CALM DOWN, BOYS.

窓際にあるテーブル席で三人の男が座ってバーガーを貪っている。


カートは窓の外にいる帰宅中であろう背広姿のサラリーマンをどこか寂しげに見つめている。

俺はスマホを片手に持っているが、友達に連絡しても良い返事がなく、かと言って諦めきれずに画面のライトが消えたスマホをただ握っていた。

ブライアンは両手に持ったバーガーを交互に食べているが、金欠でいつものスイーツが頼めなかったため表情は少し悲しげだ。足りない分を何とか補おうと、3つ目のポテトを注文しにレジへと消える。


全体的にはクソみたいな状況だが、カートは背負っていたギグバッグから薄い青色のストラトキャスターを取り出してチューニングを始めた。


「ここで演奏して小銭でも集めるかい?追い出されるぜ。」


「こんなところではやらんさ。最近は弾いてなかったからチェックしているだけだ。」


カートは弦を卓上にあったナプキンで拭き、ネックの反りを調べ、ボディとネックとヘッドをギグバックに入っていたクロスで拭き上げる。


コードをアルペジオで一つ鳴らすと呟く。


「こいつを質屋に入れんとダメかもな。」


「カート!」


冗談だ、なんて呟いてギターを大切そうにギグバックへと直す。


「親父と母さんが死んだ時に俺たちは誓ったろう。死ぬまで音楽を演るやる。俺たち三兄弟で、だ。」


「すまなかったよ。くだらん冗談はもう言わねぇ。」


「二度と言うなよクソが。」


気まずくなって二人して窓の外を見る。夜とサラリーマン達。少しのカップル。みんな幸せそうだ。

俺たちだってカートが働いている間に遊んでいた訳じゃ無ぇ。素行も悪くした覚えがねぇが、何故かいつもクビになる。

事業の縮小だとか、人員削減とかでクビの候補に俺の名前が挙がる。

そして、そのことに対して抗議もせずにただ従い続けて割を食っていた。


「ふぅ・・・へっへっ。」


ブライアンが空気も読まずに笑いながら席へと着く。

注文しに行ったポテトも持たずに手ぶらで天井を見つめる。


「さっきさ、ポテトを注文しに行ったんだけど財布にもうお金がなかったんだよね。」

「それで、店員が美人で優しそうな人だったから素直に金がないって言ったらバックヤードに連れて行かれたんだよ。」


「「ほう。」」


視線が窓からブライアンに向けて椅子の背もたれに預けていた身体を起こした。


「いや、大した話じゃないんだけどさ、そこで・・・彼女と話し合ったんだな。」


「『赤ちゃんは何人欲しいか』って?」


「『お兄ちゃん達に聞いてみないと分かんない!』だろう?」


「そんな感じかな・・・。」


俺たちの顔を見るわけでもなく、さっきの甘い記憶を反芻するような表情で続ける。


「それでさ、近くにあるライブハウスに知り合いがいるらしくて、明後日の夜にバンドの空きができて誰か楽器のできる人を知らないか?って聞くもんだから。」


「「僕イク!!!だろう?」」


「そこは・・・その通りだったね。」


半笑いのブライアンの背中を叩く。


「ようやく男になったなブライアン!仕事まで取ってきちまって!」


「祝いだ。これでシェイクを飲みな。」


カートはブライアンに数ドル渡す。だが、ブライアンはそれを丁寧に返した。


「ここでお腹を冷やしちゃ演奏に支障があるかもしれないし、遠慮するよ兄ちゃん。」


ブライアンがレジの方へと向いて手を振ると、美人な店員が手を振りかえすのを遠目に見えた。


「ちょっと薬局まで行っててもらっててさ、やっぱりデブだとLサイズは入んなくて。ちょっと話してくるよ。」


ブライアンがレジ裏のバックヤードへと店員と消える。

カートは水を飲んでタバコに火をつけた。


「これでチェリーはお前だけだな。」


「うるせぇやい。」

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