LET’S JAM! BOYS!
「まぁ、カクカクシカジカでライブハウスで
カートは左手の人差し指と中指にタバコを挟んだまま、余った指で水が入ったグラスを取り、飲む。器用な奴だ。
「OK。なるほどね、状況が大体分かったわ。」
ジェシカはいくつ目かのパンケーキを平らげてナイフとフォークを皿の上に並べた。
「それで、あんた達は何がしたいの?」
「何がって・・・ええ・・・?」
即答出来ない事に自分が驚く。金がなくて家賃が払えないから夜逃げをして・・・それから・・・?
「なんかあんた達はどこぞの箱で演奏するからって少し調子に乗っているようだけど、そこで一回演奏したからって何も解決はしないんじゃない?」
ジェシカは俺の顔を見て言い放つ。昔から知っている怒っているようにも呆れているようにも見える顔だ。
目を逸らしてカートに意見を聞こうとすると、ジェシカは素早く両手で俺の頬を挟んで顔を向け合わせる。
「あんたに聞いてんだけど。」
「・・・ごめん。」
ジェシカはため息をつくと、両手を離す。
大して強く触っていた訳でもないが、混乱からか俺は両方の頬を触って顔が崩れちゃいないか確かめた。
「まぁ、あんた達の両親にはお世話になっているから家賃くらいは待つわよ。でも、そんなになる前にどうして親に相談しないの?」
「親?俺たちの?」
カートは目を丸くしておうむ返しのように聞く。
「う、うん。」
「カート、少し連れションをしよう。」
俺はそれ以上は有無を言わせずにカートをホテルに女を誘い込む紳士のような手付きで腰に手を回してトイレへと連行した。
「死んでるのにどうやってパパとママに聞くんだよ!」
カートはトイレでさっき言いそびれた言葉をさっきまでコークだった物と共に便器に放った。
俺は上下に揺れながらため息をつく。
「ごめん。違う。俺が言ってないんだよ。」
「何がだよ!?」
ジッパーを上げようとすると危うく息子を巻き込みかけた。
一足先に洗面所で手を洗いながら、鏡を見て自分に言い聞かせるように告げた。
「俺たちの親が死んだって、まだ彼女に言ってない。」
「何でだよ!?何年前に・・・いつからだよ!?」
「親父と母さんが事故に遭って、病院で死んで、それから今までずっと。」
カートは洗っていない手で自分の額を抑えた。
直ぐに過ちに気付いて、洗面所で手と顔を洗った。
鏡越しに俺を睨んでいる・・・ような気がする。
「何でだよ?」
「少しは分かるだろ。」
「言わねえと分かんねえよ。」
「・・・彼女の母親が亡くなったのもその少し前だったから。言い出し辛かったんだ。」
カートは壁に取り付けられた機械からペーパータオルを抜き取るが、たった4インチ(約10cm)だけが手元に残って無くなった。
それをすぐ下のゴミ箱に投げ捨てる。
「・・・他意はないんだな?」
「・・・ああ、俺が感謝祭の料理として出されるくらいチキンなだけだ。」
「なら気が済むまで付き合ってやるよ。」
「悪いな。」
カートは顔を鏡で確認するとホールに戻る。
それを俺は金魚のフンのように付いて行った。
席に戻ると未だに天井を仰ぎ、座りながら寝ているブライアンの顔には紙ナプキンが敷かれていた。
口元にある端の方がイビキと共に少しだけ捲れ上がる。
さっきまでしていた話を考えるとかなり不謹慎なように思える。
だけど、俺とカートはこれがジェシカのジョークで何の悪気もない事はよく知っていた。
カートは先に席の奥に着くと俺は手前の、ジェシカの目の前の席に座った。
「ドクター、ウチの弟の死因は何ですか?」
少し演技臭くカートは半べそをかくフリをしてジェシカに尋ねた。
「肥満ですな。それに性病と臆病も拗らせていたようで。」
それから、少しだけの静寂。
空調と外で走る車の音が数秒だけやけに大きく聴こえた。
少しだけコップに残っていた生温いコークを一気に煽って言い放つ。
「長年拗らせていた童貞がようやく治った矢先に・・・残念だ。」
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