09話.[それでもいいよ]

「ごめんっ、お待たせっ」

「別にいい、座れよ」


 洸に内緒で凛を呼び出した。

 別に苛立ちをぶつけるとかそういうことではない。


「なあ、どうなんだ?」

「ど、どうなんだと聞かれても……」

「洸とはどうなんだよ」


 仮に同性縛りで選ぶなら俺だって凛を選ぶ。

 ……普通ならそうなるはずなのになにを血迷ってか俺は洸を選んでしまったわけで。

 そして見事に振られて現在に至るわけだが、このなんとも言えない気持ちをどんな形であってもいいからどこかにやりたかったのだ。


「幸せ、だけど……」

「どういう風にだ?」

「だって、好きな子が僕とそういうつもりでいてくれているんだよ?」


 こいつ、自分から聞いておいてあれだが惚気やがって。

 最後にあんなことをしなければよかった。

 洸が家に帰る前に言っていたように、虚しくなるだけだ。

 そのせいで捨てられずにいるという状態で。


「亮も遠慮しないで洸に甘えたらいいんだよ」

「いいのかよそんなこと言って」

「洸は僕のところに必ず戻ってきてくれるから。僕も洸も亮にはお世話になったからね、お礼をしたいと考えるのはおかしなことじゃないでしょ」

「まあ、そう言ってくれるのは嬉しいけどさ」


 変に許可なんかされると抑えられなくなりそうで嫌なんだ。

 なので、まあまたカラオケにでも付き合ってもらうことにした。

 それぐらいだったらあいつだって笑って引き受けてくれることだろうから。


「ふふふ、洸のことを好きな人がいてくれて嬉しいよ」

「うわ……いまので凛のことを嫌いになったわ」

「それでもいいよ、いいから洸のことは嫌いにならないであげてね」


 なれるもんならなりてえよと内で叫んだが表に出すことはせず。

 こっちと洸のことを考えて言っているのは分かっているが、ナチュラルに煽ってくる凛のことが更に苦手になったのだった。

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