第4話 無惨
夢を、見ていた。
まだ世界が崩壊したばかりで、今まで通りの、なんてことのない日常が帰ってくるんじゃないかと、みんなが淡い夢を見ていたころ。
それでも怖くて仕方なかった私は、たった一人の家族であるパパにすがって泣いていた。
パパは、そんな私の頭を撫でながら、優しく慰めてくれる。
「大丈夫さ、きっと何もかも上手くいく。だからもう、泣くのはやめて笑っておくれ。」
私はパパが大好きで、涙はとっくに止まっていたのに、抱きついて泣き真似を続けていた。
優しく私の頭を撫でるパパ。口から微かにタバコの匂いがして、それを感じることで、私はいつも安心することができた。
そうしていると、突然パパの匂いが無くなったような気がした。
慌てて顔を上げると、すでにパパの姿は消えていた。
何が起きたのか分からず、手元に目を移す。
しかし、さっきまでパパを抱きしめていたはずの両腕は、むなしく空を切るだけだった。
そんなバカな。
私は不安でたまらなくなり、パパを呼びながら、立ち上がった。
それでもパパは見つからず、私は半狂乱になりながら叫び声を上げ続ける。
そんなとき、背後から微かな笑い声が聞こえ、私は振り返る。
―――『ソレ』が異常な存在であることは、一目で理解できた。
小さな焚火に照らされるなか、闇夜に浮かぶように佇む一羽の梟。
ソレは音もなくこちらへ近づき、その躰から人間のような手足が伸びているのが分かる。
瞳があるべき場所には一応穴が開いているが、中に眼球は無く、闇だけがあった。
「吾輩の名はストラス。現世に遣わされた悪魔の一人である。」
不思議と、ソレが言葉を喋ったことに対する驚きは無かった。
ただ、自分の知っている生き物とあまりにも違う存在感に、恐怖を感じる。
人間を遥かに超越した、絶対的な強者としての存在感。
しかし、私が本当に怖かったのは予感だった。
きっと、この悪魔は私に『真実』を告げるために現れたのだという、予感。
私は聞きたくなかった。聞くべきじゃない。今その『真実』を聞いたら、私はきっと耐えられない。
そんな私の願いもむなしく、悪魔ストラスは何ら調子を変えることなく、淡々と言葉を告げる。
「お前の父は、自ら死を選んだ。もうこの世にはいない。」
いとも簡単に、私は発狂した。
「いやぁぁぁぁっっぅあぁぁっ!!!」
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