第64話

64


 版築の床を小糠雨こぬかあめが、反射して上昇して霧の様に視界が悪い。


 怒号や喊声かんせい、雷鳴、などの環境音は対峙たいじしてる、下段構えの男とブライアンには聞こえて無いかも知れない。


「・・・次は、貴様から掛かってこい・・・。どうした?」


「・・・ならば、参ろう!!いざ、尋常に!!」


 下段の構えから、諸手もろて突きで元・公国陸軍軍曹の腹膜を、串刺しにする気の様だ。


 電光石火の早業はやわざで、ブライアンがダガーの鍔でなす、返す刀で下段構えの男の、右耳の下の頸動脈を狙う。


 それを瞬時にしゃがみながら、ヘッド・スリップでかわし、足刀関節蹴りで、左脚の膝関節に一撃する。


 少壮の城将は、一瞬、体勢を崩しよろめき、膝を砦の地面に付けた。


 ここぞとばかりに、袈裟斬りでブライアンの僧帽筋と胸鎖乳突筋と鎖骨の、三角地帯に大剣が吸い込まれていきそうになった時、未来の僭主は匕首あいくちを相手目掛けて、投げつけた!!!


 溜まらず、上半身をよじり何とか避けた・・・と思われたが、投げた諸刃の九寸五分はその軌跡に、鎖帷子くさりかたびらをも切り裂き、下段構えの男の左脇腹から右肩に掛けて、一条の出血が認められた。


 次の刹那には、下段構えの男が左足で、前蹴りを放ち、ブライアンを数ヤード後退させていた。


 これで、元、軍曹は無腰むごしになったが闘志は全く衰えない。


 後ろの魔薬異能力者達は色めき立ち、応援を始めたが2人とも今の動きは、良く見えていない。


 囲繞いにょうしている、反乱軍と鎮圧軍は全く見ていない。


 魔薬異能力者同士の、異次元の数合すうごうの攻防であった。


「・・・赤手空拳せきしゅくうけんになったが、まだやるか?」


「勿論だとも、無手でも殴殺おうさつすれば良いだけだ。」


 ブライアンの言う事はもっともである。これだけ魔薬異能力者は身体能力に依存するのだ。得物無くても大した問題では無い。


「ならば、遠慮無くまた、参る・・・ぐふぅ!!」


 下段構えの男が急にくずおれ、口唇から一縷いちるの血を流し、地面に膝をつき、長剣を杖の様に突き立てる。


 腹部から胸部に掛けて一筋の血の流れだけでなく、5つの陥没した跡が残っていた。


 ブライアンは凶器を投げつけた後の、一瞬に正拳突きを5発、お見舞いしていたのである。


「・・・もう内臓は破裂しているであろう。勝負有りだ。投降とうこうしろ。」


 反乱軍の次席を自認する男は、冷厳に言下に言い放った。



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