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 家にいるあいだ、うたの世話をしているときと、弟と会話をしているときを除けば、あたしは努めて音楽を聴くようにした。それも、セイコの曲ばかりを聴いた。セイコの曲は昔の曲とぜんぜん違った。あの怒ってるようなギターサウンドじゃなかったし、あの艶っぽい声じゃなかった。当たり前だ。あれからもう、十年ちかく経ってるんだから。セイコの最近の曲は、音楽はだいたいが打ち込みで、のどを絞ったような甘ったるい声でうたう。アイドルの曲に似ているな、と思えば、セイコが何を目指してるのか、すぐに分かった。「モーニング娘。」だ。セイコがレイプされたとき、彼女は「モーニング娘。」の曲を聴いていたのだという。それが彼女の音楽の原点だったのだとすれば、彼女はその原点に帰りたいんじゃないだろうか。またあたしの勝手な思い込みなのかもしれないけれど。

 あたしはそのことをセイコに教えたかった。きっとセイコは怒るだろう。それならあたしは、セイコを怒らせたかった。あのときみたいに、怒ってる音でギターを奏でてほしかった。怒ってるみたいなやり方で、セイコとセックスがしたかった。

 セイコは一度のどを潰したのだという。アイドルみたいな歌い方をしていたからだと思った。傲慢なようだけれど、あたしはセイコを救いたい。救えるはずだと思った。

 セイコはもう結婚していて、子どももいるらしい。プライベートはすごく充実してるんだろう。セイコのまわりには今たくさんのミュージシャンがいて、音楽もすごくすごく充実してるはずだ。でもそれは、幸せなんだろうか。あたしは、ひとりでいるときのセイコが、ギター一本で弾き語りをしているときのセイコが、好きだった、よ。雑誌の記事で、セイコが「いまはオケに合わせて歌えばいいから、ギターのときより楽」みたいに言ってるのを読んで、あたしはセイコに会いたいと思った。会うことを決めた。「子どもが産まれてもギターのほうがかわいい」と言ってたころのセイコに会いたいと思った。会えるんだって決めた。

 ねえ、セイコ。あのときみたいに、ひとりになりなよ。バンドなんかやめなよ。凜として時雨はいいけど、ピエール中野は大嫌いだよ。神聖かまってちゃんはいいけど、の子は大嫌いだよ。銀杏BOYZはいいけど、峯田和伸は大嫌いだよ。ピンクセトラはどうでもいいけど、セイコは、大好きだよ。

 あたしは「ミスAV」に出ることを決めた。審査員をしているセイコに、あのころの、セイコの音楽をぶつけようと思った。もう一度セイコの瞳のなかに、地平を駈ける獅子を見たいと思った。

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