不思議な荷物⑦




孝行が一人買い出しに出たのは、弟を出歩かせるよりいいと思ったからだ。 ゴム手袋を付けプラスチックケースとダンボールを買った。 

トランクに詰めることも考えたが、後々の処分のことを考えそれに落ち着いた。


―――これが一番大きいよな?


ホームセンターで売っているのがこれしかないため、他を探しても見つかる可能性は低い。 おそらくはこれで人一人くらいは入れることができるだろう。 そう思うとまたしても身震いしてしまう。 

自分は何をやっているのかと考えてしまった。 だがここで立ち止まっては弟を守ることができない。 会計を済ませ送馬のアパートへと帰る。


「兄さん、お帰りー。 うわ、そんな大きな段ボールよく見つけたね」

「まぁな」


―――ゴム手袋をして運んだから、周りの目が結構痛かったけど。


送馬にもゴム手袋を渡した。


「これ、送馬も付けて」

「分かった」

「そしたら買ってきたこの大きな袋に、遺体を全て入れて」

「匂いが漏れないように?」

「そう」


個別にビニールでは包まれていたが、送馬が開封してしまったものもあるためもう一度詰め直す必要があった。 


「その間、兄さんは何をするの?」

「調べたいことがあるんだ。 その間にパソコンを貸してくれ」


送馬に入れ替えてもらっている間にパソコンを起動し調べ始めた。


―――“徳島で行方不明”っと・・・。

―――・・・うわ、やっぱり結構騒ぎになってんな。

―――高校一年生で名前は光平、まだ捜している最中っていう感じか。

―――まぁ一ヶ月も行方不明なんだし、そりゃあ単なる家出で片付けられるわけがないよな・・・。

―――届けるのは厳しいか?


ガサゴソと袋を広げながら送馬が言う。


「兄さん、手伝ってよ。 一つ一つが凄く重たいんだから」

「それが命の重みだよ。 今俺は調べ物をしているんだ」

「徳島の事件?」

「そう」

「どうなってる? 怖くてニュース、見ていないんだけど」

「騒ぎになってるよ」

「・・・この遺体をまとめたらどうするの?」

「彼の家に遺体を返そうと思って」

「えぇ!? どうしてさッ! 遠くに届けるか、捨てたらいいじゃん!」

「玄関の前に置いたらすぐに帰るから大丈夫だ」

「光平くんの家族がこの箱を開けたら、すぐに他殺だとバレてより大騒ぎになるよ!?」

「それでも自分の子供の遺体が見つからない方が可哀想だろ」

「・・・」


そうは言ったが、弟の件で両親も何かしら関与していると孝行は思っている。 


「ほら、もうすぐで終わるんだろ。 さっさと詰めろ、電話をするぞ」

「・・・誰に?」

「工司先輩だよ。 さっき一通り済んだっていう連絡が来てさ。 気晴らしも兼ねて会わないか、って言われたんだ」


元々はキャンプへ行く約束をしていて、ドタキャンになってしまったため詫びたいといった具合だった。 だが孝行からしてみれば責める気持ちなんて一切ない。 

また日を改めて、そう思ったが車を出してくれる工司は今丁度よかったのだ。


―――俺は最低だな・・・。


弟が自分を利用しようとしていたのと同様に先輩を利用しようとしている。 もちろん死体を運ぶと言うつもりはないが、知られれば恐らく絶交レベルだろう。 もう自分としても後に引けないと思っている。

番号をプッシュするのも躊躇うことはない。


「・・・あ、先輩? 今お時間大丈夫ですか?」

『おぉ、大丈夫大丈夫! 今日は本当にすまなかったな』

「いえ、謝らないでくださいよ。 だけど先輩、本当に大丈夫なんですか・・・?」

『あー、まぁ・・・。 うん。 やっぱり悲しかったけどさ、まぁ、こればかりは仕方がないし。 可愛い後輩に悪いことをしちゃったしな』


電話越しでも仲のいい先輩の声音が普段と違うことくらい孝行にはすぐ分かる。 そんな時にも自分のことを気にかけてくれる先輩を利用としようとしていることに胸が痛んだ。


「キャンプはまた落ち着いたら行けばいいですから」

「ごめんな。 それで、徳島に行きたいってさっき言っていたよな? いいよ、今から気分転換に。 ただキャンプへ行くつもりだったからその荷物があるけど」

「ありがとうございます!」


買い出しにいく途中にメッセージを送っておいた。 唐突な上に工司の精神状態も考慮しない不躾な願いだったが、それでも受け入れてくれた。 

キャンプへ行くための荷物が積まれているだろうということは予想済みで、その中に荷物を運ぶための台車も入っている。 死体を運ぶのに打って付けだ。


「・・・大丈夫? 先輩まで巻き込んで」

「詳しいことは話さない。 気さくな先輩だから大丈夫だ、行くぞ」


間違いなく大丈夫ではない。 だがもう背に腹は代えられないのだ。 孝行は付箋とペンを持ちドアを開けた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る