第44話

44


 いとけない、少年の顔は酒皶しゅさ(赤ら顔)のように紅潮こうちょうしていた。


 アイバァがマンソンの片腕とおぼしき、と言ってた男の名は、ナッシュと言った。


 スクワイア監獄攻防戦ともいうべき、戦闘の火蓋ひぶたが切って落とされた、今でもナッシュはエピの首筋に、短剣を突き付けている。


 糧秣りょうまつや燃料を倉庫代わりに置いてある,幄舎あくしゃなので目立たずマンソンやナッシュには。重畳ちょうじょう(好都合)であったが、いかんせん狭すぎた。


 時折、見廻りの警備兵や、苜蓿うまごやしを取りに来る軍属、が進入したり、周辺をうろついていたが、今の所この、悪行は露見ろけんしていない。


 ナッシュは(・・・まったくマンソン将軍め、俺も公国陸軍の為、内乱鎮圧の為に戦闘に参加したかった・・・!)


 ・・・などと思うタマではなかった。


(・・・いやあ、今回の俺はラッキーだ。ガキの御守おもりも悪くねえ、あんなわけのわからねえ、命令が有るか!最前線は犬死にだ!)


 人格破綻者の上官と全く同じ感想であった。


 そもそもこの手の連中は、普段は一般社会には溶け込めず、零落れいらくし、怠惰たいだ貪婪どんらんにそして、甎全せんぜん(無為)として酔生夢死すいせいむししていくだけの、愚連隊である。


(マンソン将軍が生還してこなかったら、俺が、このガキを売っぱらって、娼妓しょうぎを囲おう・・・!!)


 と,狭斜きょうしゃちまた(色町)に繰り出す、決意迄していた。


 そんなことを考えていると、また、歩哨ほしょう警邏けいらしてきたようだ。


「・・・まぐさの残量、・・・良し・・・!。乾物かんぶつ、戦闘糧食も良し!」


すみたきぎの残量も・・・オーケーだ・・・!」


 灯台を持った、数人の番兵が定期的の見回りに来ているように窺窬きゆ(すきをうかがう)される。


「ビル・ローレンス将軍閣下!!第五兵舎は異常なしで有ります!!」


「・・・おい、それ、やめろ。めんどくせえなあ・・・次の幕舎に行くぞ!」


「だいたい。こんな辺鄙へんぴな、幕舎で異常なんか起こるかよ!!」


「職務に集中しろトム!!、こいつみたいにエリオス中佐に殴られるぞ!」


 ブリブリブリッ!!!!!


 奇妙な異音が第五兵舎の空気を制覇せいはした!!


「!!????な!!??、なんだ今の物音!!!??」


「俺も聞こえた!!鳥獣ちょうじゅうの類かも知れんが、注意しろ!!」


 ナッシュには、エピの顔が真っ赤になっていたのは、自分がした猿轡さるぐつわ所為せいかと、思い込んでいたが、それだけでは無かったらしい。


 次に第五兵舎の制空権せいくうけん復権ふっけんしたのは、誰にもニオイ覚えのある、典型的な悪臭であった。


「・・・おい!上官たちが今回は悪天候だから、狼煙のろしは上げられない。だから」


獣糞じゅうふんは少なめにしか、搬入してないって言ってたよな・・・!!」


「・・・ああ・・・っていうか、これは獣糞っていうか・・・明らかに人間の・・・!!」


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