第65話

65


「なんで私が、あの幕舎から追い出されるのよ!!不可解ね!!」


アイバァは食堂の幕舎で、毛布にくるまり、白湯を呑んで体を温めていた。


 タオルで雨水と汗を拭い取っていたが、物凄い分量が必要だった。


 勿論シャワーでも浴びたい気分だが、此処ここは男ばかりの軍営地である。そんな贅沢が出来る訳がない。


(・・・とはいえ、なんでエリオス中佐もお兄様も、フェーデ君に意識が向いてたのかしら??さっぱり見当がつかないわ・・・。)


 彼女が気難しい顔をしていると、


「・・・お嬢さん!そんな顔ばっかしてると、眉間にしわが寄って、すぐに婆さんになっちまうぜ!!」


 ふいに声がした。


 そこには、さっきの若い3人の兵隊が居た。当番の時間の間の小休止であろう。


「・・・余計なお世話よ!こっちはこっちで色々、面倒事があるんだから、下らなく絡みたいなら、他を当たって頂戴!」


 アイバァらしくなく、珍しく殺気立っているが、声を掛けたのは、無論、諧謔かいぎゃく好きのトム・アンダーソンである。


「おい、トム!あんまり嫌がってるなら、遠慮しろよ!」


 ビルが自重を促し、ジェームスも心配そうにこちらを見ている。


「まあまあ、そう言わずにお嬢さん、ここは情報交換といかないかい?」


「・・・情報交換って何よ?べつにアンタらと交換する情報なんか無いわよ。」


「連れないねえ・・・!」


「その辺にしとけよ、トム!お前じゃあ何を、口滑らせるか、わかったもんじゃねえ!危なっかしくてしょうがねえ!!」


 堅物のジェームスの声に怒気がこもる。


「・・・情報交換って言うか、単純なおしゃべり位なら別に、良いわよ。私も最近限られた人間の中でしか喋ってなかったから。」


 消極的な顔をしながら、アイバァは首肯しゅこうした。

 

 が、次の瞬間、


 謎の雄叫びが聞こえてきた。鳥獣の様では無いらしい。


 その場の4人は立ちすくんだ。


 外は当然の様に重吹しぶいているだけだ。


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