第40話

40


時を同じくして、アイバァとフェーデは、道なき道をき分けて行った。国道の街道を南下しスクワイア監獄まで2マイル程のところまで来たが、鎮圧軍が道路を封鎖して、蟠踞ばんきょして、それ以上は進入できなかったので、草深くさぶかい、茂みを無理矢理、歩行するしかなかった。


 途中、狐狸こり猛禽もうきんにも出くわしたが、二本の佩剣はいけんを、接触させながら、女用心棒はただ、只管ひたすら、前進する。


 体中が麗春れいしゅんの若草の緑色の汁が、雨水とともに染みつき、固い枝に肌を傷つけ、泥濘でいねいにブーツを汚し、かなり酷い見栄えになっているが、フェーデは歩きやすくなっていた。


 この大柄な女剣士は豊かな腸腰筋ちょうようきん大腿筋だいたいきんで雑草を、足の裏で敢えて打擲ちょうちゃくし、後塵こうじんはいする小柄な青年の、行き先を楽なものにしていたからだ。


 普段は、ふざけたユーモアや,ばかばかしい、冗談や皮肉が多いが、真剣な時は心根こころねも白金の騎士に戻っているように、感じられた。


(この女の行動原理は何なのだろうか?白金の騎士という一面は、あながち、狂言ではないようにも思えるし、普段の厭世的えんせいてきで軽薄な一面も嘘は無いように思える)


 自分自身も良く分からない記憶喪失の若者は、この娘を見ていても人間という者は不思議で不可解な物と、感嘆かんたんせざるを得ない。


 異常な程、強慾ごうよくで金銭の事に執着する面が有るかと思えば、何時、なんどき、己の命を捨てる覚悟をも、任侠の精神もあわせ持つ。本来ならこの二つは二律背反にりつはいはんして決して並び立つはずがない・・・。


・・・のだが。この女剣士には両面が真理として、屹立きつりつしている崖の様に、聳立しょうりつしてるようにしか、思えない。


 烈風れっぷうといって良い風と、散弾の様な雨水は二人を強襲きょうしゅうし続けるが、そんなことは気にもしてられない程、エピの身を案じていた。


ドオオオオオオォォォオオオーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!


 物凄い轟音が二人をおののかせた!!!


「・・・どうやら、始まったみたいね・・・・。」


「・・・ああ、そのようだな・・・。」


おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!


 次に地鳴じなりのような、馬鹿声ばかごえが二人の鼓膜を、振動させた。


「これで間違いない。ときの声ね・・・!!」


「戦端が開かれたんだな・・。これから、大量の人死ひとじにが出るだろう・・・。」


 アイバァは右手で、一抱え程有る高野槙こうやまきの幹に置いた・・。


 一瞬、沈思黙考ちんしもっこうしたが、何を思索しているのだろうか・・・。

 

 数秒、待ったが、


「兎に角、今は時がしい。エピを取り戻さなければ、二人の里親に合わせる顔が無い・・・だろ・・・!?」


 前に居る娘の左肩に右手を置いた。


 すぐさま、女用心棒は克己心こっきしんを取り戻し、純朴じゅんぼくな青年の右手を、強悍きょうかんな材木の天稟てんぴんをもつ、樹木から離し、厳しく払った。


 そこには白金の騎士の凛冽りんれつさ、勁烈けいれつさが、気炎きえんにより標榜ひょうぼうされていた。

 

 この漣漣れんれんたる雨量でも、彼女の胸中の悍威かんいな火炎は、果たして鎮火出来るのであろうか・・・?









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る