第53話

53


 からめ手側の物見櫓ものみやぐらからブライアンが指揮を取り始めてからしばらく経つ。やぐらの上からだと当然よく全体が眺望ちょうぼうできるが、その分、征矢の集中砲火を浴びる懸念から、彼自身も、その部下の将卒たちもそれを、しなかった。


 しかし、エリオスの知略により一気に攻めつぶされる危険から、櫓に立ったのであった。


(・・・もしかしたら、俺はドンドン、中佐の手の内にはまっているのか・・・!?)


 という疑念も湧いてきたが、せんい事だと振り切った。


 予想通り、搦め手門側は道が細く、羊腸ようちょう小径しょうけい迂回うかいしてきたので、攻城兵器も兵馬へいばもかなり少ない。


 多少、僭主せんしゅ安気あんきになった。


(これなら、持ちこたえられるかもしれぬ・・!)


 ただ、濠は最早、埋め尽くされ地面と、ほぼ変わらず、四時の方向、現在のブライアンの位置からは左手前方の高所からもかけられ、櫓や張り出しに居る将卒達は結構、苦しんでるようだ。


(俺が、搦め手門側から出張れば、一時的にでも寄ってたかって、攻撃してきている鎮圧軍を蜘蛛くもの子を散らすように、退けられるであろう。)


 とも思うが、何か脳裏に引っかかる。


 今までの戦闘を復習さらうと、やはりエリオス中佐は知勇兼備の賢将けんしょうだと思う。


 十重二十重とえはたえに策謀を駆使して、自軍を追い詰めてきている。運否天賦うんぷてんぷの戦略など決して選択しない。


 (ここで、裏口から進撃すると、中佐の思う壺ではなかろうか?)


 望遠鏡をのぞきながら僭主は、しばらく狐疑逡巡こぎしゅんじゅんしていたがその中間の妥協案だきょうあんである、搦め手門側の張り出しで指揮を取ることにした。


 側近の馬廻うままわり役にそう告げ、小走りに移動し始めた。



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