは違いインドア派の送馬は少々くたびれてしまったようだ。


「着いたぞー。 ここでいいか?」


おおよそ二時間程で目的地に到着する。 ゴールデンウィーク初日であるのに道があまり混んでいなくてよかった。


「はい、ありがとうございます。 おい送馬、起きろって」

「ん・・・」


肩を揺さぶって起こす。 まだ眠そうにしている。


「大丈夫か?」

「最近不安で、あまり眠れなくて・・・」

「もう少しだから頑張れ。 あ、先輩は適当にここら辺で時間を潰していてください。 用を終えたらすぐに戻ってくるので」

「おう、分かった」

「あと台車を貸してくれますか?」


孝行と送馬は台車で箱を運びながら見知らぬ街を彷徨っていた。


「まぁ、適当に探しても見つかるわけがないし聞き込をするか」

「ねぇ、この荷物目立つから、あまり運ばない方がいいんじゃない?」


中に入っているのは死体だ。 どんな拍子で中身が晒されるか分かったものではない。


「あー、確かにそうだな。 じゃあ送馬は荷物と一緒にここら辺で待っていてくれ。 俺一人で聞いてくる」


孝行は一人離れ聞き込みをした。


「あの、すみません。 ここで最近行方不明になった子の住所を知りませんか? 僕の友達なんです」


そう言うとすんなり情報を出してくれた。 やはり行方不明になった事件は広まっているようだ。 一方送馬はベンチに座り孝行の帰りを待っていた。 

だが兄が全てやってくれているということで緊張が抜けまた眠ってしまった。 隣の自販機目当てに一台の車が止まったことも全く気付きもしなかった。



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