Which Guy, Boys?
それからカートは電話をいくつかかけた。
欠けているドラマー探しをする為だ。
場所は相変わらずバーガーショップのままで長居するためのバーガー代はジェシカに肩代わりして貰った。
窓際の席とは違う4人掛けのテーブルで待つ。
「最初に呼んだ奴は大本命だ。ドラマーとしても俺のダチとしても長い。腕がピカイチ。」
「そいつで決まるかな?」
「ただまぁ、酒癖の悪さはネックだけどな。シラフのうちに演奏しちまえば問題ない。」
丁度その時、ドアを開けるベルの音が聞こえた。
入り口がよく見える席に陣取ったのでその姿はよく見えた。
「おい、ありゃ・・・」
その風体はボロいコートを着て指抜きの手袋を嵌めた少し太った小汚いおっさんだった。
「ありゃあ・・・グランジファッションだな。」
「いやいや、ドラム叩いている場合じゃないって格好だぞ。」
ヒソヒソと話しているとおっさんはカートを見つけると少し輝いた眼差しでこちらのテーブルげ来てカートの対面に座った。
「おい、ライブやるんだろ?いくら貰えるんだ?昨日から何も食ってないんだよ。酒に奢ってくれよ」
鼻が曲がりそうな口臭だ。
「お前、どうしちまったんだよ?いつものブランドモンはどうしちまった?」
「そんなもん早くに質に入れたよ。酒を買う金が欲しくてな。で、いくらくれるんだよ?」
「ドラムを最後に叩いたのはいつだ?」
コーラを啜りながら俺は聞く。
「もう10年以上叩いてねぇよ。俺は早く酒が飲みてぇんだよカート。頼むよ。」
俺とカートは顔を見合わせた。
お酒って怖い。少しだけチビッたね。
「すまないが、他のドラマーがもう決まったんだよ。」
「おいカート!頼むよ!」
「まぁ、折角御足労願ったんだからこれで酒とそこでバーガーでも買っていきな。」
そういうとカートはおっさんになけなしの20ドルを手渡した。
「ありがてぇ!なんかあったらいつでも呼んでくれよな!」
「ああ。頼りにしてるぜ親友。」
おっさんはバーガーをテイクアウトして街へと消えていった。
「なぁ、酒を飲まないドラマーの友達っていないのか?」
「まぁ・・・次は大丈夫だ。酒もタバコもやらねぇ神経質な男だからな。メールは返ってこないが・・・」
そういうと丁度カートのスマホが鳴った。
一緒に覗き込むとそこには男の返事ではなかった。
“こちらはヘッドハック精神病院です。只今この患者は隔離病棟で適切な処置を…”
それを呼んだところでスマホの画面を切った。
「どうなってんだよ!俺のダチ共は!」
「それまで知らなかったんなら別にダチって程でもなかったんじゃないか?」
「クソ!」
その時、また入り口のベルがなった。
見ると、清潔そうな格好で頭を短く刈った男がカートを見つけた。
「よぉ!カート!」
「おい!フランシス!来てくれるとは思わなかったぜ!」
カートは立ち上がると手を握って抱き合った。
「弟君も久しぶり。覚えてるか?」
「ほら、俺がバンドしてた時に一緒にやってたドラマーのフランシスだよ!」
「あ!思い出した!ガキの時に膝に乗っけてドラムの練習した兄ちゃんじゃん!」
俺も同じように手を握り抱き合った。
確かカートが高校生の時に組んでいたバンドでオヤジと母さんが死んでバンドを辞めるまではよく家に遊びに来たもんだ。
「ドラムは相変わらずやってるか?」
「当たり前だ!この前もフェスで観客を鳴らしてやったぜ!」
カートとフランシスは笑い合う。
「ところで、もう一人の弟君はどうした?ほら、太っちょの。」
「ブライアンな。あそこで寝てるぜ。」
指差した先にいるブライアンはようやく起きて遅めの朝食にありついていた。
「よく肥えたな!」
「俺の給料全部があいつの腹ん中だ!」
ジョークを言って笑い合う。
席に座ろうとした時、ふとまだ帰っていないジェシカが目に留まった。
その目は嫌悪感を露わにしていた。
あまり見たことのない目だった。
「お前のためならいつでもドラムを叩いてやるぜ。日程は?」
「明日の夜だから今から練習して夜はモーテルで一泊だな。」
「よし!じゃあ久しぶりにブライアンと話がしたいから2人で一室を抑えてくれよ!」
「任せとけ!特上なのを用意してやるよ!」
「あら、ごめんなさい。」
ジェシカはカートの肩に手を置いた。
「ごめんなさい。ミスターフランシス。もうドラムは決まっちゃったの。」
「おい、ジェシカ・・・」
「決まったって誰にさ?」
フランシスはそういうとジェシカは手を胸に当ててこう言い放った。
「私ですわ。ミスターフランシス。」
フランシスは面白くない顔をすると席を立った。
「おい!フランシス!」
「また連絡してくれよな!」
そのままドアを出て帰っていった。
カートは席に座ると少し怒った形相でこう言った。
「ジェシカ!なんてことしやがる!邪魔すんじゃねぇ!」
「あら、ブライアンがフ◯ックされる邪魔しちゃったかしら?これは失礼。」
「は!?」
ジェシカは俺の向かいの席へと腰掛ける。
「彼はゲイよ。それもブライアンを狙ってる。」
「なんでそんなことが分かんだよ!」
「女の勘。それと大学生時代にゲイの男の見極め方も教わったわ。彼がブライアンを見た時なんて獣のような眼だったもの。」
ブライアンを見ると丁度朝食を終えてゲップをしながら口元をナプキンで拭いているところだった。
「その女の勘とやらで、明日のライブはパーだ。」
カートはタバコに火をつけた。
「ドラマーならいるじゃない。」
「どこに?」
「私が。」
数年後、彼女の勘は当たりヤツはちょっとしたニュースになったが、
ここに書くにはシリアスすぎるので省略する。
ロックがくたばるその日まで! シナミカナ @Shinami
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