第5章 魔薬の輸贏(まやくのしゅえい)

第54話

54


 疾駆していく戦車と騎兵に、一瞬我を忘れていたマンソンだが、


「・・・て、天佑神助てんゆうしんじょだ!!あの者どもに続け―――――!!!」


 と、彼らしく内股膏薬うちまたこうやくのいい加減な事言った。


 自然、最前線を迅雷じんらいのように切り裂いていく、その一団に征矢そやは集中し、勿怪もっけさいわいとマンソンは思ったのである。


 もう監獄の表門までは指呼しこの間であり、この間に誰かが割って入ってくれるとは夢にもおもわなかったのである。正直、少しばかりエリオスの事を見直していた。


 流石にグレコ隊は魚鱗ぎょりんの陣形に隊列している。


 その前に先程の一団が戦車を盾に、征矢を防いでいる。計5頭の軍馬も堅牢けんろう馬甲ばこうまとわれて、征矢は通さないようだ。


にじょう馭者ぎょしゃ車右しゃゆう車左しゃさで、6名、騎兵1名の計7名と、百戦錬磨の闘将とうしょうグレコが、一触即発に対峙たいじしている。


 監獄側の射兵の将校がその異様な雰囲気を感じ、馬甲と戦車に当たり征矢が無駄になるという判断と、咫尺しせき(至近)の距離でグレコ隊に誤射するという配慮から、


「撃ち方やめーーーーーー!!」

と下命した。


 先に声を発したのは、馬甲の陰に身を伏せていた、ひときわ大柄な男であった。

 

「・・・俺はス・アーという者だが、今までで自分よりデカい男に会った事が無かったが、賊軍ぞくぐんの将、グレコよ、アンタは俺よりも大きいな・・・」


 と最前線の戦場とは思えないほどのバカバカしいファースト・コンタクトであった。


 この男は、トム・アンダーソンとひと悶着もんちゃく起こした大男であった。相変わらず、眼低がんていから不気味な光を放射している。


「・・・グルルルルルゥゥゥゥゥゥぅゥゥゥ・・・・!」

 

 としか、グレコは答えない、いや、答えられない。

 

「しかし,魔薬の副作用は恐ろしいな!!海千山千うみせんやませんの猛将も今は見る影もねえ・・・!!」


「 グルルルルるぅぅぅウッゥウゥゥ!!!」


「俺もあと数年早く生まれて、アンタの下で縦横無尽に暴れてみたかったよ!!」

甲冑かっちゅう間隙かんげきから覗く、小麦色の鮫肌さめはだにドットの模様が見え隠れする。この男は魔薬異能力者のようだ。


「グルウルルるうぅうぅうぅ!?ぅうぅ???」


 ス・アーと名乗ったこの男は、歩荷ぼっかでも背負えなそうに無い、刃渡りが成人男性の背丈ほどある、両刃の長大な剣を抜剣し、正眼の様に構え、「俺の手力たぢからでこの大剣で斬り伏せれば,戦象せんぞうすら真っ二つよ!」


 と、がなりたて、口元には嗜虐趣味の色を作り、鋸歯きょしを光らせた。

 

「・・・ゥウゥゥウ・・・・・。」


 グレコも殺気を読んだのか、うめき声をめた。


 鎮圧軍も反乱軍も白兵戦の劈頭へきとうという事も有り、一同が固唾かたずを吞んで見守っている。


 周囲は雨音と衆籟しゅうらいだけになった。雷公らいこうも空気を読んだのか、鳴りやまっている・・・。


「ぎえええええええええいーーーーーーーーーーーーー!―!!」


 ス・アーが一気に踏み込み、猿叫えんきょうの様な声を上げ、袈裟懸けさがけけにグレコの頸根くびねを目掛けて、全体重をかけ、斬撃ざんげきで強襲した。


 一瞬、雷鳴がとどろき、稲妻が天空を飛竜の様に駆けた。


 ハイコントラストの、世界が一帯に瀰漫びまんした。





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