第50話

50


 からめ手門側も死闘の様相をていしてきた。


 左右を切り立った陵線りょうせんで、挟まれた監獄の勝手口は狭く、ほりも浅い。高さ15メートルほどの所から、反乱軍の射兵達がいしゆみや、長弓で徹底して反撃している。


 一台の衝車が、搦め手門に突撃せせられ、門扉にひびが入っている。


 跳ね橋を、折りたたむ時に固定していた綱を切断され、濠に渡されている。


 濠は元々は空堀だったが、今では土嚢どのうや、丸太が投げ込まれ、もう少しで渡渉としょう可能な程になるかも知れない。


 この激戦地を場違いな程の落ち着きぶりで、静観している男が居た。


 そうあの、眼帯の紳士である。


 彼は一本の千年杉の頂上部に近い所から、携帯用の遠眼鏡で戦況を監視している。


(なぜ、反乱軍が鎮圧軍をこれほどまでに、接近を許したか。ただでさえ激しい雷雨により、行軍が消音されているうえに、将卒と馬匹ばひつばいを銜わせ、その両者に更に草鞋を履かせたからだ。四時の方角からの攻撃も流石だ。いにしえの兵法通り、人間は9割が右利きだから、(刀剣、弓矢、槍、右足一歩前の半身からの方が攻撃しやすい)さらに、(スクワイア監獄は左右をがけに挟まれているために)常に鎮圧軍から見て右後方が高い位置になり、左前方が低い位置となる。最高のポジショニングである。


「・・・ここまでくると、マンソン隊の遅参ちさんもエリオス中佐の計算の内か・・・!?」


 眼帯の紳士は、流石に口から言葉が,こぼれ落ちた。


 あの一見無駄の様な時間に、エリオスは色々工作が出来る余裕が生じた。


(これは、思ったよりも、早く決着がつくかもしれんな・・・。私の出番は無いかも知れん)


 自分よりも若干年少の陸軍佐官に畏敬いけいの念を感じ、多いによみした。


 眼下では、吐瀉物としゃぶつや排泄物が撒かれたような、泥塗れの、両軍の将士どもが怒号や歓声、慟哭や、ときの声を上げて,死戦している。


 次の瞬間、眼帯の紳士の視界にもう一両の攻城兵器が、参入してきた。

現代の消防車の格好に酷似した「雲梯うんてい」である。


 台車に、梯子はしごが搭載されており、それを伸ばすと、城壁に梯子が掛かるよ うな、状況なるので鎮圧軍は、将兵を監獄に直接、投入することが出来る。


 間も無く、ブライアンも出張って来るだろう。


 その時どう戦局が変化するかだ。

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