第13話 変化
目が覚めたとき、世界は白く染まっていた。
昨日キングと別れたあと、夢中で走った挙句たどり着いた雑居ビルの一室。
そこで限界を迎え眠りについたわけだが、その時は特に異常は無かった。
珍しくストラスが声をかけても反応してくれなかったのだけが奇妙だったが、せいぜいその程度だ。
しかし今、部屋は真っ白な何かで埋め尽くされていて、自分の身体もハッキリ見えない状態だ。
困惑したまま手を伸ばす。その手は途中で引っ掛かり、それがネバネバした繊維のようなものだと気づく。
まるで蜘蛛の巣のような。
「ひめよわれらがひめよ」
突然頭上から声が掛けられ、そちらに目を向ける。
もちろん手にはナイフを構えるが、異様な姿に思わず手が震えてしまう。
全長は2メートルほどもあるだろうか、8本の足を自在に動かすその化物は、身体が蜘蛛そっくりだが、その先には人間の頭がくっついていた。
姿の不気味さもさることながら、その化物が言葉をしゃべったということに怖気が走る。
2つの眼球をぐりぐりとせわしなく動かしながら、その化物は言葉を続ける。
「ひめよおむかえにあがりました」
焦点の定まらない目、およそ抑揚を感じない声だが、それらが私に向けられているということだけは分かる。
そして答えを待つことなく、化物は音もなく下りてくる。
「来ないで!」
私は叫びながらナイフを振るう。
別に言葉が通じると思ったわけではなく、生理的な嫌悪感からだ。
狙ったわけではないが、ナイフは化物の頭半分を切り飛ばし、そのまま落ちてくる化物を必死に避ける。
化物は床に激突すると、8本の足を必死に動かし、こちらに向き直ろうとする。
「ひめよおむかえにあがりましたひめよひめよおむかえにひめよ」
呪詛のような言葉を血とともに撒き散らかしながら、化物はこちらに近づこうともがいていたが、その動きは少しずつ遅くなり、やがて完全に止まった。
私は深呼吸し、心臓の鼓動をなんとか抑える。
冷静になって部屋の中を確認すると、私が倒れていた場所を囲うように、部屋中に糸が張り巡らされているのが分かる。
目が覚めるまで襲われなかったのは単なる幸運だったのだろうか。
まるで何らかの目的があって、私が起きるのを待っていたかのような。
そんな気持ちの悪い想像をしてしまい、無理やり頭から振り払う。
どちらにせよ、今となっては分からないことだ。
邪魔な糸を切り捨てて外へ向かう。
「何これ……」
空を見上げ、思わずつぶやいてしまう。
1日ぶりに見上げる空は赤かった。
といっても夕焼けのオレンジ色とは全く違う、血のように真っ赤な空が広がり、本物の太陽とは別に黒い太陽がギラギラと妖しく輝いていた。
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