第57話

57


 蜷局とぐろを巻いた蟒蛇うわばみの様な、黒雲の中央に霹靂神はたたがみが非情の鉄槌を鉛直に、たがねを降り下ろしたのであるのかもしれない。


 戦禍という悪癖と永訣えいけつ出来ぬ、烏滸おこがましい、円顱方趾えんろほうし(円頭方足・人間のこと)共め!!


 この天地開闢てんちかいびゃくからの弥栄いやさかの豊穣で神聖な大地に隠喩するとは!!壟断ろうだん藪沢そうたくとし、苫屋とまやしつらえ、偃鼠えんそ河に飲むも満腹に過ぎずに、蚕食鯨呑さんしょくげいどん兵乱ひょうらんに明け暮れる!饕餮とうてつの如き、強慾ごうよくさ!!


 この濁悪じょくあく糞袋共奴くそぶくろどもめが!!澌尽灰滅しじんかいめつしてしまえ!!


 と天魔波旬てんまはじゅん降魔ごうまの利剣で誅殺するかの、糾弾ぶりはまさに瞋恚しんい炎燠えんいくであろう。


 瘋癲ふうてん首将しゅしょうのマンソンの瞳孔は耿耿こうこうと稲妻の閃光で襲われ、咄嗟に押手おしで(左手)と蕃刀ばんとう眉庇まびさしを作った。


 轟音が寸暇すんかしむように、彼の内耳道に追い討ちをかける。


(何が起こったんだ!!??)


 と思った矢先に、膏肓こうこう(胸郭の部分)に拆裂たくれつしたような疼痛とうつうが、風巻しまきの様に駆け巡った。


「ぐはあぁあっぁ!!!!!」


 暴戻ぼうれいの指揮官は喀血かっけつしたかの如く肺腑はいふの、空気を軟口蓋なんこうがいを伝って嗄声させいとともに噴霧ふんむした。


 腰が砕け膝が折れ、勝手かって(右手)で地面に手をつき、というか正確には獅噛しがみついた。

 翻筋斗打もんどりうって倒れては無いが。青色吐息あおいろといきで全身、盗汗とうかん(ねあせ)だらけである。


 胸骨の中心の壇中だんちゅうという経穴の部位から、甲冑を衝撃が貝殻骨かいがらぼねまで貫徹したのだ。


 虎皮の襤褸ぼろの外套と、落とし刺しにした、外蕃がいばん彎刀わんとうの、朱鞘しゅざやこじりによって葡萄色えびいろの血溜まりにみおが出来る。


 眼前に球状の謎の物体が転がっていた。


(・・・?なんだ?カタパルトから発射された投石か・・・?いや、そんなことは無い・・この距離ならもう俺はお陀仏だぶつだ・・・。)


 春霖しゅんりんもやを作り視界はすこぶる悪く、見えづらいが琺瑯ほうろうきのような光沢がありその物体は金属のようだ。


(まさか鉄球を発射するカタパルトなんて聞いたことが無いな・・!)


 激痛に顔を歪ませながら、いざりのように接近し、脚下照顧きゃっかしょうこしてその物体をひっくり返した、次に瞬間・・・、彼は血の気が引き、全身の体膚の立毛筋が収縮し、あわち、人体で唯一目視できると言われている、臓器も吐気ときせねばならぬほど、戦慄わなないた。


「・・・こ、ここ。。ここれはまさか‼!人間の首???!!!」


 ス・アーの亡骸の謦咳けいがいに接して、遊侠ゆうきょうの指導者は驚倒し、後頭部を坡下はかの街路樹に、したたかにぶつけ、意識を失った。   

 その頭上に有った梢殺(うらごけ)から病葉わくらば榾柮こつとつが、斑雪はだれのように落下し彼の粗笨そほんな兜に散乱し、その一部が集簇しゅうぞくした。


 無論、反乱軍には反撃の狼煙のろしとなり、城塞から興奮の坩堝るつぼと化した、喊声かんせいが上がった。しかしマンソンには、乱離骨灰らりこっぱいこけらとしとなっただけのようだ。


 ス・アーとグレコでは膂力りょりょくに、蘭艾らんがいの差が有った事は言うまでもない。


 袈裟けさ斬りに行ったところをその数倍の速さで踏み込み、左のショートアッパーで、顎を破摧はさいし延髄ごと脊椎をもじ切り、数十ヤード向こうのマンソンの胸倉に、激突させたのである。


 グレコの右腕は松の根の如く、うねり、螺旋を描き保持された、真木撮棒まぎさっぽうのような丸太は微動だにしてない。


 刹那の搏殺はくさつであった。


 叢雨むらさめになってきた。霹靂神はたたがみは反乱軍にくみする心算なのだろうか。


 箕伯きはく(風神)は神通力を赭衣しゃい(囚人服)を着た過去を持つ将軍マンソンの体内にのみ発現させ、三舎さんしゃいているようだ。


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