第52話

52


 異常な程、どうった足取りであった。


 むぐらから、体を出現させ一番、大きな天幕の陣屋じんやに向かって。アイバァは歩武ほぶを進める。


 流石に、フェーデが止めに入る。


「ちょ、ちょ、ちょっと、いきなりどうしたんだよ!!??こんな目立つ、行動取ったらすぐに捕まっちゃうじゃないか!!」


 小柄の少年の顔は蒼褪あおざめていて、彼女の両肩を背後から、鷲掴わしづかみにした。


「なに、触ってんのよ!エッチ!!」


 彼は彼女に手の甲で顔を払われ、覚束無おぼつかない足取りで蹌踉よろめいて、尻餅をついてしまった。

 

 といっても、仕方がない。つい先程、見つかったら捕縛されると同調していた、仲間がむしろ自分から発見してくれと言わんばかりに、無造作に公国陸軍の陣営に侵入していくのだ、力づくでも止めに入るのが正常である。


(・・・いきなりなんだ!!??気でもれたのか!!??彼女は!??)


 この前は、流石、若くして大陸を遊歴ゆうれき遊学ゆうがくしただけあって、利発な所も有るんだな、と感心したのが嘘のようだ。あの時は脳の反射が良いと思ったが、今の彼女は脊椎せきつの反射だけで行動しているように思える。


「おい!!そこ!!曲者か!!??」


「なんだ!!?なんだ!?」


「誰か居るのか!?」


 当然の如く巡邏兵じゅうらへいに発見されたようだ。


「言わんこっちゃない!!何やってんだよ!!馬鹿!!」


 フェーデは流石に唾棄だきすべく悪態をつく。

 

「・・・大丈夫、任せて、ちゃんと全部、計算済みだから・・・。」


 小声で、アイバァは肩越しに少年にさとした。


「エピは必ず助け出すわ。」


 その声は、高潔で碧空へきくうのように清涼で、白金の騎士のそれであった。


 彼の方はまだ困惑の色は隠せないが、いつぞやの(君はもうちょっと私を・・・っていうか他人を信用していいんじゃない?)


 という、女用心棒の言葉が去来し、動揺は少なくなっていった。

しかし、この型破りで破天荒な豨勇きゆうさ、稀覯きこうな行動はどう出るだろうか。


 彼女の肉体と精神を羈束きそくさせる物や人間はこの世に存在するか怪しいものだと、フェーデは、尻餅をついた状態で、彼女を背後から見上げるだけであった。


 篠突しのつく雨は、一向に止む気配は無い。


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