第56話



 スクワイア監獄の勝手口ともいえる、搦め手門側では、未だに一進一退の攻防が続いていた。


 なんとか、反乱軍が塞内さいないに、侵入してこようとする鎮圧軍を、防遏ぼうあつしていた。


 今までの経験上、搦め手門側の鎮圧軍には、大型弩砲(バリスタ)、投石器(カタパルト)などの、大型の攻城兵器はあまりないようだ。


 雲梯が城壁の上部のかかりそうになると毎回、その場所で死闘が始まる、しかし今のところは、侵入者を一人も許諾きょだくせず、鉄壁の防守ぼうしゅ堅持けんじしている。


 そこにブライアンが、速足で張り出しにまで来た。


 周囲には、たおれた反乱軍兵士が、方々に物言わぬ骸となり、果てていた。


 一瞬この反乱軍の首領の視線が、死体の山ならぬ、海に注がれたのと時を同じくして、矢が放たれていた。


 ブライアンは自らの左前方の高所から狙撃された征矢を、一顧いっこだにせず、左手で掴み、おもむろに握り潰した。


 やじりには、附子ぶし(トリカブトの毒)が塗られており、目方、800ポンド(約360キログラム)の巨体のひぐまでも、刺されば頓死とんしするという。


 遺体を焦点の合わない両眼に、進入させつづけ、


 少壮の守将しゅしょう


「・・・なるほど・・・。エリオス中佐は最早もはや捕縛ほばくでは無く、我らを密殺するおつもりか・・・。」


 と、空虚な様子で独言を、吐いた。


 監獄の勝手口の近辺は反乱軍・鎮圧軍、るかるか大勝負をし、勇戦・敢闘し深紅の水溜まりが、幾つも現出している。落花狼藉らっかろうぜきの惨状ともいえるかもしれなかったが、反乱軍は我が本拠地を墨守ぼくしゅしている。


 鎮圧軍の軍楽隊から、今までの陣太鼓と喇叭らっぱかねの、演奏が微妙に変化した。


 それが、取り巻く自然環境の変化だろうか即座に判断したこの男は、矢張やは只者ただものでは無かったのかも知れない。


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