不思議な荷物⑥
孝行は鼻をつまむのも忘れるくらい送馬の言葉が何を意図しているのか分からなかった。 協力ではなく利用と言った。 弟の言葉が指して言うのは荷物を運ぶということになる。
つまり中身が何かを最初から知っていた。 その考えを裏付けるかのように弟は泣きそうな顔のまま言った。
「僕が殺したんだ。 憶えているよね? 光平くんの、名前・・・」
自首とも言えるその言葉で、パズルのピースが繋がった。 孝行も光平に対して憤りを感じていたためだ。
―――送馬の動機については分かっている。
―――自分の作品をパクられて、その相手が賞を取ったということ。
―――逆に送馬がパクったことになり、送馬の成績が落ちたということも・・・。
―――送馬の担任に話しても信じてもらえず、本当は警察沙汰にしてもいいと思っていたのに『これ以上はもうしなくていい』って送馬自ら言ったんだから。
警察沙汰にしたくないというのは送馬の苦渋の決断だった。 警察沙汰にすれば話は大きくなり、それに関与したというだけで人は送馬のことも色眼鏡をかけて見るようになる。
自分が我慢さえすれば新しい高校生活は普通に送れるのかもしれない。 そう言っていたのだ。
―――だけどあの時の担任は、何故送馬の言葉を信じようとしなかったんだ?
―――担任が一番送馬の成績と文章力を分かっていたはずなのに。
―――担任さえ送馬を信用して話してくれれば、それでよかったはずなのに。
担任を交えた親同士の会話で決着したため、経緯はあまりよく分からない。 だが最終的に送馬が諦めたことで一応区切りはついたはずだった。
―――送馬は諦めて第二志望の高校へ行ったから、もう気にしなくてもいいと思っていた。
―――だけどやっぱり許すことなんてできるはずがないよな。
だからといって、殺すのは流石にやり過ぎだと思う。 だが弟の立場になってみれば、殺したい程憎いというのは分かる。
「ごめん、兄さん。 ずっと言えなくて」
「・・・」
何も言葉を返せなかった。 その代わりずっと分からなかったことを聞いてみた。
「・・・質問してもいいか?」
「何?」
「どうして『警察へ持っていこう』っていう話が出た時、それを止めたんだよ? もういいって諦めたんじゃなかったのか?」
「担任の先生は僕の国語の実力を知っているはずなのに、どうして光平くんを信じたのかよく分からない。 だから光平くんの家族が、担任の先生に何かを言ったんだよ」
「何か、って?」
「脅しとか。 もし警察沙汰にしても僕たちが負ければ、成績がより下がって第二志望の高校からも落とされるのが嫌だった。 ただそれだけ」
「なるほどな・・・」
孝行は箱へ視線を落とし言った。 見るも無残なソレは、無性にやるせない気分にさせる。
「じゃあ、光平くんの死体をバラバラにしたのは?」
「僕がやった」
「だからってここまでしなくても」
眼球は潰れ喉はぐちゃぐちゃになり、そして肌がただれ始めこの世のものとは思えないおぞましさだ。
「運びやすいようにしただけだよ」
「・・・」
「徳島に放置していたらすぐにバレる。 だからできるだけ遠く、愛媛まで運ぼうとしたんだ」
「それで?」
送馬は感情がなくなったかのように淡々と語り出す。
「まずは中継地点として、僕の住むアパートまで運ぼうとした」
「だから身体の部位ごとに箱に詰めたと?」
「そう。 全ての部位を別の箱に入れて、怪しまれないように全て徳島の違う郵便局へ届けた」
「その時に架空の住所を書いたということか」
「そうだよ。 兄さんに手伝ってもらいながら愛媛まで運び、そこで荷物を捨てようとした」
「じゃあ空の箱は一体何?」
「怪しまれないようにたまに紛れ込ませていただけ。 ずっと重たい荷物だと目を付けられそうだったから」
「・・・」
「これが全て。 兄さんお願い。 僕がやったことを、黙っててくれる?」
孝行は真っすぐ見つめる送馬から視線をそらした。 光平に怒りを感じていたのは事実だ。 そして、自分が黙っていれば今のところバレる可能性は低い。
―――・・・俺は送馬を守りたい。
―――大切な家族で弟なんだから当たり前だ。
―――そのためなら、いくらでも悪になってやるさ。
だがこのままでは遅かれ早かれ捕まってしまうのは間違いない。 送馬は隣の県に捨てればいいと言っていたが、関係が深い弟が疑われるのは自然だ。
臭気の立ち込める部屋で考えをまとめ、孝行は送馬を安心させるように小さく笑って言った。
「あぁ、もちろん」
「本当!?」
「でもその前に、新しい箱に手袋をしながら入れ替えないとな」
「え、どうして?」
「この箱には俺たちの指紋がべったりだろ」
これで孝行も共犯者となることが決定する。 同時に携帯が震え一通のメッセージが届いていた。
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