第62話

62


 現況の(赤銅の魔獣)はまさにスクワイア監獄、いな城砦じょうさいの正しく、「用心棒」であった。持っている丸太も、その突兀とつこととした偉容いようも。


 グレコの丸太による打撃を。なんとか持ちこたえた、大手門側の魔薬異能力者の3人組だが、このままではジリ貧である。


 その時、空が一段と暗くなったが、先頃からの生憎あいにくの天気なので、その場の将卒はほぼ気付かなかった。


 ロング・ボウによる曲射だった。


 普通は最前線が白兵戦をしているときは、後ろから応射はしない。同士討ちになる危険性が高いからだ。


 しかし、最前線が魔薬異能力者なら話しは違う。研ぎ澄まされた聴力によってどの部分に、射掛いかけけられるか、分明だからである。


 ただ、賊塁ぞくるいのトップの皮膚は堅く、やじりも通さなかった。しかし痛覚は走るらしく、


「・・・うぐうぐうぅうううるるるうるうぅぅぅ・・・!!!」


 と,うめいている。


「・・・なんと、この距離で騎射きしゃによる攻撃も,効かぬとは!!」


 ある、壮漢の部将は愚痴を垂れた。この弓の部隊の長なのであろう。歯痒はがゆい思いだろうが、グレコの皮膚は鋼鉄の様な、堅忍不抜けんにんふばつさを誇っているのであろう。


 3人の魔薬異能力者も一人一人が、十人力の猛者もさなのである。その3人でも防戦一方とは、(赤銅の魔獣)の二つ名もうなずける。しかも、この将軍が最前線にいたにもかかわらず、オーヴィル公国はその領土を、前大陸大戦では縮小してしまっている。世間とはいかに広い物なのだろうか。


 突如、大手門の横の樹叢じゅそうから、先程数十ヤードを鎧袖一触がいしゅういっしょく、裏拳でグレコに吹き飛ばされた、異能力者が飛び込んできて、石を握り魔獣の顎を目掛けて、正拳突きをお見舞いした。


 何かが砕けた、物凄い音がした。


 しかし、砕けたのはグレコのおとがいでは無く、異能力者の拳骨げんこつであった。


 今度は右手の丸太で腹土手っ腹を、強かに打ち据えられ、遥か彼方まで吹き飛ばされて行った。五臓六腑は頭陀袋ずたぶくろの様にひしゃげ、鼻腔や耳孔から血をき散らし乍ら無様であった。

 

 その間隙かんげきを縫うように、グレコの右腕側の脾腹、肝臓目掛けて大剣で刺突しとつしていく異能力者がいた。


「こっちが、お留守だぞ!!この怪物め!!」


 見事、横っ腹を捉えた!!


・・・が、元・公国陸軍大佐の外腹斜筋と内腹斜筋の緊張は、剣尖けんせんまでねた。


「な、なんと!!?」


 振り向きざまに、頬桁ほおげたに左のロング・フックを叩きこまれた、異能力者は近傍の三抱えは有る大木に背中を激突させ、吐血した。頬骨と頭骨とうこつと背骨は砕けただろう。


 事実上、4人中2人は戦力外となった。


 この鬼神の如き強さを誇る、剽悍無比ひょうかんむひの猛将を止める手立ては、鎮圧軍には存在するのであろうか?


まさに無人の荒野を行くが如しである。


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