第55話

55


 要領ようりょうを得ないような微妙な面持ちで、端正な口髭くちひげを揺らしながら、


「・・・なにがって、量的な優位さですよ。反乱軍はブライアンとグレコの二人に対して、鎮圧軍は10人の魔薬異能力をようしている。その差は5倍ですよね?」


 エリオスは頭痛がしてきた。この種類の男はどうしても、好きになれない。


「・・・、まあ、数だけ見れば5倍ですな・・・。」


 と、目をそらしながら、認めた。


「ならば、スクワイア監獄を攻略するのも時間の問題ですな。」


「いや、そう簡単には行かないでしょう。」


 と、ぱねねた。


「・・・何故でしょうか?私のは万事、順調に鎮圧されていくとしか思えませんが。」


「まあ、伝令の報告を待ちましょう。」

前腕を組み、上腕を人差し指で叩いている。


「侵入者‼!侵入者!」


 エリオスとその壮丁そうていは、幕舎の出入り口を、見つめた。


 一人の門兵が転がり込み、しながら。


おそれながら‼1エリオス中佐、曲者くせものが我が陣地に先程、侵入した模様!たただちにひっ捕らえるようしましたが、鬼神の如き強さで、捕らえられません。首班は若い娘に、若い男が一人ずつです!!」


「何をやってる!!この馬鹿者が!!ぞく二人を捕らえられんだと!!??公国軍人の誇りにに掛けて」


「・・・掛けてもダメなものはダメなのよねえ・・!!」


 栗色の巻き毛にエメラルドグリーンの虹彩こうさいが輝き、腰の背後に短剣と長剣の中間くらいの長さの、差料を交差させ、全身、びしょ濡れで、真紅の鉢巻きはすでに赤黒く見え、その肌膚きふもいくつかのあざをこさえた、ひどい恰好の若い大柄な娘が、


「なに、言葉に詰まってるんですか?、こんな野郎ばっかのむさ苦しい軍営地に、水もしたたる良い女が推参すいさんしたからかしら!?感激して、言葉もでなくなりました?エリオス中佐!?」


「な・・!!お前はまさか・・・!!」


 エリオスと、立派な身形の壮丁は、異口同音に驚嘆した!!


「お、おい、!!この幕舎だけ板敷いたじきが敷いてあるし、なんか立派だな?偉い方なんじゃないのか?その方たち・・・!?」


 後ろから、金魚の糞のように、キャップを真後ろに被り、フォックス型のサングラスをカチューシャ代わりに掛け、真っ黒のウィンドブレーカーに、オレンジ色の胸に奇妙なマークが描かれたTシャツを着こみ、紺色のジーパンに白のスニーカーを履いた、やはり全身びしょ濡れの気弱そうな小柄な若者が、おずおずと進入してきた。


「!!!!!???な、お前はまさか!!!????」


 エリオスともう一人の壮丁は稲妻に打たれたように、固まった。


 間をおかず、さらなる乱入者が三人現れた。


「エリオス中佐ご無事ですか!!?おい!!お前ら大人しくお縄に着け!!半弓はんきゅうを構えてる兵士がお前らの背後に俺を含め、、三人居る!!もう逃げられないぞ!!


1秒・・・。


2秒・・・。


3秒・・・。


 呆然としているエリオスが勁草之節けいそうのせつを取り戻し、


「・・・おい!!やめろ!!ローレンス二等兵!!タイラー二等兵!!アンダーソン二等兵!!この二人は私の知り合いだ!!」


 と制した。


「・・・はっ!?そ、そうでありましたか!!?・・・って、ていうか、アンタあのときの!!??あ、やっぱさっきの少年はあの子だったのか・・。」


「あ、誰かと思ったら監獄に近づくなって注意してくれた、若い軍人さん!?兜をかぶってるから分からなかったわ。声で分かった。」


「あの少年!?」立派な身形みなりの男が、尋ねる。


「あ・・・いや・・・!!その・・。」エリオスが奥歯にものが挟まったように口ごもる。


「そう、それを言いにここまで来たのよ。」アイバァがめる。


 フェーデはあまりに色んな事が起こり右往左往している。


 びしょ濡れになって、重力の支配を受けた前髪を、き上げながら、双剣の使い手は、


「・・・そして、やはりここにいると思ったわ。お兄様・・・。」


 と、真顔で発言した。いつもの人をったような軽薄さは全くない。そして白金の騎士の重厚さとも違うように感じられた。


 幕舎の外は相変わらずの土砂降りで、風雨は無限の循環を繰り返していた。

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