第67話

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 雄叫びの様な声は無論、エリオスの陣屋じんやも急襲していた。


 公国陸軍の中佐はすぐ命令を出し、調査させた。


 しかし・・・。


 心中では察しがついている。


 フェーデはより疑念を強くした。


(・・・なんだったんだ?今の声?音?は・・・。・・・しかしもっと奇妙なのは、今の雄叫びの様な声にも、この壮年の男性陣はたいして、動揺せず、俺の事で苦悶くもんしているようだ。)


「・・・色々と思案したんだが、君の身柄は当分、私に預けて頂きたい。」


 重々しい口調でエリオスが切り出した。


「・・・しかし、中佐それでは・・・!!」


 咄嗟とっさにジオ・ニーズが遮る。


「・・・結局、あの少年と交換になるだけで、貴方の妹はカンカンに怒るだろうが・・。」


「・・・妹にはどう説明すれば・・・!?」


「・・・ううむ、難しいな・・!!」


(・・・一体全体、俺の過去に何が有ったんだってんだ!?肩章や徽章きしょう飾緒しょくしょを見る限り、軍隊でも相当高位にいる軍人と、貴族の筈だ。でもその2人が雁首がんくびそろえて、戸惑っている・・・。なんか気持ち悪いな・・・!)


 気弱で小柄な少年の実直な感想であった。


 もうここまでくれば、自身の過去が巨大な暴力装置である軍隊と、深く関わっていたことは誰でも容易に想像つく。


 しかしそんなことはろくでもないことに、巻き込まれるのも平仄ひょうそく(つじつま)を合わせるであろう。


「・・・難しいが、なんとかしてくれ。今は国家の一大事だ。ニーズ伯爵。」


 そこに、一人の伝令が闖入ちんにゅうしてきた。


卒爾そつじながら!!エリオス中佐殿!!先程の雄叫びは、賊将グレコによるものと判明。そして現在。この陣営目掛けて突進してきている模様です!!」


「敵の総数は!!??」


「・・・いや、それが・・・。」


「・・・どうした?何が有った?」


 軍監の貴族が聞く。


「・・・賊将グレコが一人、槍の突端の様に突っ込んできます!!」


「なんと!!」


 豪奢ごうしゃな天幕の中の空気が一瞬にして凍り付いた。

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