第68話

68


 突風というよりも、暴風であった。


 マンソン隊が必死になって駆けのぼった、石畳の坂を駆け下りてくる暴風があった。


 その花蕊かずいのような中心部に、衛星のように2つの影法師かげぼうしが、極めて俊敏に動き回っている。


 魔薬異能力者であり、グレコの廻りを必死に食い下がっている。


 先程迄の両端であった、鶴翼の陣の将士は置いてきぼりを喰らっており、ようやく(赤銅の魔獣)に引っ張られるように、驥尾きびし始めた。それほど丸太を持った元・公国陸軍大佐の両足は健脚けんきゃくであった。


 先程の壮年の将校が、「なんとしても、奴を食い止めろ!!バリスタ発射迄どのくらいだ


と叫ぶ。


「あと、最低でも1分は必要です!!」


 側近の下士官がすぐさま、返答する。


 そのやり取りが聞こえてか、聞こえずか、2人の魔薬異能力が次の瞬間に、グレコの両脇に散開さんかいした。


 2人とも呼吸を合わせたように、一瞬の狂いもなく同時に、長剣による斬撃ざんげきを魔獣に浴びせる。


 全身全霊ぜんしんせんれいの一撃であった。


 片方の剣士が、横薙よこなぎにくびを。もう片方の剣士は脛楯越はいたてごしに脛を狙った。


ガッキンンンンン!!!!!!!


 非常に鈍い音が周匝しゅうそうした空間を伝播する。


 首をねいった魔薬異能力者は、丸太で吹き飛ばされて行ったが、脛を払われたことにより反乱軍の首魁しゅかいは前方に蹉跌さてつし、両手を地についた。


「今が好機だ!!撃ち方はじめ!!」


 弩や長弓の斉射がグレコを襲う。


 しかし、この至近距離でも俄雨にわかあめに打たれた如く賊軍の巨擘きょはくの皮膚は、全ての弓矢を跳ね返した。


「・・・うぬう、この距離でも駄目か・・・!!」


 壮年の部将は荊冠けいかん(受難)としか思えない戦場に、嘆いた。


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