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 いつの間にかあたしは椅子の背もたれに身体を預けたまま眠っていて、店員さんに起こされた。なんでも二十四時間経ったら出なければいけない決まりらしい。昔は何時間でも、何日でも、いてよかったのに、そこは変わったんだな。会計を済ませてそとに出ると、皮肉なことに台風一過のあおい空が広がっていた。

 あたしの足はしぜんと新宿駅へ向かい、中央線に乗っていた。それはかつて、あたしの生命線だった。高円寺駅を降りると、景色はあのころよりずっとまぶしく感じられた。あたしのさいごの行き場所は、たったひとつしかなかった。

 かつては汚点紫であり、いっときはピンクセトラだった場所は、いまは紫でもピンクでもなく、落ち着いたクリーム色の外壁に変わっていて、いかにも今風の、おしゃれカフェだった。引き戸を開けると昔のような玄関とか畳はなく、奥までシックな黒色のカフェテーブルが並んでいる。壁とか天井を埋めていた畳も撤去されていた。

「いらっしゃいませ。一名様ですか?」

 いかにも芸大生といったかんじの、若くておしゃれなお姉さんがあたしを出迎えてくれた。あたしが昔はここの店主をやっていたなんて、思いもしないんだろうな。今となってはあたしも、信じられないよ。

「はい、ひとりです。ちょっと歩き疲れちゃって。すこしゆっくりしても大丈夫ですか?」

 あたしがそう尋ねると、お姉さんはあごに手を当ててすこし考え込んで、

「夜にはライブが入ってるみたいんですけど、それまでは大丈夫だと思いますよ!」

 と明るい口調で言ってくれた。

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