22
レイラの首元で青い小さな星がきらりと光る。
「ふふ」
ルチアーノからもらったネックレスは、レイラの一番のお気に入りになった。
母から譲り受けた高価な品でも、父から与えられた珍しい品でもなく。ロイドが作ったレイラ好みのものでも、トマが探したレイラ好みのものでもなく。
ルチアーノからもらった、このかわいらしいネックレスがレイラの一番の宝物だ。
「お返しどうしよう…」
最近のもっぱらの悩みはこれである。
ルチアーノがレイラを想って選んでくれたなら、レイラもルチアーノを想って選びたかった。けれどまだこれだ!というものに出会えていない。
「なにがいいかしら…ルチアーノ様に似合うものがいいわよね?」
「なにぶつぶつ言ってるんだ?」
「あらトマ、なんでもないわ」
頬杖ついて憂い顔だったレイラは、きょとんと不思議そうなトマに首を振る。
だってルチアーノへのお返しはレイラがひとりで選んで決めたかったから。
***
しかし侯爵令嬢がふらふらウィンドウショッピングに出るわけにもいかないし、『私』の世界のようにネットで検索できるわけでもない。
手詰まりに陥ったレイラは父に相談した。
そして紹介されたのが彼だった。
「はじめまして」
「ええ、はじめまして。レイラ嬢」
くせのある黒い髪にエメラルドのような明るいグリーンの瞳。ロイドと同い年だそうだが、ちっとも紳士らしくない。
上質な服を着ているのにどこか粗野な雰囲気の彼は、レイラを見るなり上から下まで視線を動かした。
「なんですの?」
「いいえ、お美しいなと思ったので」
なんて白々しい言葉だ。
男はレイラに欠片も興味を持っていなかった。
けれどそれはレイラも同じのため、溜め息ひとつで許してやる。指摘はしない。
「隣国から留学に来ているそうで?」
「そうです。侯爵に紹介状をいただいて、いまはこちらの中央学園に通っています」
「向こうでは商会を営んでいるんですって?その歳ですごいわね」
「侯爵にお目をかけていただいたおかげでなんとかやっている小さな商店ですよ」
「それ謙遜のつもり?お父様がお力添えするなんて将来恐ろしいわよ。トマとも会ったんでしょう?」
「はい、ご紹介いただいております」
「…………」
「…………」
「………怖っ」
「ぶはっ!」
いきなり男が吹き出して、レイラは目を丸くした。
「あんた変わってるな?さすがあの侯爵様の娘だぜ」
「あなたもね。それよりわたくし、ほしいものがあるんだけど」
「ええ、伺っておりますよ」
レイラは首にかけられた青い星のペンダントを見せながら、ルチアーノにお返しの品を用意したいことを告げた。なにがいいか迷っていることも。
「公爵家のご子息なら欲しいものはなんでも手に入れられるだろ。それならあんたにしか用意できないものをあげればいい」
「わたくしにだけ…」
「けどあんたの好みじゃ男向けではないよな」
「え、待って、わたくしがゆめかわいいものが好きだってあなた知っているの?」
顔を上げたレイラに、相手は呆れたように肩を竦めた。
「当然だろ?あんたがお父上におねだりする度に、うちの商会に無理難題な注文が入るんだから」
そんなこと知らなかった。レイラは唖然とする。
「おかげさまで随分儲けさせてもらってます。大丈夫。なんだって用意致しますよ」
平然と受け入れる男にレイラはますます驚いた。そして納得する。これはお父様に気に入られるはずだ、と。
「ねえ、じゃあ――…」
短い時間、男と話をしただけでレイラの悩みはあっさりと解決された。
「職人には頼んでおくから、店から連絡が来たら使用人にでも取りに行かせて」
「わかったわ」
「大丈夫。男はお揃いとか大好きだから」
「ふふ、ルチアーノ様もそうかしら?」
「もちろん」
笑って頷く男に、レイラは「ねえ」と声をかけた。
「あなたにはないの?欲しいもの」
「オレ?」
レイラの問いかけに片眉を上げた相手は、にやりと悪く笑った。
「あるよ、欲しいもの。向こうの国で一番美しいものだ」
男は恙無く手配を進めてくれた。
レイラが頼んだのは、ネックレスと対になるもの。
栞やペンなど無難なものはすでに以前お礼として渡したことがあったし、剣や馬の道具などは実用的なものをすでに揃えているだろう。
装飾品もどんなものがいいのかわからない。
そこで男が提案してくれたのは、懐中時計のチェーン飾りだった。
しかもネックレスと同じ宝飾職人に、同じ型でつくってもらうというこだわりぶり。石はルチアーノの瞳の色に近い黄水晶でお願いした。
ネックレスと同じ形の小さな黄色の星はきっととてもかわいいだろう。
レイラはすでに8割方満足していた。
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